第9回 心に残るプレゼンテーション
説得力のあるプレゼンテーションの実例
TED(Technology,Entertainment,Design)は世界トップクラスのクリエイティブでイノベーティブな人材が集いプレゼンテーションする場であり,そこではある意味世界最上のプレゼンテーションを見ることができる.そのなかで私が選んだ最も説得力のあるTED Talkスライドショーとプレゼンテーションを4つ紹介する.
Alisa Miller: Why we know less than ever about the world
※動画はhttp://www.ted.com/index.php/talks/view/id/248からご覧ください
◆ポイント
統計データとビジュアル(変形した世界地図),さらに「ブリトニースピアーズの方が安くつく」いうキャッチーなメッセージが,スティキーな(こころに残る忘れがたい)ストーリーを構成している.あえて原稿を読みながらのプレゼンテーションも,この場合は「正確さ」「真剣さ」などの印象を聴衆に与え,より多くの注目を集めるのに一役かっている.
Brian Greene: The universe on a string
※動画はhttp://www.ted.com/index.php/talks/view/id/251からご覧ください
◆ポイント
まず冒頭の1分半で何が問題点の核心なのかをクリアに語ることにより,聴衆を引きつける.続いて,その重要な問題にいかにタックルしてきたのかという「問題解決のストーリー」に聴衆を牽引してゆく.
Al Gore: New thinking on the climate crisis
※動画はhttp://www.ted.com/index.php/talks/view/id/243からご覧ください
◆ポイント
30分のプレゼンテーションを各5分の6つの部分にわけ,それぞれの部分が映像とデータでシンプルなメッセージを語っている.また,意識的にゆっくりと,平易な英語で語ることにより,クリアで力強いストーリーを形作っている.
Paul Rothemund: Casting spells with DNA
※動画はhttp://www.ted.com/index.php/talks/view/id/183からご覧ください
◆ポイント
Relate:まず自分の研究をだれもが知っていて興味をもつようなことに「関連」づける.Story:超具体的な実験手法(どの試薬をどこから取り寄せて,何度で培養したなど)を生き生きと小さな「物語」として語る.Context:「何の役に立つかという,基礎研究の社会への意味付け」.以上のプレゼンテーションに重要な3つの要素を5分という短い時間にうまくまとめて話している.
また4人とも演壇をはなれ,全身を使ってメッセージを放っている点も注目に値する.
プロフェッショナル根性論 目次
- 第1回 強みとは (2017/10/31公開)
- 第2回 自分のキャパシティーを見極める (2017/11/07公開)
- 第3回 変化を促進する米国流研究システム (2017/11/14公開)
- 第4回 科学の世界に物語力は必要か? (2017/11/21公開)
- 第5回 フィードバックがもたらす利益と損失 (2017/11/28公開)
- 第6回 人生のプライオリティーを決める (2017/12/05公開)
- 第7回 ブログをはじめるにあたって (2017/12/12公開)
- 第8回 耳から入る洋書読破術 (2017/12/19公開)
- 第9回 心に残るプレゼンテーション (2017/12/26公開)
- 第10回 創造性とは (2018/01/09公開)
本連載を元に,『やるべきことが見えてくる研究者の仕事術』が単行本化されています.もっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください.
著者プロフィール
島岡 要(Motomu Shimaoka)
大阪大学卒業後10年余り麻酔・集中治療部医師として敗血症の治療に従事.Harvard大学への留学を期に,非常に迷った末に臨床医より基礎研究者に転身.Mid-life Crisisと厄年の影響をうけて,Harvard Extension Schoolで研究者のキャリアパスについて学ぶ.現在はPIとしてNIHよりグラントを得て独立したラボを運営する.専門は細胞接着と炎症.(執筆時のプロフィールとなります.)
ブログ:「ハーバード大学医学部留学・独立日記」A Roadmap to Professional Scientist