クローズアップ実験法

2025年2月号 Vol.43 No.3 詳細ページ
光でタンパク質の局在を操作する:フォトクロミックCID法
小和田俊行,馬場好花,水上 進
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光でタンパク質の局在を操作
する:フォトクロミックCID法
小和田俊行,馬場好花,水上 進

何ができるようになった?
従来の細胞内タンパク質の二量化制御法では,持続的な活性化,瞬時の可逆的光制御,多色蛍光イ
メージング下での光制御などを同時に満たすことは困難であった.光機能性化合物とタグタンパク質
の相互作用を制御することで,これらの課題を克服する新技術を開発した.

必要な機器・試薬・テクニックは?
本手法は,紫色(405 nm 前後)および緑色(550 nm 前後)領域の光刺激が可能な蛍光顕微鏡を
用いる.各タンパク質の遺伝子情報は DDBJ などの DNA データバンクから入手可能だが,光二量化
剤は原著論文を参考にした合成,または筆者からの供与が必要である.

はじめに

さらに,一般的には蛍光励起と光操作は異なる波長の

細胞内タンパク質の分子間相互作用や局在変化を自

光で行う必要があり,このことが多色イメージングと

在に操作する技術は,細胞機能の分子機構を詳細に解

光操作の両立を難しくしている.今回,われわれはこ

明するために非常に有用である

1)2)

質を用いるオプトジェネティクス

.光応答性タンパク

3)4)

や,ケージド化合

れらの課題を克服するフォトクロミック CID 法を開発
した 7).

物 を 用 い る ケ ー ジ ド C I D(c h e m i c a l l y i n d u c e d
dimerization)法 5)6)は,光を用いて高い時空間分解能
でタンパク質二量化を制御できるが,いくつかの課題
も存在する.例えば,CRY 2 と CI B1 を用いるオプト

原理
フォトクロミック化合物は,光を吸収して吸収スペ

ジェネティクスでは,可逆的な会合と解離が可能だが,

クトル(色)が変化するフォトクロミズム現象を示す

二量体を維持するためには継続的な光照射が必要であ

化合物として古くからよく知られている.フォトクロ

る.また,応答速度(

1/2,ON

= 3.7 秒,

1/2,OFF

= 290 秒)

ミック CID 法で用いるフォトクロミック二量化剤 pcDH

の高速化も重要な課題である.一方,ケージド CID 法

は,eDHFR(大腸菌ジヒドロ葉酸還元酵素)に対する

では会合・解離のくり返し制御が原理的に困難である.

フォトクロミックリガンドと HaloTag 8)の共有結合リ

Optical manipulation of intracellular protein localization:photochromic CID technology
Toshiyuki Kowada 1)2)/Konoka Baba 2)/Shin Mizukami 1)2):Institute of Multidisciplinary Research for Advanced Materials,
(東北大学多元物質科学研究所 1)/ 東北大学大学
Tohoku University 1)/ Graduate School of Life Sciences, Tohoku University 2)
院生命科学研究科 2))

実験医学 Vol. 43 No. 3(2 月号)2025

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