実験医学 2014年6月号 Vol.32 No.9

代謝の主役に踊り出た 骨格筋ワールド

最大の代謝・内分泌器官が制御する全身性メカニズム

  • 藤井宣晴/企画
  • 2014年05月20日発行
  • B5判
  • 133ページ
  • ISBN 978-4-7581-0128-8
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

従来,骨格筋の主要な役割は動作を生み出すことにある,と一義的に考えられてきた.しかし最近では,骨格筋におけるイベントが,局所だけではなく全身性の代謝調節とかかわっていることが明らかとなるとともに,筋量・筋力の維持が種々の疾病を防ぐ手段として注目されてきている.また,「代謝」や「分泌」が筋収縮にカップリングして調節されることも見出されてきている.つまり骨格筋は,従来唱えられてきたのとは異なる,新たな生物学的役割を見せはじめている.

人体最大の臓器「骨格筋」.運動器を超えた,その新しい顔に迫ります.筋収縮とともに分泌されるマイオカインの働きからインスリン標的臓器としての振る舞い,サルコペニアなど現代の病へのアプローチまで

目次

特集

代謝の主役に踊り出た 骨格筋ワールド
最大の代謝・内分泌器官が制御する全身性メカニズム
企画/藤井宣晴
概論─骨格筋ワールドへの誘い【藤井宣晴】
従来,骨格筋の主要な役割は動作を生み出すことにある,と一義的に考えられてきた.しかし最近では,骨格筋におけるイベントが,局所だけではなく全身性の代謝調節とかかわっていることが明らかとなるとともに,筋量・筋力の維持が種々の疾病を防ぐ手段として注目されてきている.また,「代謝」や「分泌」が筋収縮にカップリングして調節されることも見出されてきている.つまり骨格筋は,従来唱えられてきたのとは異なる,新たな生物学的役割を見せはじめている.
骨格筋におけるインスリンおよび,筋収縮による糖取り込み調節【坂本 啓】
インスリンは筋細胞に「血糖吸収指令」を届けるメッセンジャーである.インスリンが細胞に到着したという情報はインスリン受容体によって感知され,細胞内で特殊なシグナルに変換される.そしてそれは複雑な通信経路を経て,最終的に糖輸送タンパク質の膜への移行という生理現象に姿を変える.Ⅱ型糖尿病では,細胞内の信号通信経路の不具合によって,インスリンの指令が適切に伝わらない場合が多い.一方,そのような状況でも収縮活動はインスリンとは異なった信号通信経路で糖吸収をひき起こす.糖吸収の指令を司る細胞内のシグナル伝達機構の根本を理解することが,新たな糖尿病治療に結びつくかもしれない.
骨格筋の脂質代謝調節【中川 嘉/島野 仁】
わが国でも食生活の欧米化に伴い生活習慣病患者数が激増し社会問題となっている.生活習慣病のなかでも高コレステロール血症に対する治療薬スタチンは劇的な効果を示す反面,重篤な副作用を有している.その副作用の一つである横紋筋融解症は重篤化すると腎不全をひき起こし死亡する場合がある.そのため,スタチンによる横紋筋融解症の発症メカニズムの解明が求められている.骨格筋細胞でのコレステロール合成の抑制がオートファジー異常を惹起し,結果的に細胞死を誘導することが想定されている.
内分泌器官としての骨格筋【眞鍋康子】
骨格筋は,運動器としての役割以外にもホルモン様の生理活性物質を分泌する内分泌器官としての役割を果たしている.骨格筋から分泌される生理活性物質は,総称して「マイオカイン」とよばれる.日常的な運動がさまざまな健康効果を有していることを考慮すると,運動により骨格筋からマイオカインが分泌され,全身性に多様な効果を発揮していると考えるのは理にかなっている.一方,マイオカインの研究はまだ十分には成熟しておらず,その効果や作用メカニズムを明確に証明しているものは少ない.本稿ではマイオカイン研究の現状と,その問題点,将来の展望について紹介する.
骨格筋は魅力的な創薬標的臓器である!【河野圭太/奈良 太】
超高齢化社会を迎え,骨格筋萎縮症をはじめさまざまな病態において骨格筋の機能低下の関与が注目されている.肥満,糖尿病あるいは動脈硬化を背景とする生活習慣病には運動療法が有効であるが,創薬の標的臓器として骨格筋は未開拓であり,今後に大きな可能性を秘める.今回,糖尿病,末梢動脈疾患(PAD:peripheral artery disease)などの生活習慣病において,骨格筋そのもの,あるいは血管をはじめとするその他の器官と骨格筋との相互作用に着目した創薬研究潮流の一端を紹介する.
iPS細胞を用いた難治性筋疾患治療研究【櫻井英俊】
骨格筋分野には数多くの遺伝性疾患が存在するが,そのほとんどは現在でも根治的な治療法がなく,原因遺伝子が判明していたとしても病態が未解明である疾患もいまだ多く存在する.われわれはiPS細胞の技術を用いて,これらの難治性筋疾患に対する新しい治療法を開発すべく研究を進めている.大きく2つの研究開発戦略があり,1つは根治的治療法と期待される細胞移植治療研究,もう1つは患者由来iPS細胞を用いた病態解明および薬剤開発研究である.本稿では,難治性筋疾患に対するiPS細胞を用いた細胞移植治療と薬剤開発に向けた研究の現状を述べる.
筋萎縮(サルコペニア)における代謝変換のメカニズムの役割【重本和宏】
加齢に伴う筋力低下・筋萎縮(サルコペニア)は認知症と並び要介護の主要因となることから,その発症機序と早期予防・治療法の研究が求められている.骨格筋は代謝特性の異なる速筋および遅筋線維から構成されるが,サルコペニアの筋萎縮に伴い遅筋線維の割合が増加する.骨格筋は体内の代謝調節作用を担い,運動トレーニングだけでなくさまざまな体内外の環境要因により筋線維の変化が誘導されるが,その機構はまだよくわかっていない.本稿では,サルコペニアを中心に,代謝変換(リプログラミング)を伴う筋線維変化についての最近の話題を紹介する.

Update Review

細胞誤認:その現状と研究者にもとめられる対策【小原有弘/佐藤元信/西條 薫/中村幸夫】

特別記事

DNAの無い生物は存在するか? RNA生命存在の可能性【大島靖美】

トピックス

カレントトピックス
マウスY染色体は生殖補助技術を用いることで2つのY染色体遺伝子で置き換えることができる【山内康弘/Monika A. Ward】
エストロゲンは妊娠中の造血幹細胞の自己複製を亢進する【中田大介】
エフェクターT細胞の活性・動態の制御機構【本田哲也/Jackson G. Egen/Ronald N. Germain】
タキキニン発現ニューロンがショウジョウバエの雄特異的な攻撃的性向を制御する【朝比奈健太】

連載

クローズアップ実験法
ハイコンテントゲノムワイドsiRNA スクリーニングによるシグナル伝達研究への応用【渡邊謙吾/名黒 功/一條秀憲】
統計の落とし穴と蜘蛛の糸
データのふるまいをモデル化する【三中信宏】
実験動物の温故知新
【最終回】コモンマーモセットの開発とこれからの実験動物【佐々木えりか/玉置憲一】
ラボレポート ─留学編─
「大きいことはよいことだ」の国より ─ The University of Texas Southwestern Medical Center【藤川哲兵】
Opinion ─研究の現場から
ゲノム研究におけるプライバシー保護のルール【藤田卓仙】

関連情報

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  • 【本書名】実験医学:代謝の主役に踊り出た 骨格筋ワールド〜最大の代謝・内分泌器官が制御する全身性メカニズム
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