本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)
研究者であれば誰でも,論文掲載や学会の招待講演・受賞歴などの業績は喉から手が出るほど欲しいだろう.そんな私たちは,あらゆる“捕食者”に日々狙われている.その1つ「捕食出版(通称ハゲタカジャーナル)」は有名だが,近年これに似たケースで適切な査読をせず参加費を搾取する「捕食学会(通称ハゲタカ学会)」が台頭している.本稿では,ハゲタカ学会とは何か,どのようなデメリットがあるか,そしてどうすれば捕食者から身を守れるかを紹介したい.
ハゲタカ学会の特徴としては,参加者を集めるために無関係な分野横断型の集会を年に数回開くものの,適切な査読や活発な議論を行わないことがあげられる1).ひどい場合は学会を中止し,事前に支払われた高額な参加費(中央値$799)の返金に応じず雲隠れする2).また,論文投稿(多くの場合ハゲタカジャーナル)を勧めたり学会役員に推薦したりし,掲載料や登録料を請求することもある3).このような学会への参加は時間とお金を浪費するうえ,業績になるどころか研究者としての信用を失う可能性がある.ましてや科研費等の公的資金がこのような学会に搾取されると,アカデミア全体の衰退にもつながる.さらに,査読のない不適切な報告が出回ると,“研究者の誠意と信用のうえに成り立つ”科学の信頼性や意義は失われる.したがって,研究者一人ひとりが捕食者から身を守ることが科学の発展に欠かせない.
では,ハゲタカ学会はどうやって研究者に近づいてくるのだろうか.キュベット委員のなかに,論文に載せていた連絡先に学会参加の勧誘メールが届いた者がいる.そこには,あなたの研究は素晴らしい等の誉め言葉や,ぜひ我が学会で発表してほしい等の常套句が書かれていた.このように所属や連絡先を公開せざるを得ない研究者は,常にハゲタカ学会と接触する危険と隣り合わせなのである.
研究倫理観があれば騙されないだろうと思うかもしれないが,著明な研究者が基調講演を行うと偽って安心感を抱かせたり(もちろんそんな講演が実際に行われることはない),正当な学会と似た名称(例:Entomology 2013とEntomology-2013)や開催地を設定したりと,彼らの罠は巧妙だ2).こうした罠に嵌らないためには,勧誘メールや学会HPを入念に確認する必要がある.その際,研究支援組織Knowledge Eが提供する「Think. Check. Attend.」4)に記載されている,ハゲタカ学会の基準を参照することをお勧めする.さらに,10個の質問の回答と学会情報を入力することで学会の信頼性をチェックできる「Conference Checker」4)や,学会の母体が捕食出版社かどうかを調べるのに「Beall’s List」5)を活用するのもいいだろう.
ハゲタカ学会の知名度はまだ低いものの,その数は計り知れず,正式な学会より多いとの報告もある6).本稿が一人でも多くの研究者を捕食者から守ることにつながればと願う.そして,間違っても目先の業績に目が眩んで彼らに近づくことがないよう,今一度自分の良心と向き合ってもらいたい.
萩田彩香,北 悠人(生化学若い研究者の会,キュベット委員会)
※実験医学2021年10月号より転載