クローズアップ実験法

2022年8月号 Vol.40 No.13 詳細ページ
腸炎モデルマウスへのオルガノイド移植法
渡辺　諭，油井史郎
349 腸炎モデルマウスへの オルガノイド移植法 渡辺 諭,油井史郎 何ができるようになった? 移植技術は外科的なテクニックや内視鏡などの高価な機器を必要とせず,下記に示す技術に基づい て経肛門的なオルガノイド移植を行う方法である 必要な機器・試薬・テクニックは? 腸炎モデルのマウスと,腸オルガノイドがあれば特殊なものは必要ない. infusion module とい う経肛門投与用の器具が必要だが簡単に自作できる.投与には一定程度の習熟も必要であるが,われ われとは独立した海外の研究者も再現しており,難しくはない はじめに ルガノイドとして体外で長期間維持・培養することが 潰瘍性大腸炎は炎症性腸疾患の一つであり,世界的 可能となった 3). に患者数が増加している特発性・非特異的な腸疾患で 当研究室はこのオルガノイドの有する医療における ある.その原因はさまざまな因子が複雑に関与してお 新しいイノベーションの可能性にいち早く気づき,傷 り,根本な治療法はいまだにない.難治性となると外 害のあるマウス大腸にオルガノイドを移植し,ドナー 科的な処置が必要となることから患者の QOL(quality 細胞由来の大腸上皮が再生されるかを検証した 4).そ of life)に深くかかわり,その根本的な治療法が待たれ の結果,一定期間体外でオルガノイドとして培養した ている. マウス大腸上皮細胞が他個体マウスの大腸に生着しド 潰瘍性大腸炎の疾患母地である上皮は,上皮陰窩底 ナー細胞由来の上皮を再構築するだけではなく,腸炎 部に存在し,腸管上皮を構成するさまざまな細胞へ分 からの個体レベルでの回復も早めるなど,一定の治療 化する能力とともに,傷害を受けた上皮の修復にも寄 効果を発揮することを明らかにした.潰瘍性大腸炎に 1) 与する上皮幹細胞で維持される .現在では腸管上皮 2) 対するオルガノイド移植治療を,従来の治療では十分 幹細胞の特異的マーカーとして Lgr5 が同定され ,こ に粘膜治癒に至らない難治症例における完治をめざす の分画をソートした後に,さまざまな増殖因子を含む 補助的治療として提唱している. 培地で培養する方法が開発され,腸管上皮幹細胞をオ 本稿ではこの先進的な腸炎モデルマウスへのオルガ Organoids transplantation in a mouse model of colitis Satoshi Watanabe 1)/Shiro Yui 2):Department of Gastroenterology and Hepatology, Tokyo Medical and Dental Univer(東京医科歯科大学消化器 sity 1)/Center for Stem Cell and Regenerative Medicine, Tokyo Medical and Dental University 2) 病態学 1)/ 東京医科歯科大学統合研究機構再生医療研究センター 2)) 実験医学 Vol. 40 No. 13(8 月号)2022 2177
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