実験医学 2012年12月号 Vol.30 No.19

新発見が続く自然リンパ球

NH細胞・ドレスNK細胞・RORγt陽性細胞・LTi細胞が変える免疫の理解

  • 小安重夫/企画
  • 2012年11月20日発行
  • B5判
  • 127ページ
  • ISBN 978-4-7581-0090-8
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

最近の研究から,自然免疫系において獲得免疫系のヘルパーT細胞セットに対応したサイトカイン産生パターンを示す自然リンパ球が次々と明らかにされてきた.古典的な自然リンパ球であるNK(ナチュラルキラー)細胞はTh1細胞と同様にIFN-γを産生し,LTi(リンパ組織誘導)細胞はTh17と同様にIL-17やIL-22を産生し,NH(ナチュラルヘルパー)細胞はTh2細胞と同様にIL-5やIL-13を産生することで,さまざまな感染における初期防御に重要な役割を果たすとともに,さまざまな炎症性疾患の病態にもかかわることが明らかにされてきた.ここではこれらの細胞を概観する.

近年,自然免疫に関わる新たな細胞の発見が,免疫学のパラダイムを変えつつあります.「自然リンパ球」という役者たちが,炎症や自己免疫疾患に関与し,自然免疫と獲得免疫をつなぐ現場をご覧ください.

目次

特集

新発見が続く 自然リンパ球
NH細胞・ドレスNK細胞・RORγt陽性細胞・LTi細胞が変える免疫の理解
企画/小安重夫
リンパ球の新たな戦士たち【小安重夫】
最近の研究から,自然免疫系において獲得免疫系のヘルパーT細胞セットに対応したサイトカイン産生パターンを示す自然リンパ球が次々と明らかにされてきた.古典的な自然リンパ球であるNK(ナチュラルキラー)細胞はTh1細胞と同様にIFN-γを産生し,LTi(リンパ組織誘導)細胞はTh17と同様にIL-17やIL-22を産生し,NH(ナチュラルヘルパー)細胞はTh2細胞と同様にIL-5やIL-13を産生することで,さまざまな感染における初期防御に重要な役割を果たすとともに,さまざまな炎症性疾患の病態にもかかわることが明らかにされてきた.ここではこれらの細胞を概観する.
ドレスNK細胞による免疫抑制機能【小笠原康悦】
ナチュラルキラー(NK)細胞は,細胞傷害活性をもち,前感作なしに機能を発揮するため,自然免疫と獲得免疫の架け橋となる細胞として位置づけられている.NK細胞は,生体内では,ウイルス感染細胞やがん細胞の排除など免疫応答の促進に働くと認識されている.最近,NK細胞は樹状細胞から膜分子を奪い新たな細胞(ドレスNK細胞)に変化することにより,免疫抑制機能をもつことが示された.本稿では,NK細胞のこれまで知られている生体内での役割を概説し,われわれの発見した免疫抑制機能をもつドレスNK細胞について紹介する.
計画的炎症による末梢リンパ組織形成とLTi細胞【吉田尚弘】
LTi細胞(lymphoid tissue inducer cell)は胎生期に胎仔肝臓で発生する自然リンパ球である.分化過程でリンパ節(LN)やパイエル板(PP)の発生領域にケモカインCXCL13に導かれて移動して,そこで局所特異的なサイトカインの刺激を受けて最終分化を遂げ,サイトカインLTα1β2を産生すると考えられている.産生されたLTα1β2は間質細胞を刺激して特異的な間質細胞であるLTo細胞(lymphoid tissue organizer cell)をつくり出し,これがさまざまな分泌因子や接着分子を発現してリンパ組織形成の中心となる.ここで用いられる細胞や分子は炎症と酷似しており,進化の過程で炎症プロセスが器官形成に借用されたものと思われる.
2つの機能をもつ成体RORγt陽性自然リンパ球【澤 新一郎】
成体マウスに存在するRORγt陽性自然リンパ球はCCR6+c-kithighIL-7Rαhigh細胞群と,CCR6-NKp46+細胞群に大別される.前者は胎仔LTi細胞と同様にリンパ組織の形成・維持機能をもつ.後者はIL-22を産生し,腸管上皮バリア機構の維持に寄与する.感染性腸炎や骨髄移植後の移植片対宿主病モデルマウスにおけるRORγt陽性自然リンパ球の予防的機能が報告されており,ヒト疾患におけるRORγt陽性自然リンパ球の機能が注目されている.
自然免疫で活躍するナチュラルヘルパー細胞の役割【茂呂和世/小安重夫】
T細胞やB細胞を主体とする獲得免疫機構に対し,マクロファージ,樹状細胞,顆粒球,マスト細胞を主体とする自然免疫機構では,NK細胞が唯一のリンパ球として認識されてきた.しかし,リンパ組織誘導細胞(lymphoid tissue inducer:LTi)細胞に関する研究が進んだことによって,自然リンパ球の重要性が再検討されるようになった.2010年,われわれは新しい自然免疫機構の一員としてナチュラルヘルパー(NH)細胞を報告した.本稿では,NH細胞を中心に,自然免疫系で活躍するリンパ球たちがどのように役割を分担し,獲得免疫機構が立ち上がるまでの生体防御反応を担っているのかを考察する.
寄生虫感染と肺におけるTh2型自然免疫応答【武藤太一朗/安田好文/中西憲司】
寄生虫が感染した宿主では,Th2型免疫応答が誘導され排虫が起こる.Th2型応答を担う細胞はTh2細胞と考えられてきた.最近,上皮細胞由来のIL-33やIL-25の刺激下で大量のTh2サイトカインを産生するILC2(type 2 innate lymphoid cell)が発見された.そこでわれわれはTh2細胞でなくILC2が主体となるTh2型免疫応答が誘導されると考え,今回の研究を実施した.ある種の寄生虫に感染したヒト患者の肺,あるいは実験動物の肺で,Löffler症候群とよばれる好酸球性肺炎が発症することが知られている.われわれは消化管寄生線虫をマウスに感染させると,肺でIL-33の発現が誘導されるとともに,好酸球性肺炎が起こることを明らかにした.一方,IL-33欠損マウスに感染させても好酸球性肺炎を発症しなかったが,外部からIL-33を経鼻投与すると好酸球性肺炎を発症した.すなわち,寄生虫感染はIL-33発現を誘導することで好酸球性肺炎を誘導することが明らかとなった.次に,T/B細胞を欠損するマウスに外部からIL-33を経鼻投与したところ,強度の好酸球性肺炎が誘導されたことから,Th2細胞が誘導されない場合であってもIL-33の作用で好酸球性肺炎が誘導されることが明らかとなった.われわれはさらに研究を進め,寄生虫が感染した肺ではⅡ型肺胞細胞がIL-33を産生すること,産生されたIL-33は肺でILC2の数を著明に増加させること,さらに,IL-33はILC2を刺激してIL-5やIL-13の産生を誘導することで,好酸球性肺炎を誘導することを明らかにした.
IL-25,IL-33と自然リンパ球【大野建州/東 みゆき/中江 進】
TSLP(thymic stromal lymphopoietin),IL-25(interleukin-25)およびIL-33は,主に上皮細胞から産生されるサイトカインである.これら3つのサイトカインは異なる受容体に結合するにもかかわらず,共通して,Th2細胞を活性化してIL-4,IL-5およびIL-13といったTh2サイトカイン産生を誘導することができ,寄生虫に対する感染防御やアレルギー疾患などのTh2型免疫応答に深く関与することが知られている.これら上皮由来のサイトカインのうち,IL-25とIL-33が,Th2細胞だけでなく,近年新しく同定された免疫細胞「ナチュラルヘルパー細胞」に代表される自然リンパ球からのTh2サイトカインを強く誘導することが明らかにされた.本稿では,IL-25やIL-33によって活性化される自然リンパ球がかかわる免疫応答の分子機構について最近の知見を概説する.

