腎臓にサイエンスはあるのか?本書はそんな疑問を一掃します!腎臓では近年,オルガノイド,線維化,がんと低酸素,腎炎の新たな分子標的など分野を問わず注目のトピックが満載.そんな新・腎臓ワールドをお楽しみください!
目次
特集
国民病“腎疾患”治療の光が見えてきた 腎臓のサイエンス
発生・三次元組織再生と機能破綻のメカニズム
企画/西中村隆一
「実験医学」が腎臓の特集を組むのは実に約30年ぶりということである.腎臓は重要な臓器であり,高血圧や糖尿病と密接に関連するにもかかわらず,その研究への関心は広いものとは言えない.それは,医学・薬学部以外で腎臓のことに触れる機会が少ないことにも起因していると思われる.確かに腎臓のように複雑な臓器は,スピードと明快性が要求されるサイエンスの対象としては不利と思われるかもしれない.しかしそれは技術の進歩によって克服されつつあり,腎臓発で他領域にインパクトを与えるサイエンスが勃興している.本特集を読んで腎臓研究のおもしろさを知っていただきたい.
脊椎動物の生後の生命維持において,腎臓は必要不可欠な臓器である.腎臓は血液中の排泄物の除去や体内のイオンバランスの維持など,さまざまな機能を有している.このような多機能を担うために,腎臓内では多くの細胞種が高次構造を複雑に構成している.本稿では,腎臓の複雑な形態と機能の起源について概説する.
ほんの数年前まで腎臓の再生研究は他の器官に比べると大きく立ち遅れていた.これは腎臓の初期発生過程,特に胎仔の腎臓原基における前後軸形成のしくみが明らかでなかったことが大きな要因であろう.胎仔体幹の最も尾側から生じる腎臓の形成機構を紐解くためには,われわれの体幹がどのように形成されるのか,そこでカギとなる尾部未分化細胞の概念,さらにその誘導・維持にかかわるWntシグナルの濃度勾配,その後の腎臓への分化因子,これらの統合的理解が必要であった.初期発生メカニズムが明らかにされつつある今,腎臓は「再生不可能な臓器」から「in vitroで創りうる臓器」へと変わろうとしている.
糸球体ポドサイトの機能と疾患【淺沼克彦,山本香苗】
腎臓は,血液を濾過・再吸収して最終的に老廃物を尿に捨てる臓器であるが,体に必要な血清タンパク質が尿中に漏れ出てしまわないように最後の砦として働いているのが,糸球体足細胞(ポドサイト)である.したがって,ポドサイトが障害を受けるとタンパク尿が出て,さらに障害が続くと糸球体からポドサイトが脱落し,糸球体は 濾過装置としての働きを失い,腎機能は悪化して行く.本稿では,最終濾過障壁であるポドサイトの構造と機能を説明し,ポドサイト障害の機序とポドサイト障害に対する治療の可能性について最近の知見を交え紹介する.
腎臓による細胞外液調節のしくみと高血圧【柴田 茂】
細胞外液の恒常性は生命の働きに欠かすことのできないものであり,脊椎動物は魚類から両生類,鳥類,哺乳類へと進化の過程で腎臓尿細管による巧緻なNaCl再吸収と尿濃縮システムを発達させてきたと考えられる.ヒトにおいては腎臓の遠位尿細管から集合管に至る遠位ネフロンの働きとレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の作用によって体液量が厳密にコントロールされており,この体液保持システムの破綻によって起こる疾患の代表が高血圧である.近年,遠位ネフロンにおける詳細な体液調節機構や高血圧の分子メカニズムの解明が進んでおり,本稿ではその概要と最近の知見についてわれわれの研究成果も交えて紹介する.
