[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第154回 ゆるふわ輪読会のすゝめ ―初見の論文を1時間で読んでみよう

「実験医学2023年4月号掲載」

皆さんは普段どのように論文を読んでいますか? 一人で自分の研究にかかわる論文を読むことや,研究室内のセミナーで分野内の論文を紹介し合うことが多いでしょうか.ただ,論文は一人で読むには時間がかかるうえ,研究室内だけでは特定の分野に偏りがちです.そこで本稿では,より気軽に多くの論文を読む方法として,私たちが参加している輪読会を紹介します.

私たちの輪読会では,その日の担当者がもち寄った論文を参加者全員で分担してその場で読み,順番に担当箇所の説明をしていきます.1回あたりの参加人数は4〜8人程度,所要時間は約1時間で,大まかな流れは以下の通りです.

①Abstractを論文紹介者が逐語訳(約5分)

②Introductionを参加者で分担して解読.1人1段落を2分で読んだ後,1人1分程度で要点を説明(約10分)

③Resultsを(人数が多い場合はDiscussionも)参加者で分担して解読.1人1 図表を3分で読んだ後,3分程度で説明(30〜40分)

④残りの時間で論文に対する疑問や意見を自由に語り合う

この形式は,筑波大学の白木賢太郎先生の輪読会を参考にしていますので,詳細は参考文献をご覧ください1)2).また,本会では情報共有ツールのesaやslackを使って,輪読会の議事録や気になる論文の共有も行っています.

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「科研費獲得の方法とコツ 改訂第8版」

さて,私たちの輪読会は,専攻同期のMくん(2019年当時修士2年)の「研究所内の有志で集まって,幅広い分野の論文を読む会をしませんか?」という声掛けではじまりました.集まったメンバーは,大学院生からポスドク,PIまでおり,専門も合成生物学・ゲノム編集・プロテオーム解析・免疫・骨疾患など多岐にわたります.立ち上げ当初は対面で週1回の開催でしたが,コロナ禍を機にオンライン開催に切り替え,所外からも新たな仲間が加わりました.現在は3施設7研究室8名のレギュラーメンバー(+α)で週2回開催しています.この輪読会の魅力は,おのおのの専門を活かして互いに助け合いながら知識をとり込めるところです.また,自分では選ばない論文との出会いで視野が広がる点や,自分にとっては常識でも分野外の人には新鮮でおもしろいと気づける点もよいところです.

輪読会をはじめて早3年,長続きの秘訣は「ゆるふわ感」だと気づきました.輪読会中は,研究好きな者同士,鋭い指摘を飛ばし合いつつ,和気あいあいと議論を楽しみます.皆専門が異なるため,知らないことは気兼ねなく知らないと言える快適な環境です.また,本会は任意参加なので,忙しいときは休んで無理なく続けていけます.輪読会メンバーは,論文を読む以外でも日々の困りごとを相談したり遊びの誘いをしたりと,柔軟な関係を築いています.

実のところ輪読会に参加する前は,「たった1時間で論文を読めるのだろうか」「足を引っ張ってしまいそう」と不安に感じていました.しかし,周囲の朗らかな雰囲気に励まされながら何本も論文を読むうちに,基礎知識が増え,すばやく読めるようになっていきました.研究や科学が好きだけど論文には苦手意識がある方,効率よく論文を読みたい方,いろいろな分野の研究者と交流したい方,思い切って輪読会をはじめてみませんか?同じ専攻の学生同士や,各学会の若手の会のメンバーなど,よびかければ案外簡単に参加者が集まるかもしれません.ぜひ気楽に挑戦してみてください!

文献

  1. M1で論文を書く研究室の運営」(白木賢太郎)
  2. オンラインによる論文の共読」(白木賢太郎)

樫本玲菜,北悠人(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)

※実験医学2023年4月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2023年4月号 Vol.41 No.6
クローン進化 病の起源を探る
がんの不均一性はなぜ生まれるのか 正常組織はいつ・どこで変異を獲得するのか

小川誠司/企画
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