[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第163回 MOOCs で世界中の大学にオンライン留学しよう!

「実験医学2024年1月号掲載」

海外留学はスキルアップやキャリアアップにとって非常に有効だ.しかし,留学するには試験をパスし,渡航費や生活費の工面もしなければならず,なかなかにハードルが高い.また,昨今のコロナ事情や円安問題,言語や文化の違い,安全面が不安といった理由で,留学に興味はあるが行動に移せない人は多いのではなかろうか.そこで本稿では,もっと気軽に留学先での学習を体験できる方法として「MOOCsムークス(Massive Open Online Courses)」を紹介する.

MOOCsとは,世界中の大学や企業が提供する質の高い講義を,基本的に無料で聴講できるサービスの総称である.使い方はとても簡単で,講義公開用のWebサイト(プラットフォーム:PF)にアクセスしてユーザー登録後,興味のある講義(あるいは講義がまとめられたコース)を履修登録するだけだ.インターネットと端末さえあれば,誰でも学ぶ機会が得られる.

われわれがMOOCsを薦める1番の理由は,動画中心の学習コンテンツだからである.通常の講義動画だけでなく,CGを駆使した解説動画もあり,1人で教科書を読むよりも理解しやすい.また,1講義が比較的短いうえ,途中で止めて何度も見直すことができ,自分のペースで学習を進められる.実験の合間や通勤通学などに利用するのにちょうどよい.

MOOCsが取り扱う学問は,自然科学のみならず多岐にわたる.特に,データサイエンスやコンピューターサイエンス,AIといった分野が人気のようだ.なかには,Microsoft ExcelやImageJ,Pythonなどの使用方法を学ぶコース,科学論文や助成金申請書の執筆方法を学ぶコースなど,研究活動に直接的に役立つものもある.一から教材を集める必要がないので,新しい分野の学習にも挑戦しやすい.

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「科研費獲得の方法とコツ 改訂第8版」

また,講義の多くは英語であるため,聴講する習慣をつけると,書物からは得られない,発音やリズムといった語感の理解が深まる.辰本は,専門分野の講義と科学英語の使い方を学ぶ講義を受講したことで,英語の論文読解や講演聴講のスキルが上がったと感じている.

さらに,修了要件を満たすと,履歴書に記載できる公的な修了証明書が発行される.日本での価値は不透明だが,海外には修了者だけが参加できる就活コミュニティがあったり,マサチューセッツ工科大学(MIT)の提供する講義で好成績を修めた少年がMITに学費免除で入学した例があったりと,就活や進学に役立つようだ.また,修了要件が一般的なMOOCsより厳しいうえ,分野が限られるものの,現地留学より低コストで学士や修士の学位を取得できるオンライン大学プログラムもある.

数あるPFのうち,どれを選べばよいかわからない方におすすめなのが「Coursera」だ.スタンフォード大学発祥の世界最大PFで,1万以上のコースを提供しており,興味のある講義に出会える可能性が高い.また,日本語字幕対応の講義もあるため,英語で専門分野を学ぶ第一歩にもってこいである.さらに,専用アプリの機能が充実しており,端末に動画をダウンロードしてオフライン視聴できたり,字幕の文章をタップするとそれに対応した部分にとんで動画を再生してくれたり,進捗状況に合わせて学習計画を提案してくれたりするのも嬉しいポイントだ.

良いこと尽くめのMOOCsだが,自由度が高い反面モチベーション維持が大変であり,修了率は10%前後と対面授業よりも低い.また,その場で質問ができず,疑問点をすぐに解消するのが難しい.これらの問題解決には,励まし合いながら議論を交わせる仲間をつくることが有効だろう.本稿を読んでMOOCsに興味をもったそこのアナタ! 周りの友人とともに,MOOCsを活用して世界中の大学に留学してみてはいかがだろうか.

辰本彩香,吉田希生(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)

※実験医学2024年1月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2024年1月号 Vol.42 No.1
AI・シミュレーションによる科学的発見は可能か?
複雑な生命現象・疾患の未知なるメカニズムを解く

山本陽一朗/企画
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