Kyota Ko,Simon Gillett(東京工業大学英語コミュニケーションプログラム 講師/ベルリッツ・ジャパン)
本コンテンツは,実験医学同名コーナーからの転載,2014年11月に発行された単行本「理系英会話アクティブラーニング」シリーズ(発表・懇親会・ラボツアー編,スピーチ・議論・座長編)からのスピンアウトとなります.イギリス留学中のテツヤが実験医学onlineにも登場!
テツヤです.ポスドクとしてイギリスの研究所に入ってもう2年になります.ハリントン教授の研究室の唯一の日本人として,国を代表して,なんて大げさですが,がんばっています.
こちらでは週1で研究成果の発表会があったり,大学主催の国際シンポジウムがあったりと,他の人のプレゼンを聞く機会がけっこうあります.もちろん,自分が発表する機会もたくさん.そんななか,来る前から思っていたことではあるのですが…
研究内容が「やたらわかりやすいプレゼン」と「やたらわかりにくいプレゼン」がありますよね? 僕はどちらかというと,後者寄りのプレゼンをしていました… 少なくとも,こちらに来るまでは.
渡英してまもない頃,アメリカの某有名工科大学の研究者が2名,シンポジウムにプレゼンをしに来ました.一人はアメリカ人,もう一人はメキシコ人.
ところがアメリカ人研究者の発表は正直,僕にはよくわからなかったです.彼のプレゼンは,聞いたことのない単語が2秒に1回使われ,スライドも文字や数式でビッシリ.
一方でメキシコ人研究者の発表は,8割くらい理解できました.英語はたどたどしいけど,ゆっくり喋るし,難しい単語は使わないし,どのスライドも一目でなにが言いたいのかわかるシンプルさ!
これってやっぱり僕が英語がそんなに得意じゃないからこう感じたのかな? 気になって,イギリス人の同僚に感想を聞いてみました.
What did you think about the American guy’s presentation?
アメリカ人研究者の発表はどうだった?
What he was working on was interesting. What he was saying was not.
彼の取り組みはおもしろかったね.言ってることはつまらなかったけど
同僚も「半分くらいしか理解できなかった」ですって!
There’s no way people can understand all that jargon.
あちらがよく使う専門用語をバンバン使われてもわからないんだよね
All his jokes were inside jokes.
ジョークも内輪なものばっかり
It’s unfortunate he isn’t so serious about communicating his groundbreaking work.
せっかくの革新的な研究を,真剣に伝える気がないのは残念だ
と批判の嵐!
じゃあじゃあ,メキシコ人研究者の発表は?
It was nothing sensational, but very entertaining.
驚くような内容じゃなかったけど,聴いてて楽しかったよ
たしかに,スライドに書いてあることは全部,ちゃんと読めるフォントサイズだったし,文字も極力少なくて,写真や,シンプルな図を多用していました.ジョークが,僕でもわかりました.
後にハリントン教授が僕にくれた印象的な言葉があります.
A researcher is analogous to a small company. A researcher does the planning, operation, investigation, PR of the greatness of his or her work, and plotting out external communication, just like product marketing. It’s a lot of work, but a researcher’s job covers all the way up to the communication part.
研究者は,研究の企画から実施,検証,そして世の中に研究のすばらしさを伝える広報に,伝え方を考えるマーケティングまで,最初から最後まで自分に責任がある,小さな企業のようなものだ.たいへんだけれど,世間にしっかり伝えるまでが研究者の仕事だよ
メキシコ人研究者は英語が母語ではなかったからこそ,ネイティブではない聴き手の気持ちが理解できたのではないでしょうか.結果的に,ネイティブにも非ネイティブにもわかりやすいプレゼンになっていました.相手が理解できなかったら,それは自分の責任,ぐらいに思うことが大事なんですね.
以前僕は,研究がうまくいって,いいデータがとれたら 「はい,おしまい」 と心のどこかで思っていたところがあったかもしれません.どうやったら自分の研究がすばらしいと世の中に理解してもらえるかを考えるところから,自分なりに研究しています.