クローズアップ実験法

2024年9月号 Vol.42 No.14 詳細ページ
Ca2+とcAMPの同時in vivo 2光子イメージング
横山達士,坂本雅行
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Ca2+とcAMPの同時
2光子イメージング
横山達士,坂本雅行

何ができるようになった?
Ca2+と cAMP という 2 種類のセカンドメッセンジャーのダイナミクスを同時に,マウスを生かした
まま単一細胞レベルで観測できるようになった.

必要な機器・試薬・テクニックは?
蛍光プローブの遺伝子とアデノ随伴ウイルス (AAV)ベクターは ,理研バイオリソース研究セン
ターで入手可能.撮像には正立型 2 光子励起顕微鏡が必要.ウイルス局所投与とガラス窓作製にはあ
る程度の訓練が必要である.

はじめに

Ca2+センサーについては,2010 年代には遺伝子にコー

細胞内シグナルのダイナミクスを観察するには,蛍

ドされたセンサーが低分子化合物に基づいたセンサー

光イメージングが有用である.歴史的には,1980 年代

よりも一般的に使用されるようになった(表)4).Ca2+

に Roger Tsien らが低分子化合物に基づいた蛍光セン

センサー以外にも,細胞内シグナルを可視化するため

サーを開発し,培養細胞を用いた蛍光イメージングに

の遺伝子にコードされたセンサーの開発が進んでいる.

2+

おいて細胞内 Ca などのダイナミクスが可視化された

本稿では,遺伝子にコードされた蛍光センサーを使っ

のがはじまりである.それが 2000 年代に 2 光子励起顕

た Ca2+と cAMP の同時

微鏡を用いた2 光子イメージング技術と組合わさり,マ

て紹介する.

ウスなどの高等動物においても

Ca2+イメージン

グが報告されるようになった 1).低分子化合物に基づ
いたセンサーに遅れて,遺伝子にコードされた蛍光セ
ンサー,すなわち GFP などの蛍光タンパク質に基づい
たセンサーが開発された

イメージング法につい

2)3)

.遺伝子にコードされたセ

原理
現在,神経科学分野において最も使用されている蛍
光センサーはGCaMP という遺伝子にコードされたCa2+

ンサーは ,経日的かつ安定的にイメージングが可能 ,

センサーである(図 1A)
.GCaMP は GFP ドメインと

アデノ随伴ウイルス(AAV)のセロタイプや Cre/loxP

Ca2+結合ドメインからなる.GCaMP の Ca2+結合ドメ

システムなどと組合わせることで特定の細胞種にのみ

インが Ca2+と結合すると,Ca2+結合ドメインの構造変

発現させることが可能,などの利点がある.そのため

化により GFP ドメインも構造が変化し,GFP ドメイン

Simultaneous

two-photon imaging of Ca2+ and cAMP

Tatsushi Yokoyama/Masayuki Sakamoto :Graduate School of Biostudies, Kyoto University(京都大学大学院生命科学研究科)

実験医学 Vol. 42 No. 14(9 月号)2024

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