発生や恒常性維持,がんの進展などの高次生命現象を制御するHippoシグナル.発見から12年,さらに広範な生命機能・疾患に関わることが明らかになっています.新たな創薬標的として製薬研究者も必見です!
目次
特集
発生・器官形成、がん悪性化に関わる Hippoシグナル
創薬標的として高まるYAP/TAZへの期待
企画/仁科博史
概論 ―多細胞社会を制御するHippoシグナルと標的分子YAP/TAZ【仁科博史】
細胞内情報伝達経路Hippoシグナルは,標的分子である転写共役因子YAPやTAZの制御を介して,細胞増殖や細胞死を含む多彩な細胞応答を誘導する.器官サイズやがん抑制などの高次生命現象を制御することで注目された.さらに,本シグナルは,細胞張力や細胞競合,幹細胞の維持・分化など多細胞社会における現象にも中心的な役割を果たしていること,広範なヒト疾患にも関与することが明らかにされつつある.本特集では,生物学, 医学, 薬学の観点から,わが国の代表的な研究者にHippoシグナルと標的分子YAP/TAZの最新の研究成果を紹介していただく.
細胞張力と3D臓器形成【古谷-清木 誠,浅岡洋一,仁科博史】
われわれの体内の細胞は細胞外環境から絶えず張力などの物理的な力を受けている.近年,こうした力学的シグナルが細胞の増殖・分化・移動などの応答に大きな影響を及ぼすことが明らかとなっている.一方で,細胞は細胞外環境を変化させることにより組織の物理的な性質を維持している.現在までのところ,力学環境の維持機構(メカノホメオスタシス)にかかわる分子群を統御する機構については不明な点が多い.最近,われわれは転写共役因子YAPが細胞や組織張力の制御を通じて三次元的な臓器構築・維持に関与することを見出しており,YAPがメカノホメオスタシスを統御する鍵分子として機能することを見出した.
Hippoシグナルによる細胞競合の制御【佐藤卓史,佐々木 洋】
細胞競合とは,ショウジョウバエで発見された適応度の違いにより弱者を排除する細胞間コミュニケーションである.Hippoシグナルはショウジョウバエの細胞競合にかかわる主要なシグナル伝達経路として知られているが,脊椎動物の細胞競合における関与は示されていなかった.われわれは最近,マウス線維芽細胞を用いた解析から哺乳類においてもHippoシグナルが細胞競合を制御することを発見し,その機構はショウジョウバエでの細胞競合と類似していることを明らかにした.本稿ではHippoシグナルに焦点を当て細胞競合を概説し,今後の展望について考察する.
腸上皮恒常性におけるHippoシグナル伝達経路の役割【今城正道,西田栄介】
腸上皮は幹細胞による組織更新が活発な組織であり,成体幹細胞研究の優れたモデルとなっている.また近年,本邦においても大腸がんや炎症性腸疾患の罹患数は上昇傾向にあり,腸上皮の恒常性を制御する機構とその機構の破綻が疾病をもたらすしくみの解明が喫緊の課題となっている.最近になって,器官サイズを制御するシグナル伝達経路であるHippo経路が,腸上皮恒常性の維持に重要な役割を果たすことが明らかになってきた.本稿では,この腸上皮におけるHippo経路の役割について,最新の知見を交えながら議論したい.
がんにおけるHippoシグナル伝達系異常【関戸好孝】
がん細胞のシグナル伝達系異常としてHippoシグナル伝達系が注目されている.肺がん,肝がん,悪性中皮腫など,多くの種類のがんにおいてHippoシグナル伝達系の脱制御およびYAP/TAZの恒常的活性化がさまざまなメカニズムによってひき起こされている.同時に,これらの異常ががんにおける多彩な悪性形質獲得の本質的な要因であることが明らかとなってきている.Hippoシグナル伝達系の制御異常の解明は,新たながん治療戦略につながる可能性を秘めている.
ピロリ菌CagAが主導する胃発がんスパイラルにおけるHippo経路の役割【髙橋昌史,畠山昌則】
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染は胃がんを含む胃粘膜病変の発症に中心的な役割を担う.ピロリ菌病原因子であるCagAは,胃上皮細胞内でSHP2およびPAR1/MARKの機能異常をひき起こし,RAS経路やWnt経路の脱制御,上皮細胞極性の破壊,有糸分裂の異常ならびに異常な分化リプログラムを誘導するがんタンパク質である.近年,CagAの標的であるSHP2を介したHippo-RAS-Wntシグナル間のクロストークならびにCagAによるシグナル異常と炎症反応の相互作用が明らかにされ,ピロリ菌感染を背景とした胃発がん機構の解明が大きく前進している.
創薬標的としてのHippoシグナル【畑 裕,清水尊仁】
転写共役因子YAP1,TAZの活性上昇はがんの悪性化をひき起こし予後不良の原因となるのでそれらの阻害剤はがん治療に,また,YAP1,TAZは組織損傷修復に必要とされるのでそれらの活性剤は再生医療に,それぞれ有用と推論される.本稿では,YAP1とTAZ,それぞれの阻害剤と活性剤のヒト疾患に対する適用の可能性と問題点を論じ,薬剤探索の方法とこれまでに得られている薬剤を紹介する.
インタビュー
日本のサイエンスを担う これからのリーダーの条件を求めて
第5回 科学の原典をひも解き,知の体系を築く【インタビュー 近藤寿人】
Update Review
時間薬理・栄養・運動学の研究最前線【柴田重信,田原 優】
トピックス
カレントトピックス
オートファジーによる小胞体と核の分解【中戸川 仁,持田啓佑】
新生仔期に発生するAire依存性のTregが自己免疫を制御する【藤門範行】
中心小体サテライトとヒトMsd1タンパク質は中心体構築に必須である【西-堀 晶子,登田 隆】
ナイーブTリンパ球のストレス制御機構,KDEL受容体の新しい機能【上村大輔,村上正晃】
News & Hot Paper Digest
連載
クローズアップ実験法
ユビキチンリガーゼ活性の簡便で効率的な検出方法【吉田雪子,佐伯 泰,田中啓二】
テツヤ、留学生活はどうだい。
Confort Zone(安全地帯)からの脱出!【Kyota Ko, Simon Gillett】
Campus & Conference 探訪記
がん免疫療法の新時代に向けて―がん免疫療法・マクロファージ国際会議【早川芳弘】
UJA Presents 留学のすゝめ!
人と人との絆が未来を拓く【佐々木敦朗】
ラボレポート ―独立編―
私の独立10年記 ― 米,英,瑞,そしてその先へ ― Nestlé Institute of Health Sciences【坂本 啓】
Opinion ―研究の現場から
若手の会の設立―君の研究(はなし)を聴きたい【市川尚文】
製品特集
〈Review〉再生医療の実現に向けた幹細胞培養技術の開発【中川誠人】
協賛企業記事 株式会社ニッピ
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