英語の組み立てを理解するために最も重要なことは,主語を見極めることである.もちろん,すべての文が必ずしも主語で始まっているわけではない.「超・英文解釈マニュアル(かんべやすひろ/著,研究社)」によると,英文の冒頭は,必ず主語もしくはイントロのどちらかで始まるそうである.命令文や倒置文などはその限りではないが,論文ではそれらを使う場面は限られているので,この法則が非常によく当てはまる.そこで,最初は文の始まりのパターンについて考えてみよう.
ここでいうイントロとは,5文型で取り上げられる文の主要構成要素(S, V, O, C)以外のものである.具体的には文全体を修飾する副詞,副詞句,副詞節のどれかになる(図1-①).
イントロの役割としては,(a)前の文を受けたつなぎの言葉,(b)文の趣旨に関連する時,理由,譲歩,比較,条件を示す表現,などがあげられる.(a)の場合には,副詞や副詞句が用いられる.次のような文だ.
Finally, significant progress was achieved in the development of improved vectors for future gene therapy of human diseases.
(ついに,ヒト疾患の将来の遺伝子治療ための改善されたベクターの開発において著しい進歩が達成された)
このパターンは簡単であろう.論文でよく使われるつなぎの言葉を表1-1にまとめておいたので覚えておこう.
However | しかし |
Conversely | 逆に |
Instead | その代わりに |
Nevertheless | にもかかわらず |
In contrast | 対照的に |
On the other hand | 他方では |
Thus | このように |
Therefore | したがって |
Hence | したがって |
Furthermore | さらに |
Moreover | さらに |
Additionally | さらに |
Further | さらに |
Similarly | 同様に |
Collectively | まとめると |
In addition | そのうえ |
In summary | まとめると |
Taken together | まとめると |
In conclusion | まとめると |
表1-1.よく使われるイントロの表現(つなぎの副詞・副詞句)
イントロの役割(b)の場合には,主に副詞節または副詞句が使われる.<例文2>のイントロの副詞節は,主節と対比する内容の譲歩節として用いられている.
Although all communication between neurons is known to occur through synapses, little is known about the mechanisms inducing their formation.
(ニューロンの間のすべてのコミュニケーションはシナプスを経て起こることが知られているけれども,それらの形成を誘導する機構についてはほとんど知られていない)
副詞節は必ず接続詞(because, since, as, althoughなど)から始まるので,見極めは簡単であろう.なお,副詞節は文末に置かれることもあるが,その場合は但し書きのようなニュアンスになる.
イントロの役割(b)では副詞句が用いられることもあり,副詞節を短くしたような構成で使われる(例文3).
Contrary to the widely held assumption, rapid eye movement (REM) and non-REM sleep are not mutually exclusive states.
(広く支持されている推定とは反対に,レム睡眠とノンレム睡眠は相互に排他的な状態ではない)
イントロを見つけたら,次はその終わりを見つけることが重要である.幸いイントロの終わりにはカンマがある場合が多いので,比較的わかりやすい.ただし,カンマがない場合もあるので気を付けよう.
イントロの後には必ず主語が来るので,そこに着目することが重要である.
文頭がイントロでなければ主語である.次のような場合だ.
These two proteins were detected in approximately equal amounts in the cell.
(これら2つのタンパク質が,その細胞においておおよそ等しい量で検出された)
このような単純に主語で始まる文については簡単であろう.では,次の文の主語はどれだろうか?
The mean age of onset of puberty for girls as defined by breast budding is a little earlier than that for boys as defined by enlargement of testes.
(乳房の発芽で定義される少女の思春期の開始の平均年齢は,精巣の拡大で定義される少年のそれよりも少し早期である)
上の例文を見て一瞬面食らう人も多いのではないだろうか? 動詞のisまでがかなり長いので,どれが主語かわかりにくい.ここで「文頭がイントロでなければ主語である」という法則を思い出せば,the mean ageが主語だと判断するのに迷うことはあまりない.ただし,厳密には主語である名詞(ここではage)の前には冠詞・代名詞・形容詞などが置かれることが普通であるから,これらを含めて主語と考えることが必要である.やや例外的な表現として,a number of(いくつかの)やa series of(一連の)などが前に来る場合もある.これらについても後に続く名詞と一括で主語と考えればいいであろう.
一方,気を付けたいもう一つのポイントは、例文5のように主語の後に長い形容詞句や形容詞節が来る場合がよくあることである.言い換えれば、必ずしも動詞の直前に主語があるわけではないということだ.主語を素早く見つけることができれば読むスピードが確実に速くなるので意識して取り組んでみよう.
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