実験医学 2012年5月号 Vol.30 No.8

代謝,発生,免疫で動き出す 低酸素応答システム

HIF・PHDの新機能と疾患

  • 中山 恒,合田亘人/企画
  • 2012年04月20日発行
  • B5判
  • 129ページ
  • ISBN 978-4-7581-0083-0
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

われわれヒトは空気中の酸素を取り込み,効率的なエネルギー産生を行う.酸素が少ない環境(低酸素環境)では,代謝や呼吸を調節し,多様な生理応答を引き起こして,低酸素環境に適応する(低酸素応答).この低酸素環境は生体内の微細環境で生理的に認められ,悪性腫瘍をはじめとするさまざまな疾患においても生じる.この十数年の間に,低酸素応答を担う分子が次々と同定され,低酸素応答機構が分子レベルで明らかにされてきた.その中心に位置するのがPHD-HIF経路である.本特集ではこれらの分子の働きと,そこにとどまらずに広がりゆく低酸素研究の展望についてご執筆いただいた.

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代謝・発生・免疫など体内の様々な生命現象で機能する低酸素応答シグナル.エピジェネティクスやin vivoモデルなどから見えた,鍵分子HIF・PHDの新機能と,がん・炎症・代謝性疾患への関与を紹介!

目次

特集

代謝,発生,免疫で動き出す 低酸素応答システム
HIF・PHDの新機能と疾患
企画/中山 恒,合田亘人
多彩な生命現象に働く低酸素応答システム【中山 恒/合田亘人】
われわれヒトは空気中の酸素を取り込み,効率的なエネルギー産生を行う.酸素が少ない環境(低酸素環境)では,代謝や呼吸を調節し,多様な生理応答を引き起こして,低酸素環境に適応する(低酸素応答).この低酸素環境は生体内の微細環境で生理的に認められ,悪性腫瘍をはじめとするさまざまな疾患においても生じる.この十数年の間に,低酸素応答を担う分子が次々と同定され,低酸素応答機構が分子レベルで明らかにされてきた.その中心に位置するのがPHD-HIF経路である.本特集ではこれらの分子の働きと,そこにとどまらずに広がりゆく低酸素研究の展望についてご執筆いただいた.
HIFが制御するエネルギー代謝【合田亘人/鈴木智大/金井麻衣】
エネルギー代謝は,細胞の生存とその機能発現に必須であり,ほとんどの細胞では酸素を利用してミトコンドリアで行われる.しかしながら,肥満,糖尿病,虚血性心疾患やがんなどの病態で,細胞の酸素利用度が制限される低酸素環境が形成されると,ミトコンドリア非依存性のエネルギー代謝へ変換する.最近,この低酸素適応性エネルギー代謝変換がさまざまな病態の発症や進展に密接にかかわっていることが次第に明らかにされてきた.本稿では,まず低酸素に対する細胞レベルの代謝応答について概説し,この低酸素応答の破綻が個体レベルのエネルギー代謝,特に膵臓や肝臓における糖・脂質代謝に及ぼす影響について,病態モデルで明らかにされてきた最近の知見を交えて解説する.
HIF-1標的遺伝子とエピジェネティックな制御機構の網羅的探索【三村維真理/油谷浩幸/児玉龍彦/南学正臣】
低酸素状態は種々の臓器にとって致命的な病態を惹起する.低酸素下における遺伝子発現を制御するマスターレギュレーターとして知られる転写因子HIF(hypoxia-inducible factor)は,その標的遺伝子のプロモーターあるいはエンハンサー領域に結合し,遺伝子発現を調節することで低酸素に対するさまざまな生体の防御機構を調節している.次世代高速シークエンサーを用いた網羅的解析により,低酸素に関連する疾患の進展に関与する重要な因子と,それに伴うヒストン修飾を同定し,その治療戦略に役立てることができる可能性がある.
HIF-1αと低酸素がもたらすT細胞分化への影響【池尻 藍/永井重徳/小安重夫】
免疫細胞は大気と比較して酸素濃度が低いリンパ節や脾臓で機能を獲得し,とりわけ1%未満といわれている感染や炎症部位で働くにもかかわらず,免疫細胞における酸素濃度の影響についての報告は未だ少ない.しかし近年,自己免疫疾患に関与するインターロイキン17産生CD4+ヘルパーT細胞(Th17細胞)の分化への酸素濃度変化の影響や,低酸素環境での恒常性を維持する転写因子HIF-1α(hypoxia-inducible factor 1α)の働きについて新たな知見が報告されたため,注目される分野となっている.そこで本稿では,これまでの本領域における研究を紹介する.
ノックアウトモデルからみたin vivo低酸素応答【南嶋洋司/末松 誠】
利用できる酸素が限られた環境では,われわれ哺乳動物の個体・臓器・細胞は代謝や恒常性の維持機構を低酸素モードに切り替えて各々の延命を試みる.そのイベントの多くは転写因子HIFによってドライブされるが,そのHIFはプロリン水酸化酵素PHDファミリーによって負に制御されている.そのため,PHDはHIFを介して低酸素応答のON/OFFを決定している“酸素濃度センサー”であるといえる.本稿では,酸素濃度センサーPHDのin vivoでの役割についてPHD1~3のノックアウトマウスの表現型から迫ってみたい.
TRPチャネルを介する新しい酸素センシング機構【高橋重成/植田誉志史/森 泰生】
われわれ好気性生物にとって「酸素」(O2:分子状酸素)は必要不可欠である.しかし,O2は体内に取り込まれると一部が過酸化水素や超酸化物イオンなどの活性酸素種に変化し,生体に「O2毒性」を示すことがわかっている.高濃度O2を吸引すると,呼吸器疾患,未熟児網膜症などを発症し,最悪の場合には死に至るのである.O2の生理的意義はこのように両義的であるために,好気性生物は体内に取り込むO2の分圧を鋭敏に感知し,組織へのO2供給を制御するしくみを備えている.今回われわれは,「O2センサー」として機能するイオンチャネルTRPA1を見出した.特に,迷走神経においては,TRPA1が高O2濃度および低O2濃度を感知し呼吸機能を調節することがわかった.
PHDによって制御される低酸素応答シグナル【中山 恒】
HIF(hypoxia-inducible factor)は低酸素応答で中心的な働きをする転写因子である.低酸素環境下では,HIFのαサブユニットの発現が上昇して,HIFが活性化する.PHD(prolyl-hydroxylase domain containing protein)は,HIF-αのプロリン残基を水酸化する酵素であり,HIF-αの酸素濃度に依存した発現を規定する分子として注目されてきた.近年,PHDがHIF以外のタンパク質を水酸化して,その活性を調節することが次々と報告されてきた.本稿では,PHDを介して制御されるHIF経路とHIF非依存的経路の役割を,細胞死制御を中心に概説したい.

