クローズアップ実験法

2023年11月号 Vol.41 No.18 詳細ページ
安価なヒト小腸上皮オルガノイドの培養方法
高橋 裕,佐藤隆一郎
363

安価なヒト小腸上皮オルガ
ノイドの培養方法
高橋 裕,佐藤隆一郎

何ができるようになった?
ヒト小腸オルガノイドは幅広い研究分野での活用が期待されるが,非常に高い培養コストが難点で
あった.高額な増殖因子の安定発現細胞と安価なコラーゲンゲルの使用により,従来の約 1/100 ま
でコストを削減できた.

必要な機器・試薬・テクニックは?
安定発現細胞の作製に必要なレンチウイルスベクターは理研 BRC やサーモフィッシャーサイエン
ティフィック社より入手可能である.コラーゲンゲルは新田ゼラチン社などから入手できる.P2 レ
ベルの実験室が必要となる.

はじめに

は,ヒト小腸オルガノイドを用いた研究を継続的に行

オルガノイドは臓器・組織特異的な幹細胞とその分

ううえで,解決すべき重要な課題である.

化細胞から構成される三次元の集合体であり,臓器に
類似した性質を示すこと,実験動物への移植により機
能的な臓器を形成することから ,高度に生理的な

原理

モデルであるとされる 1).その中でも,小腸上皮

マウス (2009 年)4)およびヒト小 腸 オルガノイド

オルガノイド(以下,小腸オルガノイド)は最も古く

(2011 年)5)での報告を皮切りに,全身のさまざまな臓

から研究が進められており,特にヒト小腸オルガノイ

器・組織オルガノイドの培養法がこれまでに開発され

ドは従来の培養モデルでは再現困難な生理機能を示す

てきた.その中で,細胞外基質を含むゲルの中にオル

ことから 2)3),基礎・応用に限らずさまざまな研究分野

ガノイドを包埋し ,さまざまな増殖因子を含む培地を

での活用が期待されている.しかし,その培養にはさ

満たすという方法は ,最も標準的なオルガノイドの培

まざまな増殖因子やマトリゲルなどの細胞外基質を含

養法として確立されている(図 1)
.ヒト小腸オルガノ

むゲルが必要となり,これらをすべて市販品で賄う場

イドの場合 ,マウス肉腫から抽出したマトリゲルに包

合,24 ウェルプレート 1 枚分の培養で約 20 万円(定価

埋し,Wnt3a,R-spondin1,Noggin(合わせて WRN)

ベース)もの高額な費用を要する.培養コストの削減

を含む増殖用培地を用いる方法が広く行われている .

A cost-effective method for culturing human small intestinal organoids
Yu Takahashi/Ryuichiro Sato:Department of Applied Biological Chemistry, Graduate School of Agricultural and Life
Sciences, The University of Tokyo(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻)

実験医学 Vol. 41 No. 18(11 月号)2023

3035
会員でない方はこちら

羊土社会員についてはこちらをご確認ください.