[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第156回 「エンタメ×科学」の先にあるもの

「実験医学2023年6月号掲載」

サイエンスコミュニケーションという言葉が徐々に浸透してきた昨今,サイエンスコミュニケーターによる科学イベントやサイエンスカフェの実施,研究者による,学会の市民講座など,様々な形で「科学と社会をつなぐ活動」が行われている.専門家と非専門家の間でのコミュニケーションの際に重要なことの一つが,まず第一に「興味を持ってもらうこと」である.本稿では,エンタメ的発想を軸に,そのことについて考えていきたい.

私は現在,俳優・サイエンスコミュニケーターとして「エンタメ×科学」を掲げて活動している.2021年4月に開始したYouTube科学番組「らぶラボきゅ〜」ではプロデュース・監督・出演を務め,2023年3月現在までに90本の動画を公開している.番組では研究者や専門家の方々にゲストとして出演いただき,それぞれの専門分野について,小学校高学年の子どもたちにもわかる内容でお話しいただいている.小中学生の子どもたちが出演しているため,目の前の子どもの反応から,伝わっているのか,どれくらい興味を持っているのかを直に把握することができ,子どもへの説明に不慣れな研究者の方にも出演いただくことができる.

この番組で工夫しているところは,エンタメと科学の組み合わせ方である.番組の舞台は惑星QのQ王国.登場人物は頭からは触角が生えているQ星人である.このような独自の世界観を作り込むことで,非日常的な雰囲気を味わいながら,楽しい気分で科学を学ぶことができる.また,極力「参加型」になるよう意識している.例えば「光る生き物たちが光る理由」を取り上げる際,それを一方通行で教えるのではなく,クイズ形式にして子どもたちに考えてもらう.そうすることで,子どもたちが楽しく学べるだけでなく,自ら考えて仮説を立てるという,科学の重要なプロセスの一端にふれることもできる.

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これはリアルイベントでも実施可能で,昨年は「博物ふぇすてぃばる!」において,ポスター発表という形で同様のクイズを行った.クイズの答えをポスターに印刷しておき,付箋を貼って答えを隠す(写真).こうすることで,何度でもクイズが実施できる.実はこの付箋が星形であるのは,番組の世界観と合うという理由だけでなく,星の向きや位置を少しズラすことで「ヒントの量」を調整することができ,相手の年齢や知識量に合わせてクイズを実施することができる.

これまで,YouTube番組に限らず,科学イベントの企画・出演,イベント司会やファシリテーション等,様々な形で「エンタメ×科学」の可能性と向き合ってきた.そしてこの度,志を同じくするメンバーとチームを結成することとなった.「エンタメと科学」「科学と社会」など,二つの分断されたものを,つなぐ努力をし続けていきたい.そう考えた時にふと「漸近線(asymptotic line)のようだ」と思った.チーム名は漸近線を略した造語で「asym-line」とした.これからこのチームが,自分自身がどのように変化していくかはわからない.それでも,何かと何かをつなぐために,丁寧に寄り添う存在でありたいと思う.

佐伯恵太(asym-line 代表)

※実験医学2023年6月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2023年6月号 Vol.41 No.9
全身をつなぐ粘膜免疫のエコシステム
微生物の「共生」と「排除」を両立するしくみを解明し、疾患制御に挑む

鎌田信彦/企画
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