本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)
博士課程への進学を支援する近年の国策により,学振DC(20万円/月)や大学院プログラム(多くは18万円/月)などから生活費の支援(研究奨励費)を受ける学生が増えた.しかし奨学金とは異なり,これらは課税対象である.年単位で見るとこの額は非常に大きいため,学生は親の扶養から外れ経済的独立を果たす.それに伴い,これまでは親だけが納めていた税金を自らも納めることとなる.では,何税を,いつ,どこに,どのように払う必要があるのか? 本稿ではそんな疑問に答えたい.
経済的な独立を果たすうえで私たちが支払うことになる税金は主に,①所得税,②住民税,③国民健康保険税(料)の3つである.
所得税の金額は,さまざまな収入から経費や控除(収入のうち非課税とされる金額)を差し引いた「課税所得」で決まる.受けとっている収入が給与(学振DC)なら,予測される所得税を雇用者側があらかじめ給与から天引きして税務署に納税する.ただし,複数の勤務先から給与所得がある場合や給与以外の所得(大学院プログラムの多くは雑所得に該当)がある場合は,その額について自ら確定申告する必要がある.確定申告とは,1月1日~12月31日までの1年間で得た所得を国(税務署)に申告する手続きで,例年2月後半から3月前半の期間に行う.申告をもとに税務署が納税額を通知するので,通知に従ってe-TAXやコンビニなどで納付すればよい.マイナンバーカードがあれば,確定申告と納税はオンラインで完結する.
注意点として,研究奨励費以外にアルバイト等でも収入を得ている場合,源泉徴収票など収入額が書かれた書類は,確定申告のために保管しておく必要がある.また,学振DCでは事前に手続きを行うことで,給与の一部を研究経費に計上し,課税対象から外すことができるので検討してほしい.その他にも,医療控除や勤労学生控除,ふるさと納税による控除なども可能な限り利用したい.
住民税は,地域の行政サービス(教育,福祉,救急,ゴミ処理など)にかかる費用を住民が分担して納める税金である.一般的に前年度の収入が100万円を超えると,翌年の6月頃に住民税の請求が届く.学振DCの場合12万円,大学院プログラム生の場合は20万円が1年分の納税額のおよその目安である.原則6月から翌年1月までの間で4回に分けて払うが,口座振替に設定しておけば払い忘れの心配はない.他にも,一括払いやクレジットカード払いなどの納付方法もある.金額や制度は居住地の自治体により異なるので各ウェブサイトも確認してほしい.
日本では国民皆保険制度のもと,すべての人が何らかの健康保険に加入する.研究奨励金を受けている学生は原則,国民健康保険に加入する.国民健康保険は,地方公共団体が運営しており,住民票がある市区町村の役所にて加入手続きし,保険料を納める.これで保険証を入手でき,公的な医療サービスを3割負担で享受できるほか,申請すれば出産育児一時金や葬祭費なども支給される.ただし,加入手続きは自ら役所に赴いて行わなければならず,手続きをしないと保険に未加入の期間ができてしまうので注意したい.保険料は例年6月頃に世帯ごとに通知され,6月~翌年3月の間に10回払いで1年分の保険料を納めることが多い.学振DCの場合は17万円,大学院プログラム生の場合は25万円が年間保険料の相場である.住民税同様,口座振替での納付も可能である.
本稿では,納税を行ううえで最低限必要な情報を紹介した.税金の制度は複雑ではあるが,本記事がこれから納税する学生たちの助けになることを願う.
西田桂,安西聖敬(生化学若い研究者の会キュベット委員会)
※実験医学2023年1月号より転載