近年,Toll-like receptorの機能解明をきっかけとして,自然免疫の重要性がクローズアップされるようになり,その分子機構が次々と解明されています.そこで本特集では,Toll-like receptorを介したシグナル伝達経路をはじめ,今まさに解析が進んでいるウイルス感染に対する自然免疫応答や,粘膜表面での免疫誘導メカニズムなど最もホットな話題を取り上げます.また,感染防御のメカニズムにとどまらず,慢性炎症性腸疾患などの免疫疾患との関わりまでご紹介しますのでぜひご一読ください.
目次
特集
自然免疫システムの解明
TLRシグナルからウイルス感染応答,免疫疾患発症まで
企画/竹田潔
概論 自然免疫:その理解から免疫疾患解明へのアプローチ【竹田潔】
生体防御を司る免疫系は,自然免疫系と獲得免疫系から成り立っている.これまでの免疫学では,T細胞,B細胞が主役を務める獲得免疫系が脚光を浴び続けてきた.しかし最近,自然免疫系の重要性が俄然クローズアップされている.本特集では,Toll-like receptorの機能解析を中心に明らかになった自然免疫系の活性化機構,ウイルス感染に対する自然免疫応答,そして自然免疫系と免疫疾患とのかかわりについて,最新の話題を取り上げ紹介した.自然免疫系の重要性について触れていただければ幸いである.
Toll-like receptorを介したシグナル伝達機構と遺伝子発現制御【山本雅裕/審良静男】
細菌やウイルス,真菌などの病原微生物が宿主の体内に侵入した際にToll-like receptor(TLR)とよばれる一群の受容体がその構成成分を認識し,宿主自然免疫反応を惹起する.TLRは細胞内に Toll/Interleukin-1 receptor(TIR)ドメインとよばれる領域を有し,そのドメインと会合するMyD88やTRIFなどの細胞内アダプター分子群を通して,NF- κBやIRFなどの転写因子を活性化する.最近,その過程に関与するさまざまな分子が同定され,その精微な制御機構が明らかとなってきた.
IRFファミリー転写因子によるI型インターフェロン産生制御機構【本田賢也/谷口維紹】
I型インターフェロン(IFN-α/β)遺伝子が同定されてから,すでに25年になる.この間,そのウイルス複製抑制機構が明らかにされる一方,生体での自然・獲得免疫系への関与,細胞増殖抑制作用など,IFN-α/βの多面的生物活性も解明され,生体の非特異的防御機構の一翼を担うのみならず特異的防御機構へ大きく関与する重要な因子として理解されるようになってきた.それに伴い,IFN-α/β遺伝子転写誘導メカニズムについての理解も大きく様変わりし,そこへ至る複数のシグナル伝達経路が明らかにされつつある.
細胞内ウイルス認識に関与するRIG-Iヘリカーゼファミリー【米山光俊/藤田尚志】
インターフェロン(IFN)は,抗ウイルス免疫システムにおいて重要な役割を担っているサイトカインである.細胞はウイルスの感染を細胞外あるいは細胞質で検知して一過的にIFNを産生し,IFNによって誘導されるさまざまなタンパク質の作用によってウイルスの排除を行う.昨年われわれは,ウイルス感染を細胞内で検知し,IFNの発現へのシグナルに必須な役割を果たしているRNAヘリカーゼ分子を同定した.この新たなシグナル分子の解析は,シグナル伝達機構の解明のみならず,新たな抗ウイルス診断,治療へと結びつく可能性が期待される.
NK細胞によるウイルス感染細胞の認識機構【白鳥行大/荒瀬 尚】
NK細胞はウイルス感染細胞や腫瘍細胞に細胞傷害性をもつ細胞として,生体防御において重要な機能を担っていると考えられてきた.NK細胞の標的細胞認識機構は長年不明であったが,最近,ようやくある種のNK細胞レセプターが特異的にウイルス産物を認識することが明らかになってきた.さらに,NK細胞レセプターは,活性化と抑制化からなるペア型レセプターを形成するが,それらによるウイルス感染細胞の認識パターンがウイルスに対する感染抵抗性を決定していることが判明した.そこで,本稿ではNK細胞によるウイルス感染細胞の認識機構を中心に,最近の知見をふまえ紹介する.
粘膜表面における樹状細胞の二段階ウイルス感染認識機構【佐藤あゆ子/岩崎明子】
病原微生物感染の認識およびそれに続く生体防御システムの構築はさまざまな機構により制御されている.樹状細胞は,Toll-like receptor(TLR)を介してpathogen-associated molecular pattern(PAMP)を認識して活性化し,免疫応答を誘導する.粘膜表面におけるウイルスに対する免疫応答は,より複雑で独特な機構により制御されている.粘膜樹状細胞はウイルス感染を直接自身のTLRを介して認識すると同時に,TLRを介してウイルス感染を感知した粘膜上皮細胞からの補助シグナルを認識して活性化し,適切な防御免疫を誘導することが明らかとなった.
自然免疫系による慢性炎症性腸疾患の制御【桑田啓貴/竹田 潔】
IL-10のシグナルに必須のSTAT3を自然免疫系細胞で特異的に欠損したマウスで発症する慢性大腸炎は,TLR4遺伝子欠損を導入すると,その発症が有意に抑制される.そのため,正常の自然免疫系細胞はIL-10によりTLRシグナルが負に制御され,炎症性サイトカインの過剰産生を抑制している.その分子機構の一端として,核に発現するIκB分子がサイトカイン産生を選択的に阻害していることが明らかになった.
トピックス
カレントトピックス
シナプス形成におけるユビキチンリガーゼRPM-1による DLK-1〜p38 MAPキナーゼ経路の制御機構【中田勝紀】
脊椎動物の頭部形成においてWntおよびFGFシグナリングを抑制する新たな分子メカニズム【山本朗仁】
Nod2変異によるNF-κB活性化およびIL-1β分泌制御【前田 愼/飯村光年】
減数分裂期において相同染色体間の組換えを促進する新規複合体【篠原 彰/押海裕之/篠原美紀】
News & Hot Paper Digest
変形性関節症の治療ターゲット分子を発見!【朝霧成挙/高柳 広】
癌にかかわるマイクロRNA【丹羽隆介】
SUMO化によるリークK+チャネルK2P1の新規活性制御機構【神崎 展】
医療へ向けたゲノム研究の新しいアプローチ〜第10回 国際ヒトゲノム会議〜【編集部】
未来の研究者に脳科学の魅力を伝える見学会【編集部】
連載
Update Review
オートファジー研究の展開【大隅良典/水島 昇】
クローズアップ実験法
5´SAGE法(5´エンド遺伝子発現解析)【橋本真一】
私が名付けた遺伝子
第6回 Lefty【濱田博司】
疾患解明Overview
第13回 筋ジストロフィーの発症メカニズムと治療研究【武田伸一/鈴木友子】
ラボレポート−留学編−
From Stem Cells to Neural Circuits カリフォルニア工科大学,David Anderson研究室〜California Institute of Technology【向山洋介】
学会・シンポジウム見聞録
Alzheimer's and Parkinson's Diseases, 7th International Conference【西道隆臣】
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