腎臓の線維化は腎間質に存在するfibroblast/pericyteが形質転換したα-smooth muscle actin陽性myofibroblastなどによって起きる.腎臓は内因性の再生力を備えた臓器であるが,尿細管の修復能は限定的であり,障害後に修復されたネフロンは障害前よりも短くなる可能性がある.低酸素と酸化ストレスは,腎臓の線維化の主要な起因である.低酸素と酸化ストレスに対して生体は転写調節因子HIFおよびNrf2により防御機構を誘導する.最近,これらを活性化する薬物の臨床試験が行われており,腎臓の線維化を改善する可能性が期待されている.
腎がんの発生頻度は他のがんと比較して決して高くはない.しかし腎がんの研究をきっかけとして,VHLによる低酸素応答遺伝子の制御機構や代謝関連酵素とがんとの関連など,新たな研究領域が展開し発展してきた.さらには,これらの研究成果に基づいた分子標的治療薬の開発がなされ,腎がんへの臨床応用がいち早く行われてきた.本稿ではこれら腎がん研究の重要性と魅力を解説しつつ,近年新規に家族性腎がんの責任遺伝子としてクローニングされたがん抑制遺伝子FLCNもまた生体にとって重要な役割を果たしていることを紹介する.
腎臓のバイオマーカーと創薬戦略【鈴木健弘,三島英換,三枝大輔,阿部高明】
尿には体内環境や腎臓の代謝と病態を反映する物質や細胞が含まれ,腎臓病患者コホートの尿と血液,腎生検標本のトランスクリプトーム,メタボローム解析などにより新たなバイオマーカーが探索されている.なかでも東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)による大規模コホートの全ゲノム解析,血漿メタボロームおよびプロテオーム解析結果からなる日本人多層オミックス参照パネル(jMorp)は新たなバイオマーカー,創薬,診断治療法の開発への貢献が期待される.また,腸内細菌叢の変化による腸管由来尿毒素増加と慢性炎症は慢性腎臓病の進行にかかわり,腸内環境改善は新たな腎臓病治療戦略となる.
新連載
Next Tech Review
トピックス
カレントトピックス
コヒーシンリングのDNAとの結合反応と解離反応の統一モデル【村山泰斗】
胃体部のMist1陽性幹細胞は胃がんの起源細胞となり,血管周囲幹細胞ニッチががん化を促進する【早河 翼】
RNA結合タンパク質IMP3は標的mRNA分解を介してがん原遺伝子eIF4Eの活性を促進する【水谷玲菜,秋光信佳】
流体せん断力はCa2+チャネルTRPV6の活性化を介して微絨毛形成を誘導する【三浦重徳,竹内昌治】
News & Hot Paper Digest
ヒト卵子の染色体分配機構と加齢による影響【高岡勝吉】
C末端側を標的とした新たなHsp90阻害剤は有望な抗がん剤となるか?【堀部智久】
エネルギー代謝におけるマスト細胞の新たな役割【近久幸子】
基本転写因子TFⅢBのサブユニットであるBrf2はレドックスセンサーとして機能する【古久保哲朗】
Amgen社,再現に失敗した学術論文3件の結果を発表
連載
クローズアップ実験法
腸管上皮オルガノイド作成から遺伝子導入まで【藤井正幸,佐藤俊朗】
テツヤ、留学生活はどうだい。
研究者なら使いこなせる?エレベーターピッチ【Kyota Ko,Simon Gillett】
いま、がんのクリニカルシークエンスがおもしろい!
臨床現場からctDNAサンプル抽出まで【谷上賢瑞,八谷剛史,西塚 哲,中川英刀】
私の実験動物、個性派です!
Campus & Conference探訪記
次世代の核移植技術の利用に向けて ―第1回核移植研究会【宮本 圭】
ラボレポート ―独立編―
アジアにおける生物医学研究の国際的ハブをめざす常夏の都市国家シンガポールから―Duke-NUS Medical School【板鼻康至】
Opinion ―研究の現場から
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- 【本書名】実験医学:国民病“腎疾患”治療の光が見えてきた!腎臓のサイエンス〜発生・三次元組織再生と機能破綻のメカニズム
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(2021年8月23日)