1000ドルゲノムから1000人ゲノム,そして100万人ゲノムの時代へ…溢れるビッグデータをどう扱うか?がんゲノム,疾患解析,ゲノム創薬まで遺伝統計学が成してきたこと,これから可能とすることをご紹介.
目次
特集
ゲノムデータをどう扱えば、医学と医療は変わるのか
遺伝統計学の力と創薬・個別化医療
企画/岡田随象
概論―「ゲノム情報」+「遺伝統計学」=「ゲノム医療」!?【岡田随象】
「どうやって,ゲノムを早く,安く,正確に読むのか——これまでのゲノム研究はこの一言に象徴される.しかし,次世代シークエンサーに代表されるゲノム配列解読技術の著しい発達により状況は一変し,「どうやって,早く,安く,正確に読んだゲノム情報の意味を解釈するのか」が,これからのゲノム研究におけるボトルネックとなりつつある.膨大なゲノム情報を適切に解釈し,ゲノム医療に代表される社会実装へとつなげるためには,多彩な生物学・医学データとゲノム情報とを分野横断的な統合する学問分野の発展が必要であり,その1つとして遺伝統計学が注目されている.
がんゲノムデータ解析で何がわかるのか?【片岡圭亮】
次世代シークエンス技術の発達に伴い,各種がんにおいて大規模シークエンスが行われた結果,がんゲノミクス領域は急速な発展を遂げた.その結果,新規の遺伝子変異やコピー数異常が同定されたのみならず,構造異常などによる新しいがん化のメカニズムや空間的および時間的な不均一性の解明など,がん生物学に関する新たな知見が得られた.さらに,このような遺伝子異常は,創薬標的になり得ると同時に,バイオマーカーとして用いることにより分子分類およびそれに基づいた患者の層別化を可能としており,がんの個別化医療の実現が期待される.
リウマチ性疾患に代表される自己免疫疾患は遺伝因子と環境因子が関与する複合性疾患である.一塩基多型に注目した全ゲノム関連解析は自己免疫疾患の遺伝背景の解明に大きく寄与してきた.一方で,稀な多型の解析は,複合性自己免疫疾患の病態解明において大きな役割を果たすには至っていない.遺伝因子は疾患の発症だけでなく進展や予後にも関連しており,遺伝因子の解明から疫学的な合併・非合併の説明および病態解明,ひいては治療標的候補の同定に結びついた例もあり,さらなる遺伝因子の解明により臨床に役立つ成果が期待される.
missing heritabilityのルーツと形質・疾病発症リスク予測の可能性【八谷剛史】
“missing heritability”は,近年の遺伝学研究に欠かせない概念となっている.原著・和文問わず優れた総説が著されている一方,多くの研究者に用いられる概念であり,概念の捉え方に多様性が生じてきている.そこで本稿では,まずmissing heritabilityの歴史的ルーツに遡る.missing heritabilityは,20世紀初頭のMendeliansの流れを汲む分子遺伝学と,計量生物学の流れを汲む量的遺伝学の交点に生まれた概念と位置付けられる.両学派では「missing heritabilityの謎」へのアプローチが異なるが,ゲノム情報の社会利用を実現してゆくためには,学問的融合が必要不可欠である.歴史的ルーツを紹介した後,missing heritabilityの定義と謎について概説し,また,遺伝情報に基づく形質・疾病発症リスク予測の可能性について紹介する.
パーソナルシークエンス時代の情報解析手法【成相直樹】
近年,数千人規模の全ゲノムシークエンスによってヒトゲノムの集団的多様性が明らかになるとともに,個別のゲノム変異と表現型(疾患等)との関連が数多く報告されている.大量に生成されるシークエンスデータを効率よく解析し,有用な情報を抽出するためには,情報科学および統計学を駆使したデータ解析手法が必要である.本稿では全ゲノムシークエンスが集団規模で行われるようになってきた近年のゲノム・統合オミクス解析研究の最新トピックと,シークエンスデータ解析における課題,そして今後の展望を概説する.
