英語の文章は,一部の例外(ThereやItで始まる文)を除いて,以下の5文型のいずれか,あるいはその受動態を使って書かれている.
5文型は,文の構造を理解するうえでの基本となるものなので,繰り返し確認しておこう.5文型のうち,第1と第2文型は自動詞の文型,第3~5文型は他動詞の文型である.論文の読者は文法的誤りを嫌うので,この自動詞と他動詞を間違えないようにすることが,まず,肝心なことである.
5文型の中では,第4文型が論文で用いられことは極端に少ない.また,第5文型はほとんど受動態でのみ用いられる(例文18,例文19).これは,論文では誤解を生む可能性のある文は避けるという考えからだと思われる.例えば,長い目的語が2つあるとその関係や区切りに複数の解釈が成り立つ可能性があり,それを避けることが必要だ.同様に第3文型でも,目的語の後の前置詞句は,どこを修飾するのかが形の上からは判断できない場合がある.そのため,第3文型でも受動態が好まれる傾向がある(例文10).このように,論文の文章は5文型の中でもシンプルなものを使って書かれているわけである.
5文型のうち,第1文型が論文で最も好まれると言ってもいいであろう.第1文型は,S+Vの最もシンプルな構成であるからだ.もちろん,主語と動詞の2語だけで文が終われるわけではないが,少なくとも動詞のあとに名詞や形容詞を置くことはできないという制約が生まれる.後に置けるのは副詞相当語句だけなので,誤解する可能性が非常に少なくなるわけだ.そのため論文では,動詞の後に副詞句が用いられることがとても多い(主語+動詞+副詞句).例えば,次のような文だ(例文15).
The combined treatment resulted in improved survival.
(併用療法は,改善された生存率という結果になった)
上の例のように,自動詞に続く副詞句はたいてい前置詞で始まるのでとても分かりやすい.これが,第1文型が論文で好まれる理由である.論文では前置詞を区切りの目印として使うことが大切だ.
一般に英語でよく使われるのは第2文型(S+V+C)と第3文型(S+V+O)である.つまり主語+自動詞+補語と主語+他動詞+目的語は英語の基本形なのだ(図1⑤).形が似ているので紛らわしい場合もあるが,これらの違いは簡単であろう.第2文型が「S = C:SはCである」であるのに対して,第3文型は「S ≠ O:SはOを~する」である.
第2文型(S+V+C)の場合の動詞はbe動詞が大半で,appear, remainなどが少し使われる程度である.そのため第2文型であることは動詞の種類でほとんど判別できる(例文16).
Human herpesvirus 6 is an immunosuppressive and neurotropic virus that may be transmitted by saliva and possibly by genital secretions.
(ヒトヘルペスウイルス6は,唾液によって,そしてもしかしたら生殖器の分泌物によって伝搬されるかもしれない免疫抑制性で向神経性のウイルスである)
一方,第3文型(S+V+O)には,多様な他動詞が用いられる.一例を次に示す(例文17).
In vitro, Chlamydia pneumoniae can induce the expression of varied molecules in infected human endothelial cells.
(試験管内で,クラミジア肺炎菌は,感染したヒトの内皮細胞において多様な分子の発現を誘導しうる)
論文では英語の基本形の中でもシンプルなスタイルが好まれる.たとえば,S+V+Oの文型の動詞の中では,下の例のようなthat節を目的語にする動詞がよく使われる(例文8).
The result indicates that PS1 mutations modulate intracellular calcium signaling pathways.
(その結果は,PS1変異が細胞内カルシウムシグナル経路を調節するということを示す)
このような文の場合には,that節の後にさらに説明が続くことは少なく,文の構造を読み間違えることがほとんどなくて都合がよい.なお,that節などの長い目的語を持つ文の主語は短い場合が多い.
一方,基本形の中でも長い目的語の後に前置詞が続くような複雑な文は,受動態の形にすることの方が好まれる.S+V+Oの文型でその後に句が続くと,それが何を修飾するのか分かりにくいからであろう.また,長い目的語はいろいろな形があり得るので誤解のもとでもある.このような問題については,以下で詳しく取り上げる.
論文では受動態の文が非常に多いが,これを5文型で解釈しようとするとちょっと困ったことになる.通常,文法書には受動態の文型について書かれていないからだ.
そもそももっぱら受動態でばかり使われる動詞というものがある.たとえば,論文ではassociateの用例はほとんど受動態の文に限られており,それ以外は非常に少ない.associateの使い方は本来「V+O+with+名詞」であるが,このようなスタイルではwith以下が直前の名詞にかかるのか,その前の動詞にかかるのかが分かりにくい.論文では,このようなやや複雑な形の文を受動態にして,「associated with+名詞」のように単純化することが多いわけである(例文19).
This transient loss of tetramerf binding is associated with reduced signaling through the T-cell receptor.
(四量体結合のこの一過性の喪失は,T細胞受容体を経る低下したシグナル伝達と関連する)
上の例文でも,本来の語順ならばassociate this transient loss of tetramer binding with reduced signaling through the T-cell receptorであるが,このように書くと動詞以降の前置詞の数が多くて,どのような修飾関係になっているのか判断しにくい.そのため受動態が好まれるということになるのだが,associated withの場合は,それよりも行為の主体者が何であるかはっきりしないことが受動態として使われる一番の理由であるかもしれない.
もちろん同じ他動詞でも様々な使われ方があるので,能動態で誤解なく書ける場合には無理に受動態にするのではなく,能動態で書く方が望ましい.
面白いことに第3文型の受動態の文は,be動詞+過去分詞(is associatedなど)を自動詞として見立てれば,前置詞を後ろに伴う第1文型の文のように見える.次のようなパターンで考えるとよく分かる.
例文15と例文19が,それぞれに相当する例である.第3文型の受動態+前置詞は,ほぼ第1文型の自動詞+前置詞のように用いられることが多いことを覚えておくとよいだろう.例文19のような文は,そのように考えないと我々には理解しがたい.もともと受け身の文ではなく,自動詞と同じ発想の文なのである.もちろん,本来の主語がby以下に来る典型的な受動態のパターンも用いられる.
第5文型の動詞のうち,補語として名詞をとるものには,call, designate, name, considerなどがある.論文では,受動態で用いられることが多い(例文20).
Structural abnormalities resulting from errors in embryogenesis or the fetal period are called congenital anomalies.
(胚発生あるいは胎児期におけるエラーに起因する構造的な異常は,先天性異常と呼ばれる)
ここでもbe動詞+過去分詞を自動詞と同等と考えれば,第5文型の受動態は第2文型に似ていると言える.
このような類似性を知っていれば,理解がもっと容易になるであろう.
また,S+V+O+to beの文型は,to be以下を補語(C)とみなすことができるので,第5文型に分類していいだろう.受動態にすると以下のようになる(例文21).
Cyclin D1 is thought to be a key regulator involved in cell cycle progression.
(サイクリンD1は,細胞周期進行に関与する決定的に重要な調節因子であると考えられている)
さらにis thought to beをひと塊と考えると,第2文型そのものとも言えるであろう.
<ここがポイント>
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