[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第87回 “踊る”研究者をめざしてみませんか?ーダンスと科学研究の相互作用

「実験医学2017年9月号掲載」

ダンスと科学研究を関連づけて考えたことがありますか? 両者には接点がないようにも見えますが,私は日本で3年ほどダンスを続けてきて,ダンスと科学研究,さらにダンサーと研究者は非常に似た存在であることに気付きました.

① 創造性:だれも思いつかなかった発見をする喜び,独自に開発した方法で研究を進める満足感,自分がつくったモデル動物が世界中に広まっていく達成感など,研究者の夢の実現には「創造力」が不可欠です.これらをダンサーの立場から考えると,自分のパフォーマンスが観客を感動させる喜び,自分の振付がコンペティションで受賞する達成感,自分の踊りがきっかけでダンスを始める人が現れた時の満足感など,創造力とその実現に似た関係性があります.

② 限界を超える願望:研究者もダンサーも,どこまで深く追及するかは自分自身が決めることです.今よりもっと上手に踊れる,もっと深く生命現象を理解できる,もっと感動させる振付が行える,開発した薬の薬効をもっと強くできる… 毎日自分とのたたかいです.限界を超越する探究心は,研究者とダンサーのエネルギー源だと言ってもいいでしょう.

③ 堅忍不抜の精神:何回も何回も実験して,良い結果が出ない時,「研究が進まない,論文を投稿できない,どうしよう」というシチュエーションを体験している研究者がたくさんいると思います.一方で「何カ月,何年練習しても先生みたいにステップが上手にできない,自分の動きがきれいに見えない,困った」という経験は、すべてのダンサーに共通するものです.困難な状況を乗り越え,最終的に花開くのは堅忍不抜の精神をもった研究者やダンサーだけです.

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ダンサーと研究者の共通点①〜③を踏まえて,研究者がダンサーから学ぶことがたくさんあります.踊ることをきっかけにインスピレーションを得て,研究を発展させた研究者の例として生物学者コンラッド・ウォディントンや微生物学者ジョン・ケアンズなどがあげられます.「エピジェネティクス」という呼称を提唱したことで有名なウォディントンは,イギリスの民族舞踊モリス・ダンスのダンサーでもあり,ダンスのステップを展開していた過程で発生というのはメカニズムではなく,プロセスであると思いつき,発生過程に対する新たなアプローチを見出したことが知られています.

私がダンスを習い始めて感じたことは,実験がダンスに相当し,実験操作がステップに相当するということです.PCRとメレンゲの例で説明しましょう.メレンゲはラテンダンスの1つであり,基本の2ステップか3ステップをくり返して踊ります.音楽などによって基本ステップの数が決まります.PCRでは,増幅したいDNA配列や使用するポリメラーゼなどによって2ステップか3ステップの反応が選べます.それらのステップのくり返しによって反応が進んでPCR産物ができる様子は,音楽とダンスが一体となって紡がれているようです.もっとも,PCRは事実を明らかにするための実験操作であることに対して,メレンゲは感情・意志などを表現する芸術の1つです.研究者の目的は事実を明らかにすることであり,自分の発想力をもとに実験操作に行い,研究を進めますが,研究ばかりに没頭していると逆に行き詰ってしまうことがあります.そんな時,研究者の魂を解放させて発想力を高めることができるのは芸術であると強く思います.そのなかでも,だれでも,どこでも,いつでも,身体一つで実行できる芸術はダンスです.

ダンスと健康について多くの研究が行われています.ダンスをするメリットとして心血管疾患のリスク減少,生活習慣病の改善,ストレスやうつ状態の解消,記憶力・社会活動・自信の向上などが報告されており,身体と精神に対するダンスの好影響は証明されています.さて,一度ダンスに目を向けてみませんか?

Contu Viorica Raluca(国立精神・神経医療研究センター/山梨大学/JSPS特別研究員DC1)

※実験医学2017年9月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 実験医学 2017年9月号 Vol.35 No.14
知られざるp53の肖像
がん抑制/促進の二面性からアイソフォームの機能、標的遺伝子の選択機構まで

大木理恵子/企画
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