実験医学 2006年9月号 Vol.24 No.14

神経・免疫・内分泌系へ拡がる

メンブレントラフィック

細胞内における膜融合型輸送とその破綻による疾患発症

  • 大野博司/企画
  • 2006年08月18日発行
  • B5判
  • 117ページ
  • ISBN 978-4-7581-0115-8
  • 1,980(本体1,800円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》メンブレントラフィックは細胞の増殖・生存を支える根幹的機能として必須であるのは論を待たないが,近年の急速な研究の進展とともに,神経系,内分泌系,免疫系など多細胞生物特有の生体高次機能においても,メンブレントラフィックが重要な役割を果たしていることが明らかになってきた.本特集では,このような生体高次機能におけるメンブレントラフィックの役割を研究している研究者に,最新の知見を中心に紹介していただく.

近年,細胞レベルに留まらない,神経・免疫・内分泌系など高次の生命現象との関わりを軸としたメンブレントラフィック研究が注目されています.本特集では第一線の研究者がその最前線をご紹介します.

目次

特集

神経・免疫・内分泌系へ拡がる
メンブレントラフィック
細胞内における膜融合型輸送とその破綻による疾患発症
企画/大野博司
概論~生体高次機能におけるメンブレントラフィックのインパクト【大野博司】
メンブレントラフィックは細胞の増殖・生存を支える根幹的機能として必須であるのは論を待たないが,近年の急速な研究の進展とともに,神経系,内分泌系,免疫系など多細胞生物特有の生体高次機能においても,メンブレントラフィックが重要な役割を果たしていることが明らかになってきた.本特集では,このような生体高次機能におけるメンブレントラフィックの役割を研究している研究者に,最新の知見を中心に紹介していただく.
調節性分泌制御の分子メカニズム【泉 哲郎】
調節性分泌は,細胞外刺激に応じて,細胞内小胞膜と細胞膜を融合し,生理的活性物質を細胞外に放出する.この機構によって,多細胞生物の根幹となる,細胞間連絡による機能統合が可能となる.本稿では,多くの細胞における調節性分泌経路の分泌シグナルであるCa2+と関連づけて,開口放出の制御機構について概説する.次にわれわれが主に研究している,膵β細胞におけるインスリン分泌機構に関する知見を一部紹介する.
シナプス伝達と可塑性を支える小胞輸送 ~Rab3A系を中心とした神経伝達物質放出の制御機構【坂根亜由子/佐々木卓也】
神経伝達物質の放出は,プレシナプスのアクティブゾーンとよばれる限局された領域を中心に制御されるシナプス小胞輸送によって引き起こされる.この輸送にかかわる分子群はこれまでに多数見出されており,それらの分子間の相互作用によって各過程が厳密に制御される機構が明らかになってきている.その中でも,われわれが注目しているRab3A低分子量Gタンパク質系がMunc系,SNARE系を制御する機構は,最も中心的な役割を果たしていると考えられる.
ファゴサイトーシスと抗原提示におけるメンブレントラフィック【初沢清隆】
樹状細胞やマクロファージなどのプロフェッショナル抗原提示細胞は,ファゴサイトーシスによって病原体や死細胞などを取り込み分解処理するとともに,生じたペプチド抗原をT細胞に提示する.自然および獲得免疫系において重要な役割を果たすこれらの過程は,さまざまなメンブレントラフィックのもとに整然かつダイナミックに進行することがわかってきた.ファゴソームの形成・成熟過程にはエンドソームや小胞体(ER)が関与し,さらにリクルートされたERタンパク質が抗原提示とりわけクロスプレゼンテーションに機能することが明らかになった.一方で最近,ファゴソーム形成へのERの関与を反証する報告もあり,その真偽については論争になりつつある.
歯周病感染とメンブレントラフィック【天野敦雄/津田香代子/吉森 保】
歯周病の原因菌Porphyromonas gingivalisは,宿主細胞のメンブレントラフィック機能を巧みに利用して細胞に侵入し細胞内を移動する.さらに細胞内を宿主免疫からの攻撃を回避する場として利用し,歯周病の慢性化を引き起こしているのである.また,P. gingivalis菌体表層に発現される線毛の遺伝子には多型があり,II型線毛をもつクローンは細胞内で強い細胞傷害性を発揮する.この特異な細胞傷害性発揮にはメンブレントラフィックが関与していると推測され,このメカニズムの解明が待たれている.
FcRnによるIgG,抗原~IgG複合体の輸送機構【増田充弘/吉田 優/田中擴址/東 健】
人の消化管,肺,生殖器官の分泌液中には多量のIgGが存在している.しかしながら,IgGがどのように管腔内へ分泌されるのか,また分泌されたIgGがどのような役割をもっているのかはまだ明らかではない.われわれはMDCK細胞株を用いて,ヒトneonatal Fc receptor for IgG(FcRn)がIgGを双方向に輸送すること,抗原-IgG複合体もFcRn依存的に輸送されること,また輸送された免疫複合体は効率よく抗原提示細胞に取り込まれCD4陽性T細胞を活性化することを明らかにした.これらの知見よりFcRnが管腔内抗原を免疫複合体として粘膜下に取り込み,粘膜免疫システムを制御している可能性が示唆された.
遺伝子異常から学ぶAP複合体の生理機能【大野博司】
AP(adaptor protein)複合体は輸送小胞の形成およびその積み荷タンパク質の選別を行うことにより,ゴルジ体以降の分泌系およびエンドサイトーシス経路における物質輸送を制御している.AP複合体は分子ファミリーを形成しており,全身性に発現する4種類と,細胞種(神経および上皮細胞)特異的に発現する2種類が知られている.最近AP複合体の遺伝子異常に起因する疾患やモデル動物,さらに遺伝子欠損マウスの樹立・解析も進められている.本稿では,これらの研究から明らかとなってきた,AP複合体の個体レベルでの機能を概説する.

トピックス

カレントトピックス
ライブイメージングから明らかになったゴルジ槽の成熟【時田公美/中野明彦】
細胞接着分子Dscamの分子多様性と特異的神経配線の決定【近藤真啓】
presenilin複合体の新メンバーTMP21の機能【長谷川浩史】
膵臓形成の位置決定におけるHes1/Notchシグナリングの役割【川口義弥】
News & Hot Paper Digest
小さなRNA界の「第4の男」~piRNA【泊 幸秀】
SUMOは細胞の老化と死を招く?【菅澤 薫】
輸血や骨髄移植で他人の子供ができるの?【妹尾 誠】
DNA二重鎖切断は核内レセプターによる転写活性化に必須であった【黒川理樹】
Nature姉妹誌に投稿する前に知っておくべきこと【島岡 要】

連載

科学する心を語る
Be independent and ask questions 既存のドグマを超えた細胞老化という新たな概念【Leonard Hayflick】
クローズアップ実験法
単一細胞マイクロアレイ解析を可能とするPCRを用いたcDNA増幅法【栗本一基/薮田幸宏/大日向康秀/斎藤通紀】
研究者のためのイラスト実践講座
第2回 細胞膜と核を描く【秋月由紀】
疾患解明Overview
高血圧症の新たな原因遺伝子,WNKキナーゼと偽性低アルドステロン症II型【内田信一】
私が名付けた遺伝子
第21回 Tsukushi~生体情報シグナルの仲介因子~【太田訓正】
ラボレポート−留学編−
アメリカ留学日記:ある研究者のココだけの話~Rutgers University【岩佐宏晃】

関連情報

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  • 【本書名】実験医学:神経・免疫・内分泌系へ拡がる メンブレントラフィック〜細胞内における膜融合型輸送とその破綻による疾患発症
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