組織幹細胞を静止状態で維持し、適切なタイミングでゆり起こす「幹細胞ニッチ」.近年,各組織でのニッチ細胞・サイトカインの実体が明らかになってきました.幹細胞システムを支える「ニッチ」の本質に迫ります!
目次
特集
幹細胞ニッチが見えてきた!
Stem Cellを守り、育てる微小環境
企画/長澤丘司
序にかえて─ 組織幹細胞のニッチとは【長澤丘司】
…このような特性をもつ組織幹細胞は,発生学や幹細胞生物学において重要であるのみならず,臓器や組織の再生でのツールとなること,多くのがんの発生源となってがん幹細胞と類似していることから再生医学・医療の他,がん研究においても大いに注目されている.さらに,組織幹細胞は,組織の中でしか維持されないことから,組織の中の幹細胞を維持する環境の理解は,幹細胞自身の研究とともに,幹細胞研究において車の両輪をなす.(序にかえてより)
造血幹細胞を維持する骨髄のニッチ【長澤丘司/尾松芳樹/杉山立樹】
成体の骨髄は,すべての血液細胞が造血幹細胞より産生される場であり,近年,ニッチ(niche)とよばれる造血幹細胞を維持する特別な微小環境が注目されている.2003年に骨内膜の骨芽細胞の一種が造血幹細胞ニッチを構成するという骨内膜ニッチ説が提唱され,広く受け入れられたが,骨内膜ニッチが重要であるという根拠は十分でないことがわかってきた.その一方で,血管内皮細胞(血管ニッチ説)や,CXCL12とSCFを高発現し長い突起をもつ骨芽細胞・脂肪細胞前駆細胞であるCAR (CXCL12-abundant reticular) 細胞は,造血幹細胞・前駆細胞ニッチを構成することが証明されている (細網ニッチ説).最近,フォークヘッドファミリーに属する転写因子Foxc1がCAR細胞で高発現すること,発生の過程でCAR細胞をニッチとして働かせるとともにニッチとしての機能を維持し,脂肪細胞への分化を抑制していることが報告された.この発見により,哺乳類ではじめて幹細胞ニッチに特化した細胞系列が存在すること,その形成と維持の分子機構が明らかになった.
さまざまな生命現象と造血幹細胞機能をリンクさせるシステミックシグナル【武市真希子/中田大介】
個体の恒常性を維持するためには,個体のおかれた状況に応じて各組織が全身性のシステミックなシグナルに応答し,組織の機能を調整する必要がある.このシステミックなシグナルは分化した組織機能を担う細胞に働きかけることで組織を調整するが,最近の知見から組織幹細胞とそのニッチにも作用し,組織の挙動に大きな影響を与えることが明らかになりつつある.哺乳類生体骨髄にある造血幹細胞はすべての血液細胞を生み出す未分化細胞であり,生涯にわたって血液細胞が枯渇することなく維持されるためにその分裂や分化が適切に制御されることが必要である.本稿では造血幹細胞とその幹細胞ニッチが造血器への損傷や免疫反応,さらには摂食,概日リズム,妊娠等の造血とは直接かかわりのない変化の際,システミックな刺激に応答するメカニズムを,当研究室の成果も交えて紹介する.
毛包の幹細胞とそのニッチ【毛利泰彰/西村栄美】
毛の再生は日常的に起こる身近な現象である.日々新しい毛が生えては抜け落ちるという,われわれにとってありふれた再生現象のしくみの解明が進んでいる.皮膚の付属器である毛包の中に存在する毛包幹細胞と色素幹細胞,そしてさらにはこれらを取り巻く種々のニッチ細胞が,細胞間の相互作用を通じて,周期的な再生を担うことが明らかになってきており,黒髪の再生に向けて期待が高まっている.本稿では,ニッチによる毛包幹細胞と色素幹細胞の制御機構を中心に最新の知見を含めて紹介する.
