クローズアップ実験法

2022年11月号 Vol.40 No.18 詳細ページ
腸管まるごと切片化「腸管ロール」の作製方法
白戸孝明,大久保和央
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腸管まるごと切片化
「腸管ロール」の作製方法
白戸孝明,大久保和央

何ができるようになった?
マウスやラットの小腸や大腸はとても長い組織であるため,一部を切りとっての観察が一般的であ
るが,部分的な観察しかできない.腸管全体をロール状に巻くと,一枚のスライドガラス上で見たい
領域をすべて観察することができる.

必要な機器・試薬・テクニックは?
病理標本を作製,染色まで行うことできる環境が必要となる.組織を固定液に浸漬しながら作業す
ることになるが ,完全に固定される前 ,形が固まる前に成形する必要があるため ,操作の慣れとス
ピードが要求される.

原理

であるが,難易度も高い.本稿ではきれいな標本を作

小腸や大腸における研究において組織内での局在解

製する方法を解説する.

析は必須であるが,非常に長い組織なので通常はごく

腸管に限らず,組織や細胞中のタンパク質,RNA を

一部分を摘出して観察することになる.スライドガラ

すばやく安定化するために最も重要なポイントは,一

スに乗せられる長さから,一度に観察できる範囲は限

秒でも早く組織中に固定液を浸透,拡散させることで

られてしまう.しかし,同じように見える場所でも発

ある.この固定液に漬けるまでの時間をできるだけ短

現パターンの異なる遺伝子やタンパク質が存在するた

くすることが ,免疫染色や

め,より正確な情報を得るためには複数の場所で染色

ションを成功させる一番のコツとなり,組織の種類に

を行う必要がある.また,投薬による変化や siRNA な

より最適な固定方法を選択する必要がある.腸管では

どの外部から導入した遺伝子を検出する場合にも,部

血流に乗せて固定液を浸透させる灌流固定よりも,摘

分的な観察では不十分で,できるだけ広い範囲を見る

出後に手早く固定液に浸漬させる方が,固定スピード

必要がある .筆者らは ,マウスの腸管で R N A やタン

が速い.また,腸管内には消化酵素が含まれるため自

パク質の局在解析を行う場合,胃の終わりから十二指

己消化が早く,他の組織よりもさらに迅速な固定が要

腸,空腸,回腸,盲腸,結腸,直腸までをロール状に

求される.

ハイブリダイゼー

巻き,一度にすべての領域を観察している.この手法

腸管ロールの作製工程では,固定液に浸漬させた後

はスイスロールとよばれ,古くから行われている方法

も重要である .固定液中でしばらく放置しておくと ,

Swiss rolls of mouse intestine
Takaaki Shiroto/Kazue Okubo:GENOSTAFF CO., LTD.(ジェノスタッフ株式会社)

実験医学 Vol. 40 No. 18(11 月号)2022

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