[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第152回 説得力のある推薦状とは?

「実験医学2023年2月号掲載」

アカデミックキャリアを歩む中で,幾度となく提出を求められるものの1つが推薦状です.特にヨーロッパ・北米ではあらゆるセレクションにおいて推薦状の内容が慎重に吟味され,採否に大きな影響を与えます.本コラムでは現在,ケンブリッジ大学の博士課程で3年目となる筆者の経験をもとに,説得力のある「強い推薦状」に含まれる要素をご紹介します.

① 客観的な数値が示されている

推薦状の目的の1つは,その人物がどの程度優れているのかを客観的に知ることです.そのため,具体的な数値をもとに記述されている必要があります.例えば,「いつから関係があるのか」「成績/査定は何であったのか」「具体的なアチーブメントは何か」などは客観的な指標として示しやすいです.

② 強みが具体例と共に示されている

推薦状の中ではその人物の強みに焦点が当てられます.単に「とても粘り強い」というだけよりも,「6カ月間の試行錯誤の末に新手法を開発した」と例示されている方が読み手に納得感を持ってもらえます.一方で,華美な修飾語が多用され,具体例に欠けた推薦状は逆効果ということに注意が必要です.

③ なぜそのポジションに見合うかが書かれている

推薦する理由として,なぜそのポジションに見合うのかが述べられていると, 採用後の活動をイメージしてもらいやすいです.これは推薦者が誰であるのかとも関係しており,大学教員の仕事に応募するケースでは,現職の大学教員から「親身になって学生を教育できるし,論文もコンスタントに書ける人物です」というお墨付きをもらえれば,選考する側も安心して採用できます.裏を返せば,どこにでも出せる無難な推薦状ではなく,選考する側のニーズを反映した個別の推薦状こそが真に説得力のある推薦状と言えます.

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④ 別の推薦状を補完する内容になっている

選考する側は「推薦状に書かれていない内容」も見ています.つまり,そこには特筆すべき点がないと推測されることもあります.もしそうであれば多様な面を強みとして提示した方が良いので,複数枚求められる推薦状の間で役割分担をしてもらうのも1つの戦略です.例えば,指導教員には研究能力やモチベーションについて,共同研究者には英語でのコミュニケーションスキルについて,教育活動に注力している教員からはこれまでの講義やメンターシップについて書いてもらうと,そのポジションで求められる複数の能力をアピールできます.

これまでに挙げた4つの指標は「推薦状を書く側」が心に留めておくべきことですが,「推薦状を書いてもらう側」はどのような準備ができるでしょうか? 例えば,「締切りまでに十分な余裕を持たせて依頼する」,「応募先のポジションについて説明する」,「その推薦状に期待する役割を伝える」などのアクションはすぐにでも取り入れられると思います.それでも,最も重要なことは「その分野で信頼される人物と長期間に渡って良い関係を築き,推薦したいと思ってもらえるようになること」という地道な努力に他なりません.もしあなたが強い推薦状を期待するのであれば,まずは目の前の人に信頼してもらえるようなアクションから始めてみましょう.

石田光南(ケンブリッジ大学生化学科)

※実験医学2023年2月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2023年2月号 Vol.41 No.3
皮膚微生物叢
宿主-微生物間コミュニケーションの理解と治療への応用

松岡悠美/企画
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