ビッグデータ時代の遺伝的関連解析手法の進歩と役割【秋山雅人,鎌谷洋一郎】
全ゲノム配列や遺伝子発現,エピゲノム情報など,ゲノム研究では多種多様なデータが利用可能となった.ゲノムワイド関連解析(GWAS)は,生殖細胞系列ゲノムを利用し,多因子疾患の感受性遺伝子のスクリーニングに用いられてきた手法であるが,エピゲノム情報との統合ならびにポリジェニック効果を考慮した解析手法の進歩により,これまで理解されていたより多くの情報が存在し,応用可能であることがわかってきた.本稿では,最新の関連解析の手法について概説し,今後のGWAS情報の活用法と展望について述べる.
疾患の遺伝的多様性の理解―cellular QTLを用いて【熊坂夏彦】
ゲノムワイド関連解析によって次々と疾患感受性多型が同定されているが,その医学・生物学的機序を明らかにするにはさらなる機能解析実験を行う必要があった.しかし近年のエピゲノム研究の発展にともない生体内の細胞量的形質がゲノムワイドに観測できるようになったことで,多型のもつ役割を分子レベルで理解することが可能になってきた.本稿では細胞量的形質のなかでも特に転写因子の結合に密接な関係のあるクロマチン・アクセシビリティに着目し,最新の分子生物学的アッセイと遺伝統計解析手法を組合わせることで,遺伝的多様性がクロマチン構造に与える影響と疾患の関連を遺伝子調節の観点から紹介する.
フォーラム
ヒトゲノムデータの保護と利用に向けた仕組み作り【加藤和人,山本奈津子】
コグニティブ・システムIBM Watsonの医療応用【武田浩一】
これからのゲノム創薬のかたち【平田 潤,吹田直政】
News & Hot Paper Digest
NgAgoは第4世代ゲノム編集技術か?【鐘巻将人】
微小管細胞骨格に刻まれた翻訳後修飾“コード”の解読【島本勇太】
巻き込まれ欠損によって出現した“アキレス腱”は新たな治療標的になる?【河野 晋】
“思い出ボール”と長期記憶貯蔵庫の作業員【養王田正文】
カレントトピックス
PKAはMIC60のリン酸化を介してPINK1とParkinによるミトコンドリア品質管理を制御する【赤羽しおり,岡 敏彦】
IL-1βはヒト2型自然リンパ球の活性化と可塑性を制御する【大根陽一郎】
将来出現する季節性インフルエンザウイルスの抗原変異を予測する【今井正樹,渡邉登喜子,河岡義裕】
マウス表皮には分裂頻度の異なる2種類の幹細胞が共存する【佐田亜衣子,Tudorita Tumbar】
クローズアップ実験法
ChIP-seq実験を成功に導くための秘訣【田中かおり,門田満隆】
科学を愛するあなたのための研究費があります。
いま、がんのクリニカルシークエンスがおもしろい!
分子バーコード技術を使った低頻度DNA断片の配列決定と定量【久木田洋児,加藤菊也】
予防医学の扉を開く 食品に秘められたサイエンス
緑茶カテキンを感知するしくみを知り,活かす【立花宏文】
私の実験動物、個性派です!
トビネズミの進化発生学【堤 璃水,Kimberly Cooper】
私のメンター
Laurie J. Goodyearー神の先見の明を証明した研究者【藤井宣晴】
未来をつなぐ風
平成28年度「新学術領域研究」決定!~領域代表者が描くビッグピクチャーとは
ラボレポート留学編
戦場ポスドク―エルサレム通信ーThe Hebrew University of Jerusalem【田坂元一】
Opinion
若手間交流から生まれるアウトプットの機会【宮本道人,馬谷千恵】
関連情報
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- 【本書名】実験医学:ゲノムデータをどう扱えば、医学と医療は変わるのか〜遺伝統計学の力と創薬・個別化医療
- 【出版社名】羊土社
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第2地帯(オセアニア、中近東、北米、中米) |
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第2地帯(ヨーロッパ) |
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第3地帯(アフリカ、南米) |
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(2021年8月23日)