クローズアップ実験法

2024年7月号 Vol.42 No.11 詳細ページ
細胞内シグナル分子の活性化を簡便・特異的・可逆的に誘導するSLIPT-PM法
築地真也
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細胞内シグナル分子の活性化を
簡便・特異的・可逆的に誘導する
SLIPT-PM法
築地真也

何ができるようになった?
化合物を用いてタンパク質の細胞膜移行を誘導する技術はシグナル分子活性化のための重要なツー
ルであるが,従来法は 2 種類のプラスミドの共発現が必要であり,可逆性や,化合物の特異性の点で
も問題があった.SLIPT-PM 法を用いることで,操作したい細胞内シグナル分子を発現するプラスミ
ドを 1 種類遺伝子導入するだけで,そのシグナル分子の細胞膜移行と活性化を簡便,特異的,可逆的
に誘導することが可能になった.

必要な機器・試薬・テクニックは?
SLIPT-PM 法では,専用のタグタンパク質を融合したシグナル分子を細胞内(細胞質)に発現させ,
それを専用の化合物(局在性リガンド「mDcTMP」
)によって細胞膜へ移行させる.局在性リガンド
はフナコシ社から,専用のタグタンパク質や,主要なタグタンパク質融合シグナル分子の発現プラス
ミドは Addgene から入手できる.

はじめに

性化する技術は,細胞機能・運命操作技術としても有

受容体を刺激した細胞内では,多数のシグナル分子

用であり,細胞医薬や細胞工学,合成生物学などへの

が同時に活性化するため,個々のシグナル分子の機能

応用にもつながる.そのような細胞内シグナル分子特

を構成的に理解するのは容易ではない .そこで近年 ,

異的活性化のための重要な手法の一つが「タンパク質

受容体刺激をスキップし,受容体下流の特定のシグナ

の細胞膜移行誘導ツール」である.受容体の下流に位

ル分子を化合物のような人工的な刺激で特異的に活性

置するシグナル分子の多くは,それ自身もしくはその

化する技術の重要性が高まっている 1).例えば ,ある

上流因子が細胞膜へ移行することで活性化する.その

シグナル分子を特異的に活性化することができれば ,

ため,タンパク質の細胞膜移行を誘導する技術を利用

それによって誘導される情報伝達プロセスや細胞応答

することで,受容体下流のさまざまなシグナル分子群

を解析することで,そのシグナル分子の機能を明らか

の特異的な人工活性化が可能となる.

にすることができる.また,狙ったシグナル分子を活

従来,タンパク質の細胞膜移行を誘導するツールと

SLIPT-PM: a general method for inducible plasma membrane recruitment and activation of intracellular signaling molecules
Shinya Tsukiji 1)2):Department of Life Science and Applied Chemistry, Nagoya Institute of Technology 1)/Department of
Nanopharmaceutical Sciences, Nagoya Institute of Technology 2)(名古屋工業大学大学院生命・応用化学専攻 1)/ 名古屋工業大
学大学院共同ナノメディシン科学専攻 2))
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実験医学 Vol. 42 No. 11(7 月号)2024
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