[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第172回 こんなにあったんだ!博士後期課程学生の経済支援制度

「実験医学2024年10月号掲載」

近年,日本における博士後期課程(以下,博士課程)への進学者数は減少傾向にあり,今後ますますの研究力の低下が危惧されている.2022年の「博士人材追跡調査―第4次報告書―」によると,博士課程進学者数の増加には「博士課程学生(以下,博士学生)の経済支援」が重要であるようだ.そこで本稿は,学生の経済問題を軽減し博士課程進学を促すべく,日本における博士学生の経済支援制度を紹介する.各制度の詳細を表にまとめてわれわれキュベット委員会のHP上で公開しているため,こちらも合わせて参照されたい1)

研究費+生活費支給制度

優れた博士学生の研究支援や博士人材の養成・確保を目的とし,研究費と月15〜20万円の生活費が支給される制度.研究内容も審査対象であり,申請書の作成はいささか骨が折れるが,支給金が比較的高額かつ研究歴や業績として履歴書に記入できるため,博士課程に進学する者は必ず申請することをおすすめする.

奨学金制度

奨学金制度は種類が多く,支給金が非課税であるなどのメリットがある.日本学生支援機構の第一種奨学金は貸与型奨学金であるが,「特に優れた業績」をあげた学生は,全額または半額が返還免除になる.その指標や採択数は,所属機関の研究科によって異なるため,事務に確認するといいだろう.

大学院の学費免除制度

大学院によっては,学費免除制度や成績優秀者に対する奨学金制度がある.一般的に私立大学は国立大学より学費が高額だが,なかには,博士学生「全員」の学費免除を実施しているところもある.

リサーチアシスタント(RA)制度

研究プロジェクトの推進と教育を目的に,博士学生を研究補助員として雇用する制度.所属機関で独自に募集しているものや,所属とは別の国立研究開発法人などと雇用契約を結び,共同研究を行うものなどがある.

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ジョブ型研究インターンシップ制度

「研究遂行の基礎的な素養・能力をもった大学院生」を対象とした長期(2カ月以上)かつ有給(生活費相当)の研究インターンシップ制度.その成果は,大学院によっては選択必修科目の単位として認定されるうえ,企業のジョブ型採用の選考材料にもなるため,課程修了後のキャリア形成にも役立つ.

制度によっては,申請時に注意すべき点がある.例えば,所属機関を通して申請する場合,申請書提出の締切は財団や受入機関が提示する締切より早いこと,経済状況や学問分野などの申請条件があること,業績を選考材料としていることなどがある.筆者(辰本)の体験談であるが,ネットや学内掲示板を見るだけでなく,所属機関の事務に問い合わせたり,経済支援制度の受給者に直接話を聞いたりしたことで,有益な情報を得ることができた.

2022年度において生活費相当額(年180万円以上)を受給する博士学生は,全体の2割に満たない2).しかし,「第6期科学技術・イノベーション基本計画(令和3年3月26日閣議決定)」において,2025年度までに,生活費相当額を受給する博士学生を従来の3倍に増加(社会人学生を含む博士学生全体の約3割,修士課程からの進学者数の約7割が受給することに相当)するという目標が掲げられ,今後さらなる支援制度の拡充が期待される3).いずれは他の研究先進国のように,わが国におけるすべての博士学生が,学費の無償化や,十分な生活費の支給,充実した社会保障を享受できる日が来ることが望まれる.

文献

  1. 経済支援制度一覧表
  2. 「令和4年度「先導的大学改革推進委託事業」博士(後期)課程学生の経済的支援状況に関する調査研究(概要)」(文部科学省),2022
  3. 「博士後期課程学生支援について」(科学技術振興機構)(2024年8月閲覧)

辰本彩香,嶋貫 悠(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)

※実験医学2024年10月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2024年10月号 Vol.42 No.16
神経から免疫で炎症性疾患を治す!
Neurogenic Inflammationの制御

村上正晃/企画
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