生体で新陳代謝され続ける骨の謎に迫る! ビタミンD・小胞体ストレスの作用からin vivoイメージング・数理モデリングまで,リウマチ・骨粗鬆症の分子標的治療へ向けた統合的アプローチを紹介.
目次
特集
骨代謝―「見えざる手」が制御する骨破壊と骨形成
リウマチ・骨粗鬆症の発症機構と分子標的治療
企画/田中 栄
次々と解明される骨代謝の謎―「見えざる手」を求めて【田中 栄】
近年の細胞生物学および分子生物学の進歩によって,骨組織を構成する骨芽細胞,破骨細胞,骨細胞などの分化・活性化に関与する成長因子や転写因子,そして細胞内シグナル伝達機構が詳細に明らかにされてきた.しかし各演奏者がばらばらに演奏していたのではオーケストラが成り立たないように,骨組織が全体としての調和を保つためには個々の細胞を制御する上位の制御機構が存在することが必要である.骨組織というオーケストラがすばらしい演奏を行うためにはすばらしい指揮者が存在するはずである.本特集ではこのような視点にたって,骨代謝を制御する「見えざる手」解明の手がかりとなるようなトピックスをとり上げた.
骨リモデリングの制御機構【中島友紀/林 幹人/高柳 広】
骨の恒常性は,破壊と形成の動的なバランスにより保たれている.この再構築は「骨リモデリング」とよばれ,強靭な骨を維持し生命維持に必須なミネラル代謝を制御している.骨リモデリングは,骨構成細胞のクロストークによって制御されており,このバランスの破綻が,さまざまな骨疾患につながる.破骨細胞と骨芽細胞は骨表面で機能し,骨に埋没した骨細胞は細胞突起によって骨表面の細胞と密接に接触し,骨リモデリングを制御していると考えられている.骨リモデリングの制御機構の解明は,骨の生理・病態を理解するうえで重要なテーマである.
小胞体ストレス応答による骨軟骨形成制御【今泉和則】
小胞体内に不良タンパク質が過剰に蓄積した状態が小胞体ストレスであり,細胞に致死的な傷害を与える細胞ストレスとしてよく知られている.しかし最近,生体内ではむしろ臓器・組織の形成や種々の細胞が機能するうえで必要不可欠な役割を担っていることがわかってきた.なかでもタンパク質の合成・分泌が活発な骨軟骨組織では,発生の段階で小胞体ストレスが起こり,それにより活性化したストレス応答経路が骨軟骨形成に必須のシグナルを発信している.
骨・カルシウム恒常性維持へのビタミンDシグナルの直接作用【増山律子】
ビタミンD作用は腸管カルシウム吸収を強力に増加させ,これが低下するとカルシウム不足により骨量は減少する.「ビタミンDはカルシウム恒常性と骨代謝に重要である」という骨代謝へのビタミンDの作用に関するこの古典的で単純な解釈は,しばしば常識として扱われる一方で,ビタミンDの骨における作用には未だ不明な点が多く議論が必要とされている.本稿では組織特異的なノックアウトマウスの解析から局所でのビタミンDの作用を整理し,新たに明らかにされた骨量調節作用について概説する.
骨組織のin vivoイメージング【菊田順一/石井 優】
近年,新しい蛍光タンパク質や蛍光プローブの開発,顕微鏡・レーザー技術の飛躍的向上などにより,「蛍光イメージング」研究が急速に進歩している.われわれは,組織深部の観察が可能な「2光子励起顕微鏡」を駆使して,マウスを生かしたままで骨組織内の細胞動態をリアルタイムで観察するin vivoイメージング方法を確立した.さらに最近,この技術を用いて,骨表面上での生きた成熟破骨細胞の動態を可視化することに成功した.本稿では,これらの研究成果に加えて,われわれが開発した“骨組織のin vivoイメージング”の方法論やその応用について概説する.
骨の構造・機能適応ダイナミクスの階層性―数理バイオメカニクス【安達泰治】
骨の構造が力学環境の変化に対して,リモデリングにより機能的に適応変化することが古くから知られている.しかしながら,そのリモデリングを担う破骨細胞・骨芽細胞の活動や,骨細胞によるメカノセンシングなどのミクロレベルの現象が,どのようにしてマクロな構造体の機能的適応をもたらすかについては,十分に理解されていない.本稿では,骨の階層性に着目し,ミクロレベルの「メカニクス」と「バイオロジー」の複雑な相互作用の結果として現れてくるマクロな機能的適応ダイナミクスを理解するための数理バイオメカニクス研究を紹介する.
新たな作用機序を有する骨粗鬆症,リウマチ治療薬【田中良哉】
骨組織の恒常性は,骨基質吸収と骨形成の連鎖的反復により維持される.しかし,閉経や加齢に伴うエストロゲン欠乏,ステロイド薬投与,慢性炎症性刺激は,骨代謝平衡の破綻を介して,骨粗鬆症を生じる.また,関節リウマチ(RA)に於いては,滑膜炎症の直接的な波及により骨・軟骨吸収による関節破壊をひき起こす.一方,全身性の骨代謝異常に対しては,ビスフォスフォネート製剤によりその制御が可能となった.さらに,抗RANKL抗体,カテプシンK阻害薬,抗スクレロスチン抗体など新規治療薬による疾患制御に高い期待がなされる.また,関節リウマチに伴う局所的な骨破壊は,TNFやIL-6を標的とした生物学的製剤により制御可能となった.さらに,抗IL-17抗体やJak阻害薬などの経口キナーゼ阻害薬が開発段階にある.骨代謝異常症に対する治療の進歩により,治療目標が単なる骨代謝異常の改善にとどまらず,関節破壊や脆弱性骨折の減少,生命予後の改善へとパラダイムシフトしてきた.
トピックス
カレントトピックス
神経型一酸化窒素により誘起されるTRPV1を介したCa2+シグナルは骨格筋肥大を促進する【伊藤尚基/武田伸一】
血中フルクトースを利用した栄養感知機構【宮本徹也/Hubert Amrein】
脂肪細胞の炎症性シグナル伝達におけるGPRC5Bの役割【金 然正/平林義雄】
アンジェルマン症候群の運動障害と小脳での持続性抑制の低下【江川 潔/福田敦夫】
ラミニンE8を用いた安全で効率的なヒト多能性幹細胞培養法の開発【川瀬栄八郎/宮崎隆道/関口清俊】
連載
クローズアップ実験法
オプトジェネティクスを用いたin vivoラット脳の双方向性プロービング【本城達也/八尾 寛】
絵で見る先端分子生物学
諸刃の剣を軽やかにかわすDNAポリメラーゼη【解説:胡桃坂仁志/絵:松本亮平】
私のメンター ~受け継がれる研究の心~
Gottfried Schatz ―ミトコンドリア生合成研究の先駆者【遠藤斗志也】
ラボレポート ―独立編―
教育と研究と―ストックホルム奮闘記 ―Karolinska Institutet/Science for Life Laboratory【春日紀恵】
Opinion ―研究の現場から
変わりゆく研究者コミュニティと学会の群雄割拠【荒川和晴】
関連情報
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- 【本書名】実験医学:骨代謝ー「見えざる手」が制御する骨破壊と骨形成〜リウマチ・骨粗鬆症の発症機構と分子標的治療
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(2021年8月23日)