[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第173回 子どもたちが研究者という職業を選ぶには

「実験医学2024年11月号掲載」

「研究者育成」という大きなテーマについて,国レベルの議論は度々行われています.ただ,ここでは政策について話すわけではなく,学会や研究者のレベルでできることについて,普段教育的なイベントに携わっている一研究者の立場から提案できればと思います.

研究者という仕事内容を考えても,ベルトコンベアのような教育システムではなく,むしろ流れに逆らった気概,自ら知りたいことを探すような気持ちを育むことが必要で,小学生から大学生まで,興味をもったときに気軽にその興味の先を覗ける環境を準備することが重要だと感じています.子どもが職業を体験できる施設キッザニアに,菌研究者という職業が紹介されていますが,スポンサー企業の意向か,ピザやソーセージの手作り工房に近い体験になっています.研究者という職業を紹介していただけるだけでたいへん嬉しいのですが,楽しそうにしている子どもたちに真の科学の面白さをもっと教えることはできないかと考えてしまいます.

海外では,Science Day/Weekとして指定した期間に,大学などの各研究機関や学会が一般向けに催しを開いています.その期間に子どもたちは近くの研究機関を訪問し,科学に親しみます.全国規模で行うこともあり,あらゆるニュースに取り上げられ,子どもたちもどこかに参加してみたくなり,研究者の卵が生まれる機会になりますし,一般の方への研究に対する理解にもつながります.これを日本でも普及するには文部科学省の掛け声が必要なのかもしれません.似たイベントはあるのですが,時期がバラバラですので,1年に1回多くの人が研究のことを考える機会をつくれたらと思います.

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「科研費獲得の方法とコツ 改訂第8版」

私が所属する日本免疫学会は,「免疫ふしぎ未来」と「免疫サマースクール」というイベントを主催しています.「免疫ふしぎ未来」は,小中学生を主なターゲットにしており,毎夏に日本科学未来館で開催され,免疫に限らず科学に興味をもつ子どもを増やすことを目的にしています.トークショーも人気がありますが,多くの実験イベントが看板になっており,毎年科学の楽しさを体感した,キラキラと目を輝かせた子どもたちで一杯になります.これは研究者にとっても自信につながり,研究に対する情熱が再燃するよい機会にもなっています.「免疫サマースクール」は,大学生や大学院生を主なターゲットに,免疫学の知識をさらに深めることを目的としています.特に研究の道に一歩進んだ学生に,広い視野をもってもらいながら,シニアの研究者と1:1で話す機会を提供しています.これら2つのイベントを運営側から見ていると,中高生という,進路に悩む世代を対象に何もできていないことに気が付きます.

高校,最近では中学校にも,探究学習という科目があります.研究者育成にもつながる取り組みだと思いますが,中高の学校の先生だけにその負担をかけていいものか疑問に思っています.また,探究学習を支えるため,高校と大学や企業をつなげようとする,いくつかの会社が存在します.しかし現状,そういった取り組みは高校だけではなく,大学や企業にも大きな経済的負担になるため,多くの機関は及び腰になってしまいます.受験や部活で忙しい中高生に科学に触れる機会を公平にどのように提供するのか,次世代の研究者育成における大きな問題点だと思います.

研究者を育成するためには,未就学児や小学生から大学生まで,切れ目のない「機会」をつくる必要があると考えています.それを国任せにするのではなく,学会や研究機関,研究者個人が,後生の育成にかかわれるようなプログラムをつくっていければ,時間はかかりますが,日本の企業やアカデミアの研究力を上げていくことにつながるのではないでしょうか.

常世田好司(鳥取大学医学部生命科学科)

※実験医学2024年11月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2024年11月号 Vol.42 No.18
栄養分子と生体の相互作用 食理学
動態と感知応答を解明し、健康寿命を延伸する

小幡史明,永森收志/企画
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