実験医学 2016年4月号 Vol.34 No.6

明かされる“もう1つの臓器” 腸内細菌叢を制御せよ!

宿主との相互作用のメカニズムから便移植の実際、バイオベンチャーの動向まで

  • 福田真嗣/企画
  • 2016年03月18日発行
  • B5判
  • 141ページ
  • ISBN 978-4-7581-0150-9
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

生体の恒常性維持や疾患発症と深くかかわることが次々と報告されている腸内細菌叢.その重要性が世のなかに広く知れわたるようになったのは,微生物培養技術や無菌動物実験技術といった,これまでの腸内細菌学分野で培われてきた技術に加えて,近年のハードウェアの技術革新により,その全容は未解明であった腸内細菌叢を含む腸内環境全体について,遺伝子レベルや代謝物質レベルでの網羅的解析による可視化が進んだことに他ならない.医食同源をキーワードに,幅広い研究分野と融合することで見えてきた,異種生物で構成される「もう1つの臓器」.その機能や制御方法について,国内外で活躍する新進気鋭の研究者が新たな切り口でその真実に迫る.

企画者メッセージ
企画者メッセージ

予防・健康のカギを握る「腸内細菌叢」.明らかになる腸内環境と宿主の免疫・代謝との因果関係から,メタゲノムデータのアノテーション,便移植を始めとする応用と産業化の展開まで幅広く網羅しました.

目次

特集

明かされる”もう一つの臓器” 腸内細菌叢を制御せよ!
宿主との相互作用のメカニズムから便移植の実際,バイオベンチャーの動向まで
企画/福田真嗣
概論─腸内環境制御が切り拓く疾患予防・治療の新地平【福田真嗣】
生体の恒常性維持や疾患発症と深くかかわることが次々と報告されている腸内細菌叢.その重要性が世のなかに広く知れわたるようになったのは,微生物培養技術や無菌動物実験技術といった,これまでの腸内細菌学分野で培われてきた技術に加えて,近年のハードウェアの技術革新により,その全容は未解明であった腸内細菌叢を含む腸内環境全体について,遺伝子レベルや代謝物質レベルでの網羅的解析による可視化が進んだことに他ならない.医食同源をキーワードに,幅広い研究分野と融合することで見えてきた,異種生物で構成される「もう1つの臓器」.その機能や制御方法について,国内外で活躍する新進気鋭の研究者が新たな切り口でその真実に迫る.
免疫システムによる腸内環境制御【後藤義幸】
生体の恒常性維持や疾患発症と深くかかわることが次々と報告されている腸内細菌叢.その重要性が世のなかに広く知れわたるようになったのは,微生物培養技術や無菌動物実験技術といった,これまでの腸内細菌学分野で培われてきた技術に加えて,近年のハードウェアの技術革新により,その全容は未解明であった腸内細菌叢を含む腸内環境全体について,遺伝子レベルや代謝物質レベルでの網羅的解析による可視化が進んだことに他ならない.医食同源をキーワードに,幅広い研究分野と融合することで見えてきた,異種生物で構成される「もう1つの臓器」.その機能や制御方法について,国内外で活躍する新進気鋭の研究者が新たな切り口でその真実に迫る.
腸内環境制御と肥満・糖尿病治療戦略【木村郁夫,粕渕真由,長谷川沙恵】
近年の腸内細菌叢に対するマルチオミクス解析技術の応用により,腸内細菌叢の変化が宿主のエネルギー調節や栄養の摂取,免疫機能等に関与し,肥満や糖尿病に代表されるエネルギー代謝疾患に直接的な影響を及ぼすことが見出された.この発見は,いかに共生菌が宿主の代謝機能に重要な役割を果たしているかということを証明するものであり,医学分野においても,本領域はここ数年で新たなフロンティアとして注目されている.現在,腸内細菌代謝産物や菌体成分そのものを介した代謝疾患発症メカニズムの科学的解明と,治療戦略の開発が急ピッチで進められている.
腸内環境制御による病原性細菌感染症予防・治療【鎌田信彦】
腸内常在細菌は腸管感染防御において中心的な役割を担っている.腸内常在細菌は病原細菌と直接的に栄養素などの定着・増殖因子を競合,もしくは宿主の抗菌免疫を活性化することで,外来性の病原細菌の感染を防ぐ.一方で,抗菌剤の投与やその他の環境因子により正常な腸内細菌叢が撹乱されると,宿主は腸内細菌による病原細菌定着抵抗性を失い感染リスクが上昇する.本稿では常在細菌の定着抵抗性や腸内環境制御を介した病原性細菌感染症予防・治療について概説する.
腸内環境制御にむけた腸内代謝データベース構築【山田拓司】
ヒト腸内環境解析は次世代シークエンサーの発展とともにさまざまな広がりを見せている.腸内細菌由来の遺伝子配列を網羅的に解析するメタゲノム解析により,腸内細菌がもつ代謝能力も定量化することが可能となってきた.しかしながら,これらの遺伝子配列に対する機能アノテーションは既存のデータベースに依存しているため,新規代謝反応が含まれている場合には対処できない.本稿ではまず代謝データベースとはどういうものかということを紹介し,近年の腸内環境メタゲノム解析がそれらをどのように利用しているのかを概説する.さらに,われわれのグループが開発している代謝経路データベースについて紹介したい.
消化器疾患に対する便細菌叢移植療法【石川 大,長田太郎,渡辺純夫】
近年の腸内細菌分析法の発展により,腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)とさまざまな疾患との関連が明らかになってきている.dysbiosisの有効な改善手段として「便細菌叢移植療法(FMT)」に注目が集まっている.FMTはClostridium difficile感染性腸炎(CDI)に対して非常に高い奏功率を示したことが報告され,欧米ではすでに実用化されている.また,炎症性腸疾患(IBD)や,糖尿病やメタボリックシンドロームなど代謝疾患に対しても実用化に向けて積極的に臨床研究が行われている.しかし,2015年に発表された2編の潰瘍性大腸炎(UC)に対するFMTのrandomized control study(RCT)ではCDIに比べ治療効果はいまだ不透明であり,ドナーの選択,投与方法,便検体の疾患に合わせた腸内細菌療法の確立が求められている.
マイクロバイオーム─次世代の医薬品【金 倫基】
大規模なマイクロバイオーム解析プロジェクトが2007年に日本(Human Metagenome Consortium Japan:HMCJ)で,2008年に米国(Human Microbiome Project:HMP)と欧州(Metagenomics of the Human Intestinal Tract:MetaHIT)で開始されて以来,マイクロバイオーム研究は急速に進み,多くの新知見がこの数年で蓄積された.これに伴い,マイクロバイオーム関連のバイオベンチャーが欧米を中心に次々と設立された.これらのバイオベンチャーでは,腸内細菌叢やその代謝産物を解析することで病気を予測したり,マイクロバイオーム修飾薬〔腸内細菌(叢)の組成や機能を変化させる薬〕を開発することで病気を予防・治療したりする試みが活発に行われている.本稿では国内外のマイクロバイオーム関連バイオベンチャーの動向を筆者の考えを交えながら紹介する.

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