クローズアップ実験法

2023年2月号 Vol.41 No.3 詳細ページ
Fluoppi:生きた細胞内でのタンパク質間相互作用の可視化ツール
渡部 拓,宮脇敦史
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Fluoppi:生きた細胞内での
タンパク質間相互作用の
可視化ツール
渡部 拓,宮脇敦史

何ができるようになった?
液相分離を利用して,集積型でありながら高い SN 比とダイナミックレンジを達成し,定量的な PPI
検出を行える手法「Fluoppi」を開発した.

必要な機器・試薬・テクニックは?
特殊なものは特にないが,検出系を構築するために,Fluoppi のプラスミド DNA が必要である.
プラスミド構築技術および導入技術と,細胞観察用の蛍光顕微鏡(簡易型で十分)が必要である.

原理

ように,タンパク質や核酸が膜に覆われない細胞内構

タンパク質間相互作用(P P I)は,細胞の構造の維

造物を構成し,液相の液滴のように挙動する現象が知

持や機能の発揮に不可欠である.また,P P I の異常は

られている.また,Li らの文献では,シグナル伝達タ

疾患の発症に必須であり,創薬の重要なターゲットと

ンパク質の複数種の多価結合によって液相滴が形成さ

なっている.これまで PPI を制御する化合物を細胞内

れることが示されている 2).われわれはホモオリゴマー

で評価するさまざまな技術が開発されてきた.融合タ

化能を有する 2 つのタンパク質モジュールを用いて,モ

グ同士の近接を検出する手法として FRET や BiFC が

ジュール間での PPI 依存的な会合により液相滴が形成

ある.しかしながら,FRET は融合コンストラクトの

され,それらを蛍光輝点として検出することで,生細

最適化に多大な労力を要する点が,また BiFC はその

胞内でリアルタイムに PPI を検出する手法を開発した.

シグナル生成が緩慢で不可逆的な点が欠点と言える .

タンパク質モジュールの1 つは,PB1(p62/SQSTM1

一方,細胞内で標識タンパク質の局在変化を検出する

の Phox and Bem1p)ドメインである.同ドメインは,

手法にはこうした欠点がない.われわれはこの手法に

一方の表面に酸性 / 疎水性残基を ,逆側の表面に塩基

相転移を応用して,新しい PPI 検出手法 Fluoppi(フ

性残基を含むため ,表裏のトポロジーで相互作用し ,

1)

きわめて動的なホモオリゴマーを形成する 3).2 つ目の

ロッピー)を開発した .
細胞内での相転移には,細胞質や核質における P 顆

モジュールは ,恒常的に 4 量体を形成する蛍光タンパ

粒や,核小体などのリボ核タンパク質(RNP)顆粒の

ク質である.本稿ではサンゴ由来の緑色蛍光タンパク

Fluoppi: a method to visualize protein interactions through liquid phase transitions
Taku Watanabe1)/Atsushi Miyawaki 1)2):Laboratory for Cell Function Dynamics, RIKEN Center for Brain Science1)/Bio(理化学研究所脳神経科学研究センター細胞機
technological Optics Research Team, RIKEN Center for Advanced Photonics 2)
能探索技術研究チーム 1)/ 理化学研究所光量子工学研究センター生命光学技術研究チーム 2))

実験医学 Vol. 41 No. 3(2 月号)2023

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