「匠のわざ」の糖鎖研究が今,産業革命を迎えています.糖鎖を網羅的に調べ,思い通りの構造を合成する技術が汎用化しつつあります.疾患特異的な糖鎖,抗体を修飾する糖鎖を操作し,診断・治療に活かす最先端を紹介
目次
特集
糖鎖がついにわかる!狙える!
診断薬・治療薬イノベーションを導く生命鎖
企画/植田幸嗣,久野 敦
糖鎖は診断・治療のイノベーションをひき起こす導火線【久野 敦,植田幸嗣】
第三の生命鎖,アクセサリ,不均一,複雑,未知.これらは糖鎖を連想したときに出てくる言葉だ.これを見るかぎりイノベーションとは無縁そうに感じられるが,糖鎖分野は日本の先輩研究者の先見の目と匠のわざによって継続的に着実に研究開発が進められ,医療に貢献する薬も誕生している.最近の技術革新にともない,負の連想ワードがまさに転じる時代が到来した.本稿ではタンパク質修飾の1つである糖鎖修飾の特長について概説した後に,タンパク質上の糖鎖をねらって,効率よく診断・治療薬を創出するための糖鎖利用技術について,各稿で紹介される技術の位置づけをふまえて紹介したい.
疾患グライコフォームの探索ーグライコプロテオミクスの威力【梶 裕之,富岡あづさ,野呂絵里花,栂谷内 晶,佐藤 隆】
細胞の糖鎖合成酵素群の発現は感染やがん化に伴って変わり,細胞グライコームは一斉に変化する.この変化をバイオマーカーとして利用するには産生細胞に特異的なタンパク質との組合わせが重要である.グライコプロテオミクスはこのような糖タンパク質の効率的な同定に寄与してきた.最近は糖タンパク質や糖鎖付加部位の同定のみならず,付加部位ごとの糖鎖組成を記述する技術へ発展してきた.この解析が高感度で可能になれば,疾患細胞上にのみ存在する糖タンパク質グライコフォームを探索し,これを標的化する分子の開発に貢献できるであろう.
糖鎖構造の不均一性を定量化するーErexim法によるバイオ医薬品エンジニアリング【芳賀淑美,植田幸嗣】
近年,タンパク質の糖鎖構造変化を指標とした診断薬や,糖鎖エンジニアリングを活用したバイオ医薬品の開発が急速に普及しはじめている.糖鎖が付加タンパク質に与える影響を調べるためには,タンパク質のどの部位にどのような構造の糖鎖が付加しているかを定量的に知る必要がある.本稿では分析対象とする糖タンパク質と糖鎖修飾部位が決まっている場合における糖鎖構造分析技法を概説するとともに,われわれが開発した高速糖鎖バリエーション一斉定量化技術Erexim(エレクシム)法の特徴をバイオ医薬品開発における実装例とともに紹介する.
均一な糖タンパク質をつくるーアスパラギン結合型糖鎖の化学合成【松尾一郎,石井希実,宇津井隆志,佐野加苗】
タンパク質上に結合した特定の構造の糖鎖がタンパク質の機能に影響を与えることが明らかとなり,活性型糖鎖構造を有する糖タンパク質の合成が望まれている.本稿では,均一構造の糖鎖をもった糖タンパク質を供給する有効な手段である化学的手法による糖タンパク質の合成について紹介する.また,糖タンパク質の合成に必要な糖鎖の合成について,アスパラギン結合型(N-結合型)糖鎖の化学合成に焦点を当てわれわれの取り組みを紹介する.
糖鎖を標的としたアルツハイマー病の治療薬開発に向けて【北爪しのぶ,木塚康彦,谷口直之】
アルツハイマー病治療のためにアミロイドβペプチド(Aβ)を標的とした薬剤開発が進められているが,副作用が生じたり限定的な効果しか得られずに開発中止となった薬剤も多い.Aβを前駆体タンパク質APPから最初に切断するBACE1プロテアーゼの阻害剤は,Aβ標的薬のなかで最も期待が寄せられている.本稿ではBACE1に結合する糖鎖を改変することでAPP特異的な切断阻害を狙える可能性について紹介する.また,血管内皮細胞に発現するAPPの発見を経緯として,脳内血管にAβが沈着する脳アミロイドアンギオパチーの動物モデル開発に着手したことに加え,血管内皮型APPに注目した糖鎖創薬の可能性について紹介する.
