第6回 人生のプライオリティーを決める
プロダクティビティーを上げる時間管理術(2008年6月号)のOnline Supplement Material
本誌連載「プロフェッショナル根性論」も全10回の後半に差し掛かり,ますますご好評をいただいています.第6回(6月号掲載)では,『プロダクティビティーを上げる時間管理術』として,緊急性・重要性から仕事のプライオリティー(優先順位)を決定し,生産的な研究生活を送るための方法をご執筆いただきました.
さて,今回のOnline Supplement materialでは,自分にとっての最大のプライオリティーともいえる,「夢」を実現させる方法についてご紹介いただきます.いますぐにでもはじめられる方法ですので,ぜひお試しください.(編集部)
大統領も実践しているテクニック
1979年のハーバードビジネススクールの学生のうち
- ・3%は将来の目標を紙に書いていた
- ・13%は将来の目標を持っていたが,紙には書いていなかった
- ・84%ははっきりとした目標を持っていなかった
さて10年後の彼ら/彼女らの収入を見てみると,将来の目標をもっていたが,紙には書いていなかった13%の人は,はっきりとした目標を持っていなかった84%の人の平均2倍の収入があった.
そして将来の目標を紙に書いていた3%の人は,残り97%の人のなんと平均10倍の収入があったのだ(※).
目標を書くことの大切さは,ビジネスの世界に限ったことではない.第42代アメリカ合衆国大統領ビル・クリントンも,学生のころから「政治の世界に入り大統領になる」という目標を紙に書き,常に持ち歩いていたと自伝「My Life」で述べている.
「夢」を「目標」にするために
目標を紙に書くという行為は,その目標の達成の可能性を上げる効果があるのではないだろうか.思うだけでは「夢」であり,紙に書いてさらに人に知ってもらうことではじめて達成可能な「目標(ゴール)」になるのではないかと考える.そしてその目標というのは具体的な方がよい.
さらに大事なことは,期限を決めることである.期限のない目標は「夢」の範疇でしかない.たとえば「世界平和に貢献する」とか「一流の研究者になる」というような漠然としたものより,「6カ月以内に世界平和を呼びかけるウェブサイトをつくり10万人に見てもらう」とか「3年以内に一流科学雑誌に論文を掲載する」など下品なくらい具体的なほうがよい.その意味では「目標」というよりは目標達成に向けた「マイルストーン(標識)」と考えるべきだろう.
ここでの「夢=目標」は本誌連載第6回でとりあげた「To doの分類」で言うところの領域II(重要であるが緊急性なし)の事項に該当する.本誌連載では,生産性の高いキャリア形成のために,領域IIにコンスタントに時間を充てることを勧めた.明確なマイルストーンを設定し,日々「夢=目標」への距離を意識することは,まさに生活のなかで領域IIに充てる時間を確保し続けることに相当するとも考えられる.
実際の効果のほどは
自分の経験談を語ると,まずポスドクとして渡米する前には日本の大学の送別会で「3年でCellにファーストオーサーで論文を出せなければ研究者をやめる」と宣言した.このマイルストーンは3年では達成できなかったが,チャーチルの言葉で自分を鼓舞・正当化し,
成功とは,失敗から失敗へと情熱を失わずに進む能力である
Success is the ability to go from one failure to another with no loss of enthusiasm.
―Sir Winston Churchill
厚顔にも研究者を続け,その2年後に達成する.その後独立してからは「Cell,Nature,Scienceいずれかにラストオーサーで論文をのせる」とブログで宣言し,1年で達成した.
マイルストーンを紙に書くことの重要性
マイルストーンを紙に書き他人の目にさらすことは,自分にプレッシャーをかけ鼓舞するという効果だけではない.文字となったマイルストーンを見た人のうち何人かは文字通り真剣に受け取ってくれて,ためになるポジティブなアドバイスをくれたり,力になってくれたりする.馬鹿にしたり茶化す人はアカデミアにはほとんどいないはずだ.たとえいたとしても,無視されるよりずっとよい.
(※)(出典:Mark McCormack,What They Don't Teach You in the Harvard Business School)
参考:http://www.lifemastering.com/en/harvard_school.html
プロフェッショナル根性論 目次
- 第1回 強みとは (2017/10/31公開)
- 第2回 自分のキャパシティーを見極める (2017/11/07公開)
- 第3回 変化を促進する米国流研究システム (2017/11/14公開)
- 第4回 科学の世界に物語力は必要か? (2017/11/21公開)
- 第5回 フィードバックがもたらす利益と損失 (2017/11/28公開)
- 第6回 人生のプライオリティーを決める (2017/12/05公開)
- 第7回 ブログをはじめるにあたって (2017/12/12公開)
- 第8回 耳から入る洋書読破術 (2017/12/19公開)
- 第9回 心に残るプレゼンテーション (2017/12/26公開)
- 第10回 創造性とは (2018/01/09公開)
本連載を元に,『やるべきことが見えてくる研究者の仕事術』が単行本化されています.もっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください.
著者プロフィール
島岡 要(Motomu Shimaoka)
大阪大学卒業後10年余り麻酔・集中治療部医師として敗血症の治療に従事.Harvard大学への留学を期に,非常に迷った末に臨床医より基礎研究者に転身.Mid-life Crisisと厄年の影響をうけて,Harvard Extension Schoolで研究者のキャリアパスについて学ぶ.現在はPIとしてNIHよりグラントを得て独立したラボを運営する.専門は細胞接着と炎症.(執筆時のプロフィールとなります.)
ブログ:「ハーバード大学医学部留学・独立日記」A Roadmap to Professional Scientist