本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)
近年,日本の学会の細分化が進んでいる.日本学術会議および,科学技術振興機構(JST),日本学術協力財団が行った調査によると,生物系学会の数は500近くもある.そのようななか,ブレイクスルーを起こす研究は異分野融合により新たな視点を取り入れたものが多い.例えば,藻類の光駆動性タンパク質の研究から発見されたチャネルロドプシンは,神経科学の分野において非侵襲的に神経細胞を興奮させる方法を提供し,神経科学の大きな進歩に貢献している.細分化された学会で専門性を深めることは重要だが,特に若手のうちには既成観念にとらわれない視点を養うことも必要だ.将来科学を発展させるためにも,学生の段階から,専門分野を問わず同じ生命科学を研究する人たちで集まり,議論やネットワークの形成を行うことが必要なのではないか?
2012年度より,筆者も所属する生化学若い研究者の会関東支部では,生物物理若手の会・脳科学若手の会とともに定期的に合同セミナーを開催している.毎回1つの若手の会が代表となり,研究交流会等を企画してきた.2013年3月に開催した第3回では,当若手の会主導のもと,口頭での研究発表を行った.1つのテーマ(例:ロドプシン)について,各若手の会から1人ずつ講演者を選出し,各分野でどのような方向性(例:分子の動態・機能・応用など)で研究を行っているか議論した.普段学会に参加しても,自分の研究分野・手法にかかわる話に偏ってしまいやすいが,この企画では,1つのテーマを“多方面から議論する”ため,「新たな視点が得られた」と好評であった.また,発表者を含め,参加者全員が若手ということで,素朴な疑問から専門的な質問まで多く飛び交い,質問時間が足りないくらいであった.
一方で,異分野のセミナーや学会では,参加者の多様性が上がるに伴い,考慮すべきことも出てくる.例えば,異分野の人たちが増えることにより,議論の専門性が低下すること,発表者が背景知識のない聞き手にも対応したプレゼンテーションを行っていない場合,発表者にも聞き手にも身にならないことが挙げられるだろう.実際,前述のアンケートのなかにも,専門的でわからない箇所があったという声もあった.もっとも,懇親会で発表者と話すことで解消されたと聞いたので,わからないと思ったらその後,個別に質問をしてみるのも良いかもしれない.合同セミナーでは,専門性が低くとも,科学のなかでの意義を問う本質的な質問が出やすい傾向があると思われる.研究室に籠りがちな学生こそ,このような会に参加して積極的に交流すると,プレゼンテーション能力や研究の問題点の解決策などが得られ,大きく成長できるだろう.
ここで,交流の成果として共同研究に結びついた例を紹介する.生化学若い研究者の会では毎年,生命科学を学ぶ学生・若手研究者が誰でも参加できる「生命科学 夏の学校」を開催している.この夏の学校での出会いをきっかけに,生化学分野と生物物理学分野の学生同士が共同研究を開始し,論文として成果が発表されたことがある.将来,研究に携わりたいと考えている学生は,このように年代が近く参加しやすい若手の会からはじめて,さまざまなセミナーや学会に参加してみるとよいのではないか.学生のうちは研究に専念することも大事だが,たくさんの人たちとの出会いを通じていろいろな知識を得るだけでなく,未来の共同研究者や魅力的な研究テーマに出会うため,フットワーク軽く動き回れる貴重な時期でもある.自分の分野を俯瞰して科学のなかでの自分の研究の位置を知り,将来の研究の基礎をつくるためにも,学生の段階から活動の場を広げてみてはいかがだろう.
馬谷千恵(生化学若い研究者の会・キュベット委員会)
※実験医学2014年4月号より転載