フコシル化タンパク質を標的にした新規がん診断・治療薬の開発【三善英知,高松真二,魚住尚史,鎌田佳宏】
フコシル化は,がんや炎症に最も関係の深い糖鎖修飾の1つで,ルイス型とコア型に大別される.筆者らはコア型フコースの生合成にかかわるα1-6フコース転移酵素(Fut8)の遺伝子クローニングから,その生物学的機能の解明を続けてきた.そしてフコシル化とタンパク質の極性輸送の関係を明らかにし,多くのバイオマーカーの開発に成功している.また近年コアフコースの新しい機能を発見し,治療の標的になる可能性を示した.本総説では,長年のコアフコースに関する研究を概説し,新規がん診断• 治療薬の開発のための戦略を紹介したい.
糖鎖関連データベース標準化の国際動向と医療応用【木下聖子】
近年,糖鎖関連データベースが数多く開発されてきて,標準化の影響を受け,統合化が推進されてきた.特にセマンティック・ウェブ技術を通してインターネットの基盤を応用し,ライフサイエンス関連のデータベースが全般的に統合しはじめてきた.この動向のなか,糖鎖構造を中心として国際糖鎖構造リポジトリGlyTouCanが国内で開発され,国際的に認識されている.また,疾患データなどを格納されたデータベースもセマンティック・ウェブ化されてきた.したがって今後,糖鎖構造と関連する遺伝子や疾患などが他のオミクス分野のデータベースと統合されることにより,医療への応用に期待できる.
連載
News & Hot Paper Digest
ミトコンドリア「マジック」で細胞質の凝集タンパク質を処分する【田口英樹】
マクロファージが決めるゼブラフィッシュの縞模様【向山洋介】
FRETセンサーを用いた生細胞膜電位の定量的測定【董 金華,上田 宏】
インシリコ代謝モデルの可能性ー個別化医療・創薬応用に向けて【荒木通啓】
アメリカがん学会AACR2017リポート【松島綱治】
カレントトピックス
X線自由電子レーザーによるタンパク質構造変化の動画撮影【南後恵理子,岩田 想】
アトピー性皮膚炎では常在細菌による黄色ブドウ球菌の排除能が低下している常在細菌の自家移植によりその機能は回復できるのか【仲辻晃明】
疾患特異的マクロファージの機能的多様性と分化メカニズム【佐藤 荘】
個々の記憶どうしをつなぐ神経細胞集団のメカニズム【横瀬 淳,井ノ口 馨】
Next Tech Review
一塩基置換をもつヒトiPS細胞の単離【宮岡佑一郎】
クローズアップ実験法
CRISPR/Cas9ゲノム編集を応用したエピゲノム編集法【森田純代,堀居拓郎,畑田出穂】
Update Review
組織局在型メモリーT細胞による生体防御機構の重要性【飯島則文】
ラボで実践! コミュニケーション術
「勉強会,なんだかうまくいかないのです.」【竹本佳弘】
私のメンター
Matthew J. A. Woodー難病を制す核酸医薬研究の雄【青木吉嗣】
つながる、産と学の手
新たな連携②ー特定の疾患を標的としたNPOによる取り組み【櫻井 武】
予防医学の扉を開く 食品に秘められたサイエンス
米から宇宙へ―unloadingによる筋萎縮を克服する【井田くるみ,内田貴之,赤間一仁,二川 健】
ラボレポート留学編
一期一会が開いてくれる道ーIcahn School of Medicine at Mount Sinai【園下将大】
Opinion
コミュニケーションと研究の共通点―「造り変える力」【竹中武藏】
関連情報
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- 【本書名】実験医学:糖鎖がついにわかる!狙える!〜診断薬・治療薬イノベーションを導く生命鎖
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(2021年8月23日)