2012年ノーベル賞記念フォーラム

[生理学・医学賞]成熟細胞がリプログラミングにより多能性を獲得することの発見
もう1つのゲノム再プログラム化【小倉淳郎】
遠くて近いノーベル賞【多田 高】
山中伸弥先生のゴルフ【北村俊雄】
iPS細胞研究,セカンド・ステージへ【岡野栄之】
生物学の歴史的成果から応用と実用化へ【中辻憲夫】
[化学賞]Gタンパク質共役型受容体の研究
膜受容体の存在の実証から結晶構造の解明まで【東原和成】
Kobilka博士の偉業:20年以上の努力の結晶【小笹 徹】

Update Review

染色体分配の分子機構と関連分子を標的としたがん治療への展望【田中耕三】

トピックス

カレントトピックス
腸管膜を横切る神経堤細胞は大腸の神経系の主要な構成細胞である【榎本秀樹/西山千尋】
病的血管新生はATMによる酸化ストレス調節に依存する【久保田義顕】
HMGAタンパク質群は神経系前駆細胞のクロマチン状態とニューロン分化能を制御する【岸 雄介/藤井佑紀/後藤由季子】
小胞体ストレスと炎症を結ぶ分子機構の解明【原 崇/Christine Oslowski/浦野文彦】
News & Hot Paper Digest
粘膜ワクチンのアジュバント【柏木 哲】
史上最長の実験は続くよどこまでも【田口英樹】
「科学の民主化」大作戦! その2【橋本裕子】

連載

クローズアップ実験法
高多様性アデノウイルス・ライブラリーの作成 【三浦慶昭/山本正人】
私のメンター ~受け継がれる研究の心~
Phillip A. Sharp ―mRNAスプライシングを見出したスーパースター【半田 宏】
Campus & Conference探訪記
漢方の作用メカニズムの解明と国際化に向けての挑戦【日向須美子】
ラボレポート ―留学編―
イタリアの前向きなメンタリティに学ぶ ―Universitá degli Studi di Padova【乾 雅史】
Opinion ―研究の現場から
沈黙は金? 日本人の国民性 海外よもやま話【松林 完】

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