実験医学 2018年11月号 Vol.36 No.18

急増する炎症性腸疾患に挑む

腸内エコロジーの理解によるIBD根治への道

  • 長谷耕二/企画
  • 2018年10月19日発行
  • B5判
  • 145ページ
  • ISBN 978-4-7581-2513-0
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:あり
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《企画者のことば》

栄養吸収の場であり,バリア器官でもある腸管の内腔には体細胞を凌駕する数の腸内細菌が存在しており,菌体間あるいは宿主細胞と相互作用しながら"腸内エコロジー"を形成している.食品成分・外来微生物・遺伝的要因などによって腸内エコロジーの均衡が崩れるとさまざまな全身性疾患の素因となることが明らかになりつつある.その代表例はクローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)である.

長谷耕二 (慶應義塾大学薬学部生化学講座)

特集の概論を読む

炎症性腸疾患(IBD)は,腸内細菌の“生態系”の破綻により発症すると考えられ,その維持機構の解明がすすめられています.栄養シグナル,生体バリア,再生医療と多角的視点から難病といわれるIBDの新規療法開発に挑む研究を紹介します.

目次
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特集

急増する炎症性腸疾患に挑む
腸内エコロジーの理解によるIBD根治への道
企画/長谷耕二
栄養吸収の場であり,バリア器官でもある腸管の内腔には体細胞を凌駕する数の腸内細菌が存在しており,菌体間あるいは宿主細胞と相互作用しながら"腸内エコロジー"を形成している.食品成分・外来微生物・遺伝的要因などによって腸内エコロジーの均衡が崩れるとさまざまな全身性疾患の素因となることが明らかになりつつある.その代表例はクローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)である.
腸内細菌叢のバランスが破綻すると,炎症性腸疾患をはじめとした種々の疾患の発症に関与することが明らかになりつつある.腸内環境を適切に保つうえで腸管IgA抗体は中心的な役割を果たしていると考えられている.近年の解析技術の向上に伴って,IgA抗体とその抗原となる腸内細菌の相互作用がより詳細に検討されるようになってきている.本稿では,IgAによる腸内細菌叢制御について,最新の知見を踏まえながら概説する.
われわれの腸内には宿主の細胞を上回る数の常在微生物群が生息し,1つのエコロジー(生態系)を構築している.健常な腸内細菌叢は消化補助や免疫系の成熟促進など宿主に多大な利益をもたらすが,腸内細菌の侵入や構成異常は炎症性腸疾患をはじめとする疾患の増悪因子となる.そのためわれわれの体は,腸内エコロジーを制御するための多様な機構を備えている.本稿では,宿主と腸内細菌の相互作用による健常な腸内エコロジーの維持とその破綻による炎症性腸疾患の発症について,最新の知見をもとに考察する.
絶食時,消化管は初期状態にあるが,摂食刺激によって劇的な形態の変化および細胞回転を起こし,食物を残さず吸収するための機能を発揮する.この絶食・再摂食に対する応答機構は,消化器疾患のみならず,現代の代謝疾患や免疫疾患の病因・病態研究において重要な問題であるとともに,予防・治療法開発の標的ともなる可能性があり,現在,細胞・個体レベルでメカニズム解明がさかんに進められている.さらに,疾患モデルを用いて,間欠的絶食による炎症や代謝異常の治療効果も報告されており,ヒトへの臨床応用も考えられている.
炎症反応は異物や傷害された細胞の除去を主体とする恒常性維持機構である.しかし一方で,多くのがん組織において慢性炎症が頻繁に認められ,発がん過程への関与が示唆されている.次世代シークエンサー技術等の発展により,がん細胞には特定の遺伝子配列異常に加え,DNAメチル化やクロマチン状態に代表されるエピゲノム制御の異常が多数認められることが明らかとなってきた.さらに近年では,炎症反応によって誘発されるエピゲノム制御の変化ががんの発生・進展に深く関与することが明らかとなりつつある.本稿では,炎症反応によるエピゲノム制御の変化が発がん過程におよぼす影響について最新の知見を踏まえて紹介したい.
遺伝的な背景をもつ宿主において,消化管内に多数共生している微生物と粘膜免疫系との関係から炎症性腸疾患(IBD)の慢性炎症病態が形成させると考えられている.IBDにおける異常な免疫応答を制御するために抗TNF-α抗体製剤をはじめとする免疫制御治療薬が多数開発され,次々と臨床応用されている.種々の薬剤を適切に使用するためにはIBDのモニタリングのためのバイオマーカーが必要であり,より診断精度が高く,鋭敏にIBDの活動性を評価しうる新規バイオマーカーの探索が続けられている.
炎症性腸疾患制御の新展開【三上洋平,金井隆典】
炎症性腸疾患は,欧米諸国はもとより,わが国をはじめとしたアジア各国でも患者数が急速に増加している腸管の慢性炎症性疾患である.近年,分子標的薬の開発により,治療選択肢も拡大しているが,いまだに根本治療が確立していないことに加えて,治療抵抗例,治療に伴う副作用,線維化による腸管狭窄により治療に難渋する症例も多く,さらなる研究と臨床開発の推進が求められている.近年,腸内細菌学の進歩に伴い,炎症性腸疾患の病態改善をめざして,従来の免疫統御療法とは異なるアプローチが期待されている.
近年の腸上皮研究の進歩は日進月歩であり,このおよそ10年,まさに目を見張る革新的成果が相次ぎ,幹細胞研究そのものを牽引する領域に成長した.われわれのグループは,そのなかでも重要な位置を占めるユニークな数々の成果を報告してきた.本稿ではこの10年の当該研究領域を俯瞰しつつ,われわれの主な研究成果である独自の腸上皮培養方法と,この細胞を利用した世界初となる腸上皮培養細胞の再生医療の開発,さらには培養細胞の特性の解析を通じて明らかになった腸上皮の再生メカニズムとしての「胎児化」について概説したい.

連載

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海の遊牧民から素潜りの遺伝子型が見つかる【中山一大】
脂肪滴は細胞核の内膜からも形成されるー新しい核内反応制御機構の可能性【木村 暁】
RNA新大陸は幻か否か【中川真一】
運命決定に中心的に働く転写因子:パイオニア因子ー出芽酵母における網羅的な同定と機能解析【古久保哲朗】
中国での大学院生やポスドクの待遇について【服部素之】
カレントトピックス
Next Tech Review
標的タンパク質を分解する新たな低分子薬の開発技術【大岡伸通,内藤幹彦】
ブレークスルーを狙うバイオテクノロジー
ゲノム編集ー美しきテクノロジーウェブの新たな中心【谷内江 望】
挑戦する人
脳の複雑性と疾患に人工知能で挑む!【水谷治央】
クローズアップ実験法
成長因子を使用しない低価格なヒト多能性幹細胞の培養方法【吉田則子,長谷川光一】
創薬に懸ける~日本発シーズ、咲くや?咲かざるや?
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ナレッジマネジメントとは何か(その1)【梅本勝博】
私の実験動物、やっぱり個性派です!
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申請書のレイアウト,最後の見直しにむけて【大塩立華】
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研究は,教育の向こうにある【森田理日斗】
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  • 【本書名】実験医学:急増する炎症性腸疾患に挑む〜腸内エコロジーの理解によるIBD根治への道
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