さて,話を再び主語に戻そう.長い英文を読むときに最も大切なことは,早く主語を見つけることである.主語は,文頭もしくはイントロの後に来ることは連載のVol.1に述べたが,冠詞や形容詞が前に付くことが多いので,正確には文頭やイントロの後にあるのは主語の塊である.
そして,その塊の中から中心となる名詞を見つけなければ,正しく文を理解することはできない.そこでここでは,真の主語の見つけ方について考えてみよう.
まずは上で述べた主語の塊を見つけよう.これはすでに述べたように(◇ 文の冒頭は,イントロか主語のどちらかで始まる!),文頭もしくはイントロの後にある.さてその主語の塊の中で,真の主語となり得るものの第一条件は名詞であるということだ.主語の塊を前から順に眺めて,冠詞・代名詞・形容詞などのあとに来る名詞が主語である可能性が最も高い.<例文22>の場合,主語の塊がMolecular interactionsで,真の主語がinteractionsというわけだ.
Molecular interactions are required for normal signal transduction across the lipid bilayer.
(分子の相互作用が,脂質二重層を越える正常なシグナル伝達のために必要とされる)
ただ,名詞の形容詞的用法というものがあって,名詞+名詞の場合は最後の名詞が主語になる(<例文23>のfood intakeなどの場合).
In lean mice, food intake was almost completely blocked by the fatty acid synthase inhibitor, C75.
(痩せたマウスにおいて,食物摂取は脂肪酸合成酵素阻害剤C75によってほとんど完全にブロックされた)
また,a series ofなどが前に付く場合は,例外的に主語はofの後に来る(例文24).
A series of diagnostic tests is now available for evaluation of patients with evident or suspected cardiovascular disease.
(一連の診断検査は,今,明らかなあるいは疑いのある循環器疾患の患者の評価のために利用できる)
以上でだいたいの判別はできるはずであるが,やはり前から見て主語を決めるだけでは不安である.そこで,次は主語の後に来るものについて取り上げる.
図1を参照しながら,主語の後に来るものについて考えてみよう.主語のあとには本来動詞が来るはずである(例文4).
These two proteins were detected in approximately equal amounts in the cell.
(これら2つのタンパク質が,その細胞においておおよそ等しい量で検出された)
もちろん,主語と動詞の間に助動詞が来る場合もある(例文25).
Specialized tests should be performed on an appropriately prepared tumor biopsy to diagnose responsive endometrial cancer.
(特殊化されたテストは,応答性の子宮内膜癌を診断するために適切に調製された腫瘍生検に対して行われるべきである)
また,<◇後ろから説明する英語の不思議!>で述べたように名詞の後に修飾語が付くのが英語の特徴であるから,形容詞句や形容詞節が主語のあとに来ることも多い.形容詞句の先頭に来るのは前置詞(例文6)を始め,現在分詞(例文11),過去分詞(例文12),形容詞(例文26)である.
The identification of numerous microtubule-associated proteins may have a profound impact on the study and treatment of human genetic disease.
(多数のマイクロチューブ結合タンパク質の同定は,ヒトの遺伝性疾患の研究と治療に対する著明な影響を持つかもしれない)
The downstream events leading to retinal damage are poorly understood.
(網膜障害につながる下流の現象は,あまり理解されていない)
This protein product expressed on the surface of tumor cells structurally appears to be ahormone receptor analogous to the epidermal growth factor receptor.
(腫瘍細胞の表面で発現されるこのタンパク質産物は,構造的に上皮増殖因子受容体に類似するホルモン受容体であると思われる)
The mechanisms responsible for bone resorption inhibition have not been clearly defined.
(骨の再吸収抑制の原因である機構は,はっきりとは明らかにされていない)
一方,形容詞節の先頭には関係代名詞が来る(例文7).ただし,関係代名詞の目的格は省略されることがあるので注意が必要である.
The mechanisms that cause these translocations are not fully understood.
(これらの転位置を起こす機構は完全には理解されていない)
動詞の前に副詞が来ることもよくある(例文9).副詞は,一語でない場合もあるので気を付けよう.
Malignant lung tumors commonly arise from the respiratory epithelium.
(悪性の肺腫瘍は,一般に呼吸上皮から生じる)
また,and(例文27)やカンマ(例文28)があるときは,主語が複数あったり主語の言い換えがあったりするので注意が必要だ.
Diagnostic tests and other clinical evaluations help to identify tumors that are sensitive to this particular drug.
(診断検査および他の臨床的評価は,この特定の薬剤に感受性である腫瘍を同定するのに役立つ)
Theβ-adrenergic antagonist, propranolol, lowers arterial pressure directly by reducing systemic vascular resistance.
(βアドレナリン受容体遮断薬プロプラノロールは,全身性の血管抵抗を直接低下させることによって動脈圧を低下させる)
以上をまとめてみると,主語のあとに来るものは以下のようになる.
図1も参照して,文の中での位置づけを確認しよう(図1③).
なお名詞だけでなく,動名詞で始まる名詞句が主語になる場合もある(例文29)ので気を付けよう.
Determining the contribution of the new drug requires a randomized trial.
(新薬の貢献度の決定は,ランダム化された治験を必要とする)
さて,このように主語を見極めることは非常に重要であるが,それを気にしすぎることも問題だ.たとえば,前から見て主語を探す作業は常に必要だが,見つけた名詞が本当に主語であるがどうかは,それに対応する動詞が登場するまでは確定しない.上で述べたように,主語の後に形容詞句や形容詞節が続く場合は,動詞が現れるまでに少し間があく場合もある.そのようなときには,まず,冒頭の主語の塊のイメージを頭に残したまま,もし次が形容詞句であると判断される場合には,その形容詞句の内容のイメージをさらに頭の別の場所に置いて動詞を探すわけである.また,その動詞が見つかっても,それと主語とのつながりを考えるよりも,動詞の次に続く目的語や副詞句を理解することに集中した方がよい.前回にも述べたが,文は前から順に理解するものであり,通常は,前を振り返って主語を確認する作業はすべきではないのだ.よほど精読をする場合や理解に困ったときには主語を確認する作業を行ってもよいが,ふだんは主語のイメージを頭の片隅に置いたまま,どんどん次を読み進めなければならない.英文は,名詞,動詞,形容詞,副詞あるいはそれらの相当語句に分けられると述べたが,それらを区切りごとに理解して,それぞれのイメージを頭に溜め込みながら読み進めることが必要なのである.
<ここがポイント>
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