[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第174回 細胞生物若手の会発足から10年― 未来へとつなぐ伝統と革新

「実験医学2024年12月号掲載」

「君の研究はなしを聴きたい」――この言葉は第1回細胞生物若手の会のキャッチフレーズでした(本コーナー第65回参照).それから10年が経過し,現在では10代目会長の和田匠太,副会長の田口将大をはじめ,30名の学生が役員として活動しています.この節目の年に,本稿執筆の機会を得ましたので,本会の近年の活動について紹介いたします.本稿を通して読者の皆様には,若手の会を少しでも知っていただき,これからの活動への参加や協力,また興味をもっていただけますと幸いです.

2年前にわれわれはある重要な転換点を迎えました.それは当時新しく学会長として就任された井垣達吏先生が「これからは若手の会との連携を深め,細胞生物学会全体を盛り上げていきたい!」という熱いお言葉をわれわれにかけてくださったこと,また細胞生物学会のシンポジウムの枠を若手の会に割り当ててくださったことでした.その熱意に応えるため,われわれはシンポジウムの成功をめざしました.一方で諸々の事情により役員が一新したため,企画・運営に関するノウハウの蓄積があまりない状態からの再スタートを余儀なくされました.

われわれはまず「分野や世代の垣根を超えた将来につながる交流を楽しむことができる会」という理念を作成し,役員全員の方向性を統一しました.その後に少人数のプロジェクトチームを組織し,各個人にタスクを割り当てました.この体制が役員の一新にもかかわらず全体として高い当事者意識を生み,クオリティの高い企画をめざす動きが広がりました.

そのような運営体制のもとで,学会前日の交流会では「質問力」や「研究自動化」をテーマにした企画を開催し,シンポジウムでは「観る」や「創る」のキーワードに沿った顕微鏡や情報科学分野に精通するシニアの研究者,気鋭の若手PIを招へいし,ご講演いただきました.さらに,学生や若手研究者とご講演の先生方のつながりを紡ぐために,聴衆と演者がインタラクティブに交流できる聴衆参加型のパネルディスカッションを取り入れています.このしくみは2年連続で好評を博しており,若手の会らしい企画ができていると思います.

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「科研費獲得の方法とコツ 改訂第8版」

昨年からは新たな挑戦として,博士,修士課程の学生を対象に「細胞生物コロキウム」といういわばミニ学会を開催しています.参加者は学生のみで発表を必須としている点が特徴です.今年度は学部生の発表なしでの参加も認め,最先端の細胞生物学分野の研究に触れる機会を提供しています.またこの企画は細胞生物学会からの後援による箔をつけつつも,同世代の学生だけでざっくばらんに研究の話をしながら,将来につながる交流を楽しむ場を提供しています.これは細胞生物若手の会発足時のキャッチフレーズと通ずるところでもあります.

結果的に好調な再スタートを切れたため,嬉しいことに若手の会の活動に賛同していただける方が増え,新規役員数も増えました.今後は活動の幅をさらに広げていくために,他の若手の会とのコラボレーションを行う予定です.近年では革新的な研究分野を創出するために異分野融合研究の必要性が叫ばれており,これからは異分野の学生と交流し,次世代の細胞生物学を担う研究者を育成する場が大切です.幸いにも来年の細胞生物学会は発生生物学会と共催します.これを機に,まずは発生生物若手の会との融合を図る交流会を行い,細胞生物若手の会の理念を体現するようなわれわれらしい交流の形を模索します.将来的には他の若手の会との交流も増やし,さらに活動の幅を広げていきたいです.

和田匠太(京都産業大学大学院生命科学研究科/細胞生物若手の会),田口将大(筑波大学ヒューマニクス学位プログラム/細胞生物若手の会)

※実験医学2024年12月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2024年12月号 Vol.42 No.19
AIで識別してオミクスで理解する 生体イメージング
複雑すぎる生命機能と疾患の全容をどう解くか

菊田順一/企画
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