腸管上皮幹細胞とそのニッチ【佐藤俊朗】
腸管上皮は体内で最も速い新陳代謝を示す組織であり,その再生力は腸管上皮幹細胞の増殖により発揮されている.近年,腸管上皮幹細胞が同定され,単一の幹細胞から上皮組織構造を再構成する技術が開発された.こうした技術を利用した幹細胞動態の解析により,ニッチによる腸管上皮幹細胞の維持制御機構が解明されつつある.本稿では腸管上皮幹細胞とそのニッチに関する最近の動向を中心に解説する.
マウス精子幹細胞の動態からニッチの本質を考える【吉田松生】
幹細胞研究は今,革命を迎えている.組織の中の幹細胞の挙動を時間を越えて一細胞レベルで追跡し,数理統計学的に解析することが可能となったのだ.垣間見えてきたのは,「勝手気まま」 な振る舞いをする幹細胞の姿である.幹細胞は実はそれほど特別な存在ではなく,生体組織の中でくり広げられる細胞集団のダイナミクスとして捉えるべきものかもしれない.当然,幹細胞ニッチの役目も考え直すことになる.本稿では,マウス精子幹細胞のダイナミクスとニッチを改めて考察した.
がんの発生・進展を促すニッチ細胞【榎本将人/井垣達吏】
がん組織は上皮細胞,線維芽細胞,炎症細胞,血管構成細胞などさまざまな種類の正常細胞/変異細胞からなっており,性質的にも遺伝的にも不均一な細胞集団を形成している.がん微小環境におけるこのようなヘテロな細胞集団内の細胞間コミュニケーションは,がんの発生・進展に重要な役割を果たすと考えられるが,その分子メカニズムについてはいまだ不明な点が多い.ショウジョウバエ遺伝学を用いた最近の研究により,前がん組織中の一部の細胞が突然変異等によってがん原性の 「ニッチ細胞」 に変化し,周辺組織の腫瘍形成・悪性化をひき起こすという現象が存在することがわかってきた.がんニッチ細胞ともいうべきこのような変異細胞の動作機序とその普遍的役割を明らかにすることで,細胞間コミュニケーションを介したがん制御の新たな理解につながる可能性がある.
トピックス
カレントトピックス
生体膜リン脂質の脂肪酸組成が多様化するメカニズムと意義【原山武士/清水孝雄】
2つのセマフォリンによる逆行性シグナルが発達期シナプス刈り込みを制御する【上阪直史/狩野方伸】
繊毛局在キナーゼICKは細胞種特異的な繊毛形成と繊毛内輸送の制御に必須である【茶屋太郎/大森義裕/古川貴久】
リン酸化ユビキチンは新しいパーキンソン病発症の抑制因子である【小谷野史香/松田憲之】
連載
【新連載】日本のサイエンスを担う これからのリーダーの条件を求めて
第1回 ライフサイエンスにおけるリーダー像【インタビュー:岸本忠三】
【新コーナー】未来をつなぐ風
新しい研究領域が創るサイエンス! 〜「新学術」代表者の声から
クローズアップ実験法
はじめての超解像イメージング【岡田康志】
【最終回】NGS データ解析 集中講義
こんなに簡単! NGS解析【遠藤高帆】
統計の落とし穴と蜘蛛の糸
確率変数と確率分布をもって山門をくぐる【三中信宏】
DR 〜既存薬が新薬に生まれ変わる温故知新のサイエンス!
DRのメリット,現状,課題【水島 徹】
私のメンター 〜受け継がれる研究の心〜
Josef M. Penninger─Discoverer & Innovator 両方の才を兼ね備えた天才科学者【花田俊勝】
ラボレポート ─独立編─
米国での「stay put」な独立キャリアパス ─Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School【柏木 哲】
Opinion ─研究の現場から
「伝える」から「伝わる」科学報道へ【白井福寿/山元孝佳/馬谷千恵/村山 知/有馬陽介】
関連情報
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- 【本書名】実験医学:幹細胞ニッチが見えてきた!〜Stem Cellを守り、育てる微小環境
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(2021年8月23日)