本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)
平成25年度から,日本学術振興会(以下,学振)の特別研究員制度※1の改正が行われていることをご存じだろうか? ポスドク枠での採用 (いわゆる学振PD) に関しては,申請時における年齢制限が廃止されたり,これまで申請が認められていなかった科研費への応募が可能となったりと,多くの若手にとって有益と思われる制度改正が行われている.さらに,現在3年である採用期間を最終的に5年に延長する制度の改正が検討されている※2.われわれ生化学若い研究者の会キュベット委員会は,期間延長に対して若手研究者がどのように考えているのかを調べるためにアンケート調査を実施した.本稿では,その結果などについて紹介する.
アンケート調査は,第54回生命科学夏の学校 (2014年8月) の参加者を主な対象とした.このなかには特別研究員制度に将来申請する可能性が高い学生や若手研究者が多く含まれており,合計77人 (学部生:22, 修士:22, 博士:23, ポスドク+社会人:10) の回答を得た.主な質問内容は,学振PD採用期間延長の可能性に対する①認知度,②賛否,そして③採用期間延長と採択率増加などを比べた場合どちらがより好ましいか,であった.
①の制度の認知度について,検討されている改正の内容を知っていたのは,全体の約2割であった.博士課程の大学院生の幾分かは内容を把握していたが,修士課程以下の学生にとってはほとんど初耳であったようだ.②の採用期間延長に関する賛否については,賛成が約4割,反対が1割であり,残りの約半数はわからないとの回答であった.採用期間が延長された場合,1人あたりに必要な予算が増加すると予想されるため,逆に採択率や採用枠数が低下するといった影響があるかもしれない.このように不安に思う声も散見された.③の質問に対しては,全回答者のうちの約6割が採用期間の延長よりも採択率の増加を希望していた.このことを合わせて考えると,仮に予算が増えるのであれば増枠につなげてほしいと考える人が多く存在することが読み取れた.やはり若手にとって,採択率が低下する可能性については,抵抗感をおぼえることが多いのかもしれない.
学位取得後の若手研究者にとって,学振の特別研究員制度はきわめて魅力的なキャリアの1つである.特別研究員は,日本学術振興会と雇用関係にならないため,同会では社会保険に加入できないことや各種手当が存在しないことを理由に福利厚生に関する不利が指摘されることがあるものの,学振PDへの採用が自身の研究に専念する機会を提供し,若手の育成に貢献していることは疑いの余地がない.そのため,採用期間の延長に際して採用人数が減少するなどトレードオフ関係になる変更がないのであれば,採用期間延長の早期導入が期待される.公募要領を見る限り,平成27年度の採用では採用期間の延長 (先行した4年化) は実施されなかった.平成28年度以降,採用期間が延長されるかどうかは現時点 (2014年11月) では不明である.今後の動きに注目したい.なお,平成28年度以降の学振PD申請資格には,研究室移動ではなく研究機関移動が含まれることになっている.このような公募要領の変更に対応するためにも,今後申請を予定されている方は,自分の申請タイミングに合わせてどのような変更が起きうるかを事前にチェックしておくとよいだろう.
豊田 優,馬谷千恵,杉山康憲(生化学若い研究者の会・キュベット委員会)
※実験医学2015年1月号より転載