[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第175回 大学院生のための「学会の聴き方」講座

「実験医学2025年1月号掲載」

学会は,幅広い分野の最先端の話をその第一人者から直接聴ける貴重な場である.そこで学べる内容を何一つ逃したくないと思うのは,日々貪欲に学び続ける大学院生の性分だ.では皆さんは学会をどのように聴講しているだろう.例えば,もの凄い勢いでメモをとる人もいれば,黙って聴いているだけの人もいる.本稿ではわれわれの聴講スタイルと経験を分析しながら「学会の聴き方」の最適解を探る.

スタイル1:知識を「深める」聴講

話を聴きたいテーマや先生を下調べし,それを掘り下げるように聴講するスタイルがある.あらかじめ心に決めた内容を,予備知識も備えて聴講するため,分野への理解を効率よく深められる.ある程度の知識がすでにある分野を詳しく学ぶのにも有効だ.安西の場合,自分が学びたい内容が特集されたセミナーなどでこのスタイルをとる.このとき,講演内容が再現できるくらいのメモをとって頭のなかを整理している.ただし,見識が極端に少ないときにこのスタイルをとると,時として危うい場合もあるので注意したい.なぜなら,このスタイルでは知識の横の広がりは期待しにくく,ともすれば学びの視野が狭くなってしまうからだ.安西は学会に参加しはじめた頃,自分の研究テーマに直接かかわる演題を選ぶことに固執してしまった.そのせいで対象を絞りすぎて聴講すべき演題を全く見つけられなかったり,今思えば大いに関係があった周辺知識にかかわる演題を見落としたりしてしまった.このスタイルは学習効果がきわめて高いぶん,聴講する演題の選び方にコツがいることを覚えておこう.

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スタイル2:知識を「広げる」聴講

興味の赴くままにまず聴きにいくスタイルである.このとき綿密な準備は必要ない.自分の専門分野と異なる講演でも気軽に聴きに行けるので,思いがけず引き込まれる分野を見出せる.分野の全体像を大まかに掴んでから学びはじめたい人にも推奨される.落合は,さまざまな分野の講演が行われる大規模な学会でこのスタイルをとる.聴講テーマは学術論文やSNSなどの情報をもとに見つける.メモは大雑把にとるに留め,話を聴くことに集中する.注意すべきなのは,予備知識があまりに不足していると講演の面白さを理解できないことがある点だ.落合には,ふらっと参加した講演の内容をほとんど理解できず後悔した経験がある.また,さまざまな内容を1演題ずつ聴いて回っても全体像が掴めないので,聴講するトピックを一貫させるとよい.座長や登壇者がどんな研究者かわかると話題を選びやすいので,はじめは指導教員などに相談するのもよい.

安西は当初スタイル1で聴講していたが,それだけでは限界を感じてやり方を模索し,スタイル2にたどり着いた.一方でスタイル2からはじめた落合は,今ではスタイル1をとることも多い.つまり,両スタイルの特徴と自分の学びの目的を理解し,スタイルを適切に使い分けることが「学会の聴き方」の最適解だといえる.

加えて,聴講による学びの拡充に不可欠なのが,聴講に続く主体的な学びだ.どちらのスタイルで聴講しても,聴講を通じて得た知識を整理したり,演者の論文や関連論文を調べたりして学びを深めるといい.安西の師はこれを「学会の復習」とよんでいた.これによって学会での学びは真に最大化される.メモはそのための大切なツールだ.最低でも演者名や発表のキーワード,可能なら発表内で紹介された文献の情報を押さえておきたい.自分が復習しやすいメモをとろう.

今回は学会の最適な聴き方をわれわれの2つのスタイルから探ったが,スタイルは他にもあるはずだ.自分に合った「学会の聴き方」を確立し,学びの糧としてほしい.

安西聖敬,落合佳樹(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)

※実験医学2025年1月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2025年1月号 Vol.43 No.1
特集1:未だ見ぬ生命原理を描く マルチモーダルデータの活用/特集2:熱産生だけじゃない 褐色脂肪の真機能

鎌田真由美,米代武司,梶村真吾/編
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