本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)
晴れて大学に入学したものの,さまざまな理由で進路変更を考える人もいるだろう.例えば,第1志望だった大学や学部で勉強したい,あるいは別の分野が合うと感じはじめた,というように.実現の方法としては,同じ大学内での転部や,仮面浪人をしての再受験,そして編入学などがある.ここでは進路変更の1つの手段である編入学について,筆者の1人である桔梗の体験を交えて紹介する.
編入学とは4年制大学2年次修了者などを対象とし,主に大学3年次への入学を許可するシステムである.編入学年次を2年次とするところもある.また受験資格を大卒や大卒見込みとするところでは,大学院生や大学を卒業した社会人が自ら必要とする知識や技能を習得するために,編入学をするケースもある.
編入学のメリットとして,学部2または3年次に入学できるため重複する基礎科目などを免除されることがあげられる.このため,将来必要とされる専門分野から学ぶことができ,時間的にも金銭的にも効率よく勉強できる.ただし,代わりに既取得単位が受験要件に課されている場合もある.筆者は中国語を選択していたために第2外国語がドイツ語限定であった大学は条件をクリアするのが相当厳しく,候補から外さざるを得なかった.
逆にデメリットとして,卒業要件単位を揃えるのが他学生より厳しく,卒業まで時間がかかる可能性があげられる.例えば筆者がもともと在籍していた大学では,3年次編入生は2年次と3年次両方の実習の単位を取る必要があり,倍ほどのレポートを書く必要があった.また,3年次以上の学年から3年次に編入する場合は,編入学による時間的・金銭的な負担増を考慮すべきである.他にもすでに学生同士横のつながりができていて輪に入りにくいのではないかという心配もあるかもしれない.
筆者は4年制大学農学部生物系を卒業した後に薬学部6年制の2年次へ編入学した.理由は2つある.1つ目は3年次にリーマン・ショックによって就活氷河期となった際に人生設計を考え直したからだ.家庭をもち,子どもをもっても働き続けるために医療系の資格取得をめざすことにした.2つ目は4年次に化学よりの生物系研究室に在籍したために,化学をきちんと勉強し直したいと思ったからだ.そうして編入学を模索しはじめた.
実際に編入先を決める際には,学びたい分野や下宿するかどうかなど譲れない条件に,先述のメリット・デメリットを組合わせて考えていく.大きい書店には一般入試向けの本に混ざって,編入生向けの書籍も置かれている.具体的な受験資格や試験問題は募集要項やオープンキャンパス,電話による問合わせで情報を集められる.また,すでに取っている単位や資格が,編入学後の単位に変換可能か否かも調べておくとよい.筆者の場合は,1年次の単位のほとんどが認定された.しかし,有機化学実習の単位だけ新たに取得する必要があり,編入後の時間割が他科目と重なっていたので,編入学前に科目履修生としてダブルスクールをすることで何とか実習の単位を取得した.
受験を申し込むと履歴書や志望動機の提出が求められ,筆記試験や面接などが課される.学科試験の内容や深さは大学や学部によりさまざまであり,英語や数学のような基礎科目だけであったり,専門科目も出題されたりする.このため,なるべく多くの情報を入手して,準備することが特に大切である.
編入学試験の受験者は大学入試に比べ圧倒的に少なく,情報も乏しいことから抵抗があるかも知れない.しかし,筆者らは編入学をした自分の人生に後悔をしないよう,勉強にも人間関係づくりにも充実した生活を日々心がける決意を固めた.自分の夢に一歩でも近づくことができるのであれば,臆せずに編入学という制度を利用して新たな進路に向かって挑戦してほしい.
桔梗芙美,松原惇高(生化学者若い研究者の会キュベット委員会)
※実験医学2011年7月号より転載