[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第155回 学生主体のPodcastで意見発信をしてみて

「実験医学2023年5月号掲載」

大学院に進学して間もない2022年4月に,普段からお世話になっている教授に私が所属する慶應義塾大学で取り組まれている「2040独立自尊プロジェクト」を紹介していただいた.このプロジェクトは2040年問題とよばれる,2040年に日本が未曾有の超高齢社会を迎えることによって引き起こされると考えられるさまざまな社会問題を解決することを目的としている.また,研究領域の垣根を越えるだけでなく,学生を含めたアカデミア,企業,行政,海外機関といった幅広い立場の人が協力して課題解決に取り組んでいることが特徴としてあげられる.このプロジェクトの活動の一環として,学生個人が興味関心のある社会問題を紹介したうえでその社会問題に対する意見を述べるPodcast番組など学生主体の情報発信プラットフォームが展開されている.私はプロジェクトの一員としてこのPodcastで私見を述べる機会をいただいた.本稿ではPodcastでの経験を通じて感じた自分の意見を伝えることの重要性について紹介させていただきたい.

私はPodcastで「科学と社会」と題して,科学技術が社会に導入されるとき,科学技術に対して社会はどのように向き合えばよいのかというテーマを設定した.テーマ設定の背景として私自身の大学院での経験があげられる.大学院進学後にAIについて自分自身が学んだり他人に教える機会があったのだが,その際にAIに関して学んだことがなかった方と接する機会があり,そこで科学技術と社会の関係性について伝えることの重要性を実感したため,Podcastのテーマとして選択した.Podcastでは,科学技術を社会に導入する際には科学者のみならず社会全体で社会に及ぼす影響を考えることが重要であるため,科学者がサイエンスコミュニケーションを通じて社会に訴えかけることに加えて,一般の個人が周りの方と科学技術をテーマに話し合うことが必要ではないかといった話をさせていただいた.世間知らずの若輩の意見であり,他にもっと良いアイデアがあるのではないかという意見があることも承知しているが,Podcastを聞いた方からはありがたいことに好評をいただくことができた.

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科学技術に普段から触れる機会が多い方であれば,倫理問題は科学技術とは切り離して考えることができないことや,倫理問題は科学者のみで考えるものではなく社会全体で考える必要のある問題だと受け入れている方は多くいるであろう.しかし,自分自身にとって当たり前のように感じられていることはその分野に限った話であることも多く,他分野や社会全体においては広く知られていないことも多い.実際に私のPodcastを聞いていただいた人文科学系の准教授の方からは自分の分野と違う話で興味深かったというコメントもいただけたことから,今回の経験を通して特にあらゆる領域や立場の人に向けて自分自身の意見を発信することは重要だと感じた.

今回,Podcastで個人の意見を述べて問題提起をすることで,微力ではあるが少しでも多くの方に2040年問題に関心をもっていただくきっかけを作ることができたのではないかと感じている.私自身の経験が浅いことが気がかりでPodcastで話すことに最初は抵抗もあったが,結果的には取り組んでよかったと感じており,貴重な経験をすることができたと感じている.個人の意見を発信する機会があれば,本稿の読者の皆様にもぜひ取り組んでいただければと思う.この文章が皆様の後押しとなれば幸いだ.

謝辞
本稿の執筆にあたり,私を推薦してくださったKGRI(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティチュート)の加藤靖浩先生に深く御礼申し上げます.

菖蒲健太(慶應義塾大学大学院 理工学研究科)

※実験医学2023年5月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2023年5月号 Vol.41 No.8
Aging Clock 生物学的年齢を測る
加齢性疾患を予測・予防し、健康寿命の延伸へ

早野元詞,寺尾知可史/企画
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