10nmの間隙で何が起きているのか?「接触」による、細胞内小器官の新しいコミュニケーションの形が今注目を集めています。脂質合成・輸送メカニズムから疾患への関与まで、変わりつつある常識をお伝えします。
目次
特集
絡み合い、伝え合う
オルガネラたち
膜接触を介した新しい輸送メカニズムと疾患
企画/多賀谷光男
概論─変わりゆくオルガネラ間コミュニケーションの概念【多賀谷光男】
オルガネラが他のオルガネラと接触し,脂質やCaの輸送を行っていることは以前から知られていたが,近年,オルガネラ上のタンパク質が接触部位を通じて相対するオルガネラ上のタンパク質の機能を制御していることがわかってきた.その結果,オルガネラの定義は,「独自の機能を発揮する孤立した膜区画」 から 「接触を介して協調して機能する動的な膜区画」 に変化しつつある.膜接触部位は,炎症,2型糖尿病,神経変性疾患,微生物・ウイルスの感染などとも密接に関係している.本稿では,目覚ましく発展しつつあるオルガネラ間コミュニケーションの概要を紹介する.
MAM―ミトコンドリア機能を制御する小胞体サブドメイン【多賀谷光男,新崎恒平,谷佳津子】
小胞体は細胞内の最大のオルガネラであり,他の多くのオルガネラと接触している.ミトコンドリアと接する小胞体領域はMAMとよばれ,ミトコンドリアと協調して脂質合成を司る他,Caの放出を介してミトコンドリア機能を制御している.近年,MAMはオートファゴソームの形成やミトコンドリアの分裂制御といった機能も有することが見出され,また神経変性疾患,糖尿病などの疾患とも密接に関連していることが判明しつつある.本総説ではMAM研究の最前線を紹介する.
オルガネラ膜接触部位は狭さを活用するナノ機能場【花田賢太郎】
オルガネラ膜接触部位 (MCS) とは,10〜30 nm程度の至近距離に位置する異なるオルガネラの膜と,それに挟まれる微小空間からなる細胞内亜領域であり,イオンや脂質といった低分子物質が効率的にオルガネラ間を移動する機能場となっている.本稿では,異なるオルガネラ間の脂質の移動がMCSで起こっているというコンセプトを分子レベルで実証する端緒となった小胞体ゴルジ体間のセラミド輸送を担うタンパク質CERTを中心に紹介し,MCSやCERTの生物進化に関して考察したうえで,細胞内寄生病原体に関する話題にも触れる.
細胞膜と小胞体のクロストーク【佐伯恭範】
真核生物において,小胞体と細胞膜は恒常的に膜接着部位を形成していることが知られている.これら膜接着部位は古典的な小胞輸送システムとは異なる膜系細胞小器官コミュニケーションの場であり,その機能の多くは未知である.後生動物においては主にCa調節機構に関する機能が示されているが,近年の研究により,シグナル伝達や脂質調整等,より多彩な機能が解明されつつある.本稿においては,小胞体細胞膜接着部位の既知の機能を総括し,extendedシナプトタグミンの研究を中心に脂質調整機構に関する知見を紹介する.
オルガネラ接触領域を介した自然免疫応答の誘導【齊藤達哉】
自然免疫機構は病原体を感知して炎症性サイトカインの産生を誘導し,その排除を行う.一方で,自然免疫機構が誤って活性化してしまうと,過度の炎症による疾患の発症につながる.よって,自然免疫応答は適切な強度で誘導されるように,厳密に制御されなければならない.自然免疫応答の制御において重要な役割を果たしているのが,ミトコンドリア,小胞体,エンドソームやリソソームなどのオルガネラである.特に,複数のオルガネラの協調的な働きが自然免疫応答を惹起することが近年の研究から明らかになっており,オルガネラ間連携の中心となるオルガネラ接触領域に注目が集まっている.本稿では,病原体の感染や過栄養摂取により蓄積した代謝物などに応じて活性化し,感染症の予防や生活習慣病の発症と深くかかわる自然免疫機構であるNLRP3インフラマソームを例に,自然免疫応答の制御におけるオルガネラ接触領域の役割について紹介したい.
膜接触部位を介したミトコンドリアへのリン脂質輸送【宮田 暖,久下 理】
ミトコンドリアは,ATP産生,脂質代謝,アポトーシス制御等,種々の重要な機能を担う,細胞の生存に必須の細胞内小器官である.しかし,近年まで,ミトコンドリアの形成維持に必要なリン脂質のミトコンドリア外膜,内膜への輸送の分子機構はほとんど理解されていなかった.ごく最近,出芽酵母において小胞体とミトコンドリア間,液胞とミトコンドリア間,あるいはミトコンドリア外膜と内膜をつなぐ膜接触部位の実態が明らかにされるとともに,これら接触部位がリン脂質輸送に重要な役割を担うことが示唆された.
植物におけるオルガネラ間脂質輸送を介した生長戦略【下嶋美恵,村川雅人,太田啓之】
植物は動物や非光合成微生物とは異なり,光合成器官である葉緑体を細胞内部に有している.葉緑体は,原始シアノバクテリアがホストとなる真核細胞に共生して生まれたことはよく知られているが,じつはその共生により,植物細胞内のオルガネラ間の種々の代謝制御および代謝産物のやりとりはより複雑化している.本稿では特に葉緑体—小胞体間のオルガネラ接触を介した脂質輸送についてのこれまでの知見を紹介するとともに,これまでに明らかになってきた植物の脂質輸送を介した環境ストレス適応機構や,生長戦略としての脂質輸送についての最新の研究成果を紹介する.
トピックス
カレントトピックス
生体内の指向性運動はエクソソームによってコントロールされている【星野大輔,Alissa M Weaver】
SCFUcc1ユビキチンリガーゼはグリオキシル酸回路の代謝スイッチとして機能する【中務邦雄,嘉村 巧】
HLA imputation 法の日本人集団への実装とバセドウ病バイオマーカーの同定【岡田随象】
乳がん細胞が分泌するエクソソームが脳血管を破壊し, 脳転移を促進する【富永直臣,落谷孝広】
News & Hot Paper Digest
連載
発見者が語る
分子進化のほぼ中立説 ―自然淘汰の有無に境界線は引けるのか?【太田朋子】
クローズアップ実験法
ハイドロダイナミクス法【高橋有己,西川元也,高倉喜信】
教えて!エコ実験RETURNS
スケールダウンでコストダウン&効率アップ!─【佐藤 博】
テツヤ、留学生活はどうだい。
「No」とは言わない文化と「No」しか言わない文化【Kyota Ko,Simon Gillett】
UJA Presents 留学のすゝめ!
オファーを勝ち取る〈後編〉【佐々木敦朗】
私のメンター ~受け継がれる研究の心~
Benoit G. Bruneau ―優秀なサイエンティストは戦略家 ─【小柴和子】
未来をつなぐ風
平成27年度「新学術領域」が決定!
ラボレポート ―留学編―
自由と代償,学んだこと― Whitehead Institute for Biomedical Research, MIT【遠藤 墾】
Opinion ―研究の現場から
文献紹介を有効に活用するために【有澤琴子,豊田 優】
関連情報
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- 【出版社名】羊土社
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(2021年8月23日)