[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第157回 積極性が鍵!海外PDポストの内定体験記

「実験医学2023年7月号掲載」

博士号取得後にアカデミアでキャリアを築く場合,多くの人は最初に博士研究員(ポスドク,PD)を経験するだろう.博士号は研究者としての国際免許であり,世界的に有名な研究室でスキルを高めたり人脈を広げたり,よりよい設備や収入の下で研究したりするために,海外でキャリアを積む選択肢がある.しかし,海外の公募情報は手に入りにくい.そこで本稿では,海外でPDとして働くためのポスト獲得のコツや情報収集法を紹介する.

一番のオススメは,興味の惹かれる研究者と学会などで直接交渉することだ.大御所の先生に会いに行くなら,あらかじめメールでアポをとっておくと確実だ.会って意見を交換すれば,相性を確認できるだろう.意気投合した人には主著論文や履歴書,名刺を渡し,交流後に必ず御礼メールを送って関係を深めよう.また,発表を聞きに来てくれた人に覚えてもらうために,自らの発表資料に主著論文のQRコードを載せておくのも効果的だ.

国際学会に参加できなくても,諦めるのはまだ早い.研究分野や地域を絞ってNature Careers1)やFindAPostDoc 2)で調べれば,魅力的な公募が見つかるはずだ.気になる論文や研究室がなくても研究分野が明確なら,学会の求人情報やメーリングリスト(例:構造生物学分野のCCP4bb)を活用できる.特に日本の学会が発信する求人情報では,日本人が主宰している海外の研究室を見つけやすい.また,実験医学誌や各種学会誌に掲載されている留学体験記や海外研究室の紹介記事も参考になる.石坂は博士2年の秋にこれらの方法で希望の公募を見つけた.なお,公募の締切が近くても対応できるよう,早めに英語の履歴書を作っておくことを強く勧める.さらに,国際的な履歴書として一般的なNIH形式では,顔写真・生年月日・配偶者の有無・出身国を載せないなど注意が必要だ3).一人でゼロから作成するのは難しいため,英語履歴書作成セミナーを活用したり,インターネットや知り合いの履歴書を参考にしたりするのがよい.

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しかし,最終的に石坂がポストを得た方法は,学会での直接交渉でも公募でもなく,メールでの交渉だった.まず,面識がない海外の教授に,研究室に興味をもつきっかけとなった論文の感想と今後行いたい研究,履歴書をメールで送った.その研究室のPDにも確認のメールを送ったが,それでも教授からの返信はなかった.そこでもう一度教授に,論文紹介のゼミ資料も添付して研究の理解度をアピールするとともに,日本で培った専門性と留学先の専門性が一致していることや,留学先がもっていない技術を自分がもっていることを伝えた.すると簡単にオンライン面接に進み,内定を得ることができた.どうしても行きたい研究室があれば,このような工夫で熱意を伝えてみよう.

最後に失敗談を1つ共有したい.石坂が内定先のPDポストに応募したのは,博士2年の3月中旬だった.その後,推薦書を準備し,面接で研究テーマが確定したときには,海外学振の締切まで10日間しかなかった.公募がないPDポストでは助成金獲得がほぼ必須なので,万全を期して海外学振に応募できるように,博士2年の夏には渡航先を探し始め,秋には渡航先を決めるべきだったと感じる.海外ポストを探すなら,早めに情報を集めて応募しよう.本稿が,海外PDをめざす学生の参考になれば幸いだ.

文献・URL

  1. Nature Careers
  2. FindAPostDoc
  3. National Institutes of Health「Guide to Résumés & Curricula Vitae」

石坂優人,辰本彩香(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)
※ 2023年4月より(公財)上原記念生命科学財団より助成を受け,PDとしてドイツのゲッティンゲン大学に留学中.

※実験医学2023年7月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2023年7月号 Vol.41 No.11
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