1 認知症診療の難しさ〜総合診療医の立場から〜
「先生がずっと外来で診ていたKさん,明らかな認知症で,HDS-R 14点でしたよ.とてもこのまま帰せないので,ケアマネさんにお願いしてサービスを入れてもらうことにしました」
「えっ! Kさんが認知症??」思いがけない事実に,私は言葉を失いました.
Kさんは一人暮らしの70歳代後半の女性.高血圧,糖尿病,痛風などがあり,私が以前よく利用していたレストランで働いていた縁で,10年以上私の外来に通院されている方です.東北地方のご出身で,…(中略)
今回はふらふらして動けなくなっていたところを近所の人に発見されて救急車で近くの病院に運ばれて,そのまま入院になったのですが,冒頭のやりとりは,入院後,病棟の主治医からの電話です.
これまでのKさんとの会話では,買い物,調理などの普段の生活の話も話題になることもありました.本人の話では特に支障はないということでしたし,独居でそれを裏づける情報をもたらしてくれる人もおらず,買い物も含めて自分でできるというので特に介護サービスも入れていませんでした.ちなみに,認知症だとわかってから,もう一度普段の生活について尋ねてみましたが,「特に問題ない」という同じ答えが返ってきました.認知症の診断の難しさをつくづく実感した一例でした.
2 本特集のねらい
高齢者人口の伸びに伴って認知症は増加の一途をたどっており,厚生労働省の研究班の発表によると,その患者数は2012年時点で462万人と推計されています.認知症は,その経過も長く,また家族をはじめ周囲への影響も大きい疾患であり,包括的・継続的に,家族も含めたケアが必要という点において,総合診療医に期待される役割はきわめて大きいものがあります.
その一方で,認知症は初期に礼節が保たれていることが多く,また患者自身が症状を訴える例は少ないので,冒頭のケースのように発見が遅れることもあります.治療についても個別性が高くて教科書通りに行かないことも多く,また疾患の性格上本人の意思が確認できないケースも多いことから,現場では難しい決断が迫られることもしばしばです.そこで今回の特集では,認知症ケアで実際に遭遇することの多い課題に焦点を当て,高齢者診療の第一線で活躍されている先生方に現場で役に立つアドバイスをいただくことにしました.
(後略)
総合診療の現場で遭遇することの多い悩み事・困り事に焦点をあて,「いつ認知症を疑うか?」「本人・家族への説明は?」「BPSDへの対応は?」など実例を交えて解説.明日から役立つアドバイスが満載です!
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(2021年8月23日)
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