実験医学 2019年1月号 Vol.37 No.1

なぜ、いま核酸医薬なのか

次なる創薬モダリティの本命

  • 井上貴雄/企画
  • 2018年12月20日発行
  • B5判
  • 144ページ
  • ISBN 978-4-7581-2515-4
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

低分子医薬や抗体医薬による創薬シーズの枯渇が危惧されるなか,オリゴ核酸を基本骨格とする「核酸医薬」が新しい創薬モダリティとして注目を集めている.本特集では,概論において核酸医薬の全体像を概説した後,代表的な核酸医薬であるアンチセンス,siRNA,アプタマー,CpGオリゴの開発状況を紹介する.さらに,核酸医薬開発と密接に関連する基盤技術として,DDS(体内動態),RNAデータベース,RNA検索技術をとり上げる.本企画により核酸医薬の包括的な理解が進み,関連する研究領域との有機的な相互作用が生まれることを期待したい.

井上貴雄(国立医薬品食品衛生研究所)

特集の概論を読む

立て続けの承認を受け,いま再び注目を集める核酸医薬.短い核酸が作りだす多彩で巧妙な生体制御のメカニズムと医薬品開発に必須となるDDS技術の革新を紹介.2018年から施行した臨床研究法の解説記事も必見.

目次
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特集

なぜ、いま核酸医薬なのか
次なる創薬モダリティの本命
企画/井上貴雄
概論―核酸医薬ーオリゴ核酸が生み出す多彩な機能【井上貴雄】
低分子医薬や抗体医薬による創薬シーズの枯渇が危惧されるなか,オリゴ核酸を基本骨格とする「核酸医薬」が新しい創薬モダリティとして注目を集めている.本特集では,概論において核酸医薬の全体像を概説した後,代表的な核酸医薬であるアンチセンス,siRNA,アプタマー,CpGオリゴの開発状況を紹介する.さらに,核酸医薬開発と密接に関連する基盤技術として,DDS(体内動態),RNAデータベース,RNA検索技術をとり上げる.本企画により核酸医薬の包括的な理解が進み,関連する研究領域との有機的な相互作用が生まれることを期待したい.
次なる創薬モダリティとして核酸医薬(アンチセンス核酸,siRNA,アプタマーなど)に大きな注目が集まっている.なかでも,古くから着目され,承認数と臨床試験数において先行しているアンチセンス核酸は,核酸医薬開発の中心的なプラットフォームとして着実に成長を遂げており,今後さらに研究開発が加速していくものと思われる.本稿では,アンチセンス核酸の代表的な作用メカニズムについて概説するとともに,近年立て続けに承認を受けた4つのアンチセンス核酸について分子設計戦略を説明する.また,われわれが開発に取り組んでいる架橋型人工核酸の研究成果についても紹介する.
RNA干渉(RNAi)の発見から20年が経過した2018年,RNAiを利用したsiRNA医薬がはじめて上市された.siRNAは生体内に存在する機構を利用して標的遺伝子の発現を特異的に強く抑制することから,遺伝子の機能解析研究ツールとしてだけでなく,当初から既存モダリティでは達成困難な疾患への治療薬としての展開が期待されていた.一方で医薬品として用いるには種々の課題が存在するが,近年,核酸修飾や核酸デリバリー技術の進展に従って,特に肝臓で発現する遺伝子を標的としたsiRNA 医薬品に関してはヒトに安全に投与されるレベルに達し,上市品以外にも多数の薬剤が臨床試験中である.今後も技術開発の発展とともに,新たな治療法の提供に大きな役割を果たしていくものと期待される.
標的分子に特異的に結合する核酸アプタマーは,1990年に発表されたSELEX法により見出される.その後,多くの研究者により種々の改良SELEX法が考案され,アプタマー取得の事例報告は数多い.さらに,見出された核酸アプタマーのいくつかは,医薬品化をめざした臨床試験が,世界で行われている.われわれも,自社創製したRBM-007(FGF2アプタマー)の臨床試験を米国で開始した.2004年に承認された加齢黄斑変性症治療薬であるpegaptanib sodium(Macugen)に続く医薬品が臨床現場で使われる日が遠くないことを強く望んでいる.
Toll-like receptor(TLR)9の合成リガンドであるCpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)は強い自然免疫活性化能を有しており,ワクチンのアジュバントとして働くことが知られている.2017年には世界ではじめてCpG ODN含有B型肝炎ワクチンであるHeplisav-B がアメリカ食品医薬品局(FDA)によって承認された.CpG ODNの用途は多岐にわたり,感染症やがんワクチンのアジュバントとしてのみならず,単剤または併用療法で抗腫瘍薬や抗アレルギー薬としても開発研究が行われており,現在までに100を超える臨床試験が進められてきた.さらには新規次世代型CpG ODNの報告も次々となされている.本稿ではCpG ODNの歴史を振り返るとともに,最新の臨床試験と次世代型CpG ODN開発研究をわれわれの研究成果とともに解説する.
核酸医薬は高分子であり,高分子に共通する体内動態特性を示す.一方で,体内動態に大きく影響するタンパク質結合性は,核酸医薬の化学修飾や構造に依存する.ホスホロチオエート化核酸は血中タンパク質結合率が高く,循環血液中に移行後は肝臓に徐々に移行する.一方,モルフォリノ核酸のタンパク質結合率は低く,比較的すみやかに糸球体濾過を受け体内から消失する.脂質ナノ粒子やガラクトース修飾,DNAナノテクノロジーを利用することで,核酸医薬の体内動態制御が試みられている.本稿では,承認済の核酸医薬を例に,体内動態の制御技術を紹介する.
核酸医薬品開発とRNAデータベース【廣瀬直毅,河合 純,川路英哉】
標的とするRNAに対し特異性の高い分子を柔軟に設計できる核酸医薬品の開発において,生体内のRNAに関するデータはきわめて重要である.標的としたいRNAの一次構造(塩基配列)や発現量に関する情報を参照することで核酸配列の効果的な設計や評価が可能となるが,RNA研究は近年目覚ましく進んでおり,参照可能なデータベースもさまざまである.そこで本稿では近年のRNA研究とRNAデータベースに触れたうえで,核酸医薬品開発におけるRNAデータ活用の観点,そして核酸医薬品開発を対象に設計された現在構築中のデータベースについて紹介する.
核酸医薬品は,標的のRNAと配列特異的に結合することにより作用する一方で,本来の標的とは無関係なサイトにも結合して意図しない影響を与える場合がある(オフターゲット効果).本稿では,オフターゲット効果をインシリコに予測するためのポイントを,すでに承認された核酸医薬品の事例などをとりあげながら概説する.また,核酸医薬品のオフターゲット予測に有効な,正確で漏れのない塩基配列検索プログラムとして,ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)の公開するGGGenomeを紹介する.

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