Update Review

コネクトーム― 脳の「ルールブック」をひもとく【岩崎広英】

トピックス

カレントトピックス
二本鎖RNAセンサーによるリガンド認識とシグナル伝達機構の複雑性【瀧澤俊広/石橋 宰/アリ モハメド】
造血幹細胞を休眠状態に誘導する骨髄内シュワン細胞の重要性【山﨑 聡/中内啓光】
レシピエントの非造血系抗原提示細胞は急性移植片対宿主病を誘導する【小山幹子】
ESCRT-Ⅲ複合体とDeltexによるリガンド非依存的なNotch 情報伝達系の制御【堀 一也/Spyros Artavanis-Tsakonas】
News & Hot Paper Digest
抗生物質に対する耐性菌進化の予測は可能か?【若本祐一】
ダイオキシン受容体の新たな展開【熊ノ郷 淳】
がん抑制因子(tumor suppressor)としてのSWI/SNF 複合体【加藤宏幸】
がん血管新生を選択的に阻害する分子標的の発見!【向山洋介】
米国へルスケアシステムのあり方が引き起こした2つの問題【MSA Partners】

連載

【新連載】Bench to Clinic~研究室と明日の医療をつなぐパイオニアたちの挑戦
第1回 外科医からバイオベンチャーの世界へ【矢﨑雄一郎】
クローズアップ実験法
発現データからmiRNAの働きを予測する【田口善弘】
誌上留学! ―ラボ英会話のKEY POINTS >>> Web留学編へ
聞く・見る・数えるノックダウン【浦野文彦/Christine Oslowski/Marjorie Whittaker】
絵で見る先端分子生物学
エイズ根治の主役 抗HIV 抗体の抗原認識機構【解説:胡桃坂仁志/絵:松本亮平】
ヒトの病気に潜む進化の記憶を探る 進化医学
せめぎ合う遺伝子~インプリンティング異常とエピゲノム疾患【井村裕夫】
ラボレポート ―独立編―
ブラックスワンを期待して ―Department of Biomedical Sciences, Cedars-Sinai Medical Center【桐野陽平】
Opinion ―研究の現場から
幸せな研究生活を送るための研究室の選び方【矢口邦雄】

関連情報

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  • [1] 心エコーでみる慢性的なHIFの活性化が引き起こす心不全
  • 南嶋洋司/末松 誠
  • 7秒 2012年4月20日公開
  • 説明:10週齢の雄マウスにおける心エコー検査(胸骨左縁短軸像,Bモード)の動画を示す.PHD2,PHD3ともに欠損したマウス(PHD2/3 DKO)では,対照群(Control)と比較して左心室内径の拡大や収縮力の低下などが観察される.Control:PHD2,PHD3ともに野生型の遺伝子を持つマウス. PHD2/3 DKO:体細胞のPHD2遺伝子はタモキシフェン投与によって破壊されるが,PHD3遺伝子は胚細胞レベルで欠損しているマウス.両群ともタモキシフェン投与によって活性化するCreリコンビナーゼ(Cre-ER)遺伝子を持ち,3週齢時にタモキシフェンを腹腔内投与されている.
  • 1 心エコーでみる慢性的なHIFの活性化が引き起こす心不全
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  • 【本書名】実験医学:代謝,発生,免疫で動き出す 低酸素応答システム〜HIF・PHDの新機能と疾患
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