中枢神経系における神経幹細胞のニューロン新生能力に迫ります.解明の進むニューロン新生の詳細な分子メカニズムから,神経幹細胞の再生能力を活かした新たな神経再生医療への可能性までを第一線の研究者がご紹介!
目次
特集
神経幹細胞の分化機構に迫る
ニューロン新生と新たな神経再生医療
企画/久恒 辰博,大隅典子
企画者の言葉【久恒 辰博】
病気や外傷により傷付いた神経回路は修復されることはなく,一度失われた脳機能は二度と回復しないと考えられてきた.しかし,最新の研究から中枢神経系である脳においても再生能力が備わっていることがわかってきた.そして新たなニューロンをつくり出す神経幹細胞が存在し,脳疾患に応じてニューロン新生が促進されることが見出された.本特集では次世代型神経再生医療に道を拓くべく,最新の神経発生・再生研究の動向を紹介する.
神経上皮細胞の増殖・分化における脳室膜の役割【新井洋子/Wieland B. Huttner】
神経上皮細胞は増殖と分化をくり返し,中枢神経系のニューロンを産み出す上皮細胞である.発生初期の神経上皮細胞が分裂する際,脳室膜を受け継いだ娘細胞は増殖能を維持し,受け継がなかった娘細胞はやがてニューロンへと分化する.神経上皮細胞の運命決定に重要と思われる脳室膜の一部が小胞として脳室液中に放出されることで神経上皮細胞は増殖性を失い,神経分化の運命を辿ることになる.さらに細胞分裂面は紡錘極に局在するAspmにより制御されることが明らかになった.本稿では,神経上皮細胞の増殖・分化における脳室膜の役割および細胞分裂制御機構を中心に,今後の展望も含め議論したいと思う.
ニューロン新生におけるbHLH因子とNotchシグナルの役割【大塚俊之/影山龍一郎】
中枢神経系の発生過程において,神経幹細胞は刻々と性質を変化させ,発生のステージに従って異なるタイプのニューロンを産生し,ニューロン産生が終了するとともにグリア産生に移行する.こうした神経幹細胞の一部は成体脳においても特定の部位に残存し,ニューロン新生を続けている.bHLH型転写因子は神経幹細胞の維持,ニューロン分化,ニューロンのサブタイプの決定,グリア分化といった神経分化のあらゆる局面において重要な役割を担っており,側方抑制に働くNotchシグナル経路とも絡み合い,細胞の多様性を産み出す鍵となっている.近年,発生過程にとどまらず成体脳でのニューロン新生における働きも徐々に明らかになってきた.
ニューロン新生におけるPax6の機能【原 芳伸/篠原広志/大隅典子】
転写因子をコードするPax6遺伝子は,その発見当初,眼の形成に関するマスターコントロール遺伝子として発生学者の脚光を浴びた.今では,その後の多くの研究から眼の形成の神経管の領域化(パターニング)やニューロン新生,ニューロンの移動,神経軸索の伸長など,さまざまな現象に関与していることが明らかになっている.最近では,生後の脳におけるニューロン新生においても,重要な役割を担っていることが明らかとなってきている.本稿では,胎生期と成体期のニューロン新生におけるPax6の機能について解説したい.
成体海馬におけるニューロン新生【久恒辰博】
近年,記憶にかかわる海馬においては,どんなに年をとっても新しくニューロンが産み出されていることが発見された.新生ニューロンは年をとるとともに著しく減ることがわかってきたが,生活習慣を改善することでその数を増加できることも示されてきた.海馬新生ニューロンは,海馬回路に可塑性をもたらし,記憶形成にかかわっていることがわかってきた.脳梗塞やアルツハイマー病といった疾患において新生ニューロンの数が増加することなども報告され,再生医療の実現を含め今後の研究に期待がもたれている.
パーキンソン病における神経保護因子の役割【村瀬佐知子/Ron McKay】
パーキンソン病は,特定の神経細胞が失われることが特徴であり,神経毒を用いた実験動物モデルが,治療の研究に盛んに用いられている.また,細胞移植により長期的に病状が改善した患者の例もある.そうした経緯から,幹細胞を用いた治療のなかでも,実際に利用される可能性が最も高い病気の1つとして期待されている.ここでは,パーキンソン病の発症のメカニズム,神経保護因子とパーキンソン病の関係,細胞移植などによる治療の歴史,パーキンソン病の治療における神経保護因子の重要性について考察する.
脊髄損傷後の軸索再生制御機構の解明と軸索再生促進へのストラテジー【金子慎二郎/戸山芳昭/岡野栄之】
哺乳類成体中枢神経系のニューロンの軸索は末梢神経系のニューロンの軸索に比して再生能に乏しいが,その理由の1つとして中枢神経系の損傷部においては軸索の再生を阻害するさまざまな因子が存在するということが挙げられる.一方,中枢神経系においては末梢神経系に比して損傷を受けたニューロンの軸索のintrinsicな再生能自体が乏しいという側面もあり,これらの軸索再生制御機構を分子生物学的に解明することは,脊髄損傷等の中枢神経系の損傷後に,よりよい軸索の再生を得るためにはきわめて重要な課題の1つであり,本稿ではこれらの事項に焦点を当てて概説する.
トピックス
カレントトピックス
テロメアは染色体ブーケ形成を通して減数分裂期スピンドル形成を制御する【冨田和範】
TGF-βシグナルと形態形成:カドヘリンのエンドサイトーシスによる細胞接着調整メカニズム【尾形聡一/Ken W. Y. Cho】
SPRED1はNCFC症候群の新たな原因遺伝子である【谷口浩二/吉村昭彦】
ショウジョウバエにおけるsiRNAとmiRNAの振り分け機構【泊 幸秀】
News & Hot Paper Digest
【2007年ノーベル賞紹介】ノーベル医学生理学賞:ノックアウトマウスの創造主たち
T細胞のデジャヴ
脂質膜の構造変形にかかわるMechano-enzyme EHDs
「細胞接着/遊走」学に特化したオンラインリソースNature Cell Migration Gateway BMB2007
第30回日本分子生物学会・第80回日本生化学会 合同大会のご案内
連載
クローズアップ実験法
リン酸基アフィニティー電気泳動法を利用した遺伝子診断法【木下英司/木下恵美子/小池 透】
私の発見体験記
本当かな,この構造は?—夢を持ち続けて実現したグレリンの発見【児島将康】
手抜き実験のすすめ 2
第4回 培養細胞の基礎【福井泰久】
疾患解明Overview
内耳性難聴:新しい治療法開発への展望【中川隆之/吉川弥生/伊藤壽一】
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