このコーナーでは,『実験医学』2010年9月号から全5回にわたって掲載された連載「プレゼンテーション スライド作成講座」より,誌面を一部抜粋,公開いたします.大切な研究成果をもっと魅力的に発表するための,すぐに活かせるスライド作成のTipsを,著者ならではの視点でご解説いただいています.ぜひご一読ください.なお本連載をもとに,ポスター発表や口頭発表についても強化した単行本『研究者の劇的プレゼン術』は,好評販売中です! (編集部)
(実験医学2010年9月号掲載 連載 第1回より)
論文では本文テキストが研究内容のストーリーを辿り,口頭発表では“演者の語り”がストーリーを辿る.そしてそれぞれの説明を補助するために視覚的な資料が使われる.論文では実験データをまとめたグラフや表,あるいは方法・結果や仮説をまとめた略図がこれに当たる.一方,口頭発表の視覚的資料であるスライドには,論文と同様の“実験や仮説にかかわるグラフや表・略図”(これをデータスライドとよぶことにする)以外に,口頭発表で重要な“情報の連続性”を維持するための「つなぎ」のスライドが特に必要になってくる.このつなぎスライドがない口頭発表はどうしたって切れ切れになり,聴衆を飽きさせることにもなりかねない.口頭発表ではデータスライドとつなぎスライドを上手く連携させることを頭に入れて,内容を構成することが大切だ.
データスライドやつなぎスライドを構成するパーツや役割をさらに考えてみる(図と表1).データスライドに使用されるのはグラフであり,表であり,写真などの画像である.研究の背景や仮説・結論を説明するためにフローチャートやイラストを使うこともあるだろう.一方,つなぎスライドで一般的なのはテキストである.大抵の演者は講演タイトルを最初に見せて発表を始めるし,講演時間が長い場合は講演をいくつかのセクションに分けて小タイトルをつけ,アジェンダとして挙げることもある.これらは普通はテキストで示される.さらにイラストやイメージを要所で示して聴衆の注意を引いたり,研究内容を象徴するアイコンとして使用する.これらのつなぎスライドが,口頭発表で大切な“情報の連続性”を維持するのに使われる.口頭発表の構成から考えると,「導入」「メインメッセージ」「要約」の屋台骨を支えるのがデータスライドで,つなぎスライドは「導入」の一部,「要約」の一部と,それぞれのパートの境目で効果を発揮する.
データスライドとつなぎスライドの枚数や役割の重さの比率は,口頭発表の種類によって変わってくる.一般に講演時間が長くなればなるほど,データスライドに対するつなぎスライドの割合は多くなる.あるいは,学会での一般演題発表ではデータスライドが中心になるが,シンポジウムや基調講演,また特別講演ではつなぎスライドの使用頻度は高くなる.人事選考のセミナー(ジョブセミナー)やグラント獲得のためのヒアリングでは,データスライドと同等かそれ以上に,自分の研究スタンスや展望を聴者に理解してもらうためのつなぎスライドは重要だ.