[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第166回 質問のキーストーン:大学院生はどんな質問をするべきか

「実験医学2024年4月号掲載」

「君の質問は好奇心だけだね.」──博士課程1年の夏,メンターのその言葉から「良い質問」とは何か,考えるようになった.どうやら,分からないことを聞くだけが質問ではないらしい.例えば筆者は,進捗報告会で自身の主張の弱点や他分野への応用可能性を指摘され,はっとさせられた経験がある.このような,演者の研究の質を高める,あるいは今後のプラスを意図した質問が「良い質問」ではないだろうか.では,どうすればそれを投げかけられるのだろう.そこで本稿では,筆者が見聞きした事例を考察し,良い質問につながるポイントを少しでも明らかにしたい.

まず,質問する

良い質問を狙うと質問のハードルは格段に上がる.しかし,良い質問をするためには,質問しなければはじまらない.いくら頭の中で質問を考えついていたとしても,言葉にしなければ演者に伝わらないからだ.ただし,突然,質問が上手くできるようにはならない.訓練が必要だ.そこで筆者は,大学院生のあいだは少しでも意義を感じたら質問することを自身に課し,都度,改善を試みている.

結果と主張の妥当性を確かめる

「結果Aだけでは主張Bとは言い切れないのではないか」と,データの解釈と主張の妥当性について批判したい.演者が研究発表にのぞむ最大の目的は,研究成果の科学的な意義を主張し,同意を得ることだ.そのために,実験データとその解釈が論理的に構成され,ストーリーとして表現されている.ゆえに,主張の確からしさはそれら構成要素がいかに適切であるかで決まる.そこで,主張は本当に裏付けられているのか精査する.例えば,データを別に解釈できる余地が残されていないか確認したい.

新しい視点から研究を拡張する

「現象Aは条件Bのもとでも起きるか」と,違う観点を演者に示したい.演者は,自身の興味とそれに対応する先行研究に基づいて研究を進めている.一方で,個人が認知できる範囲には限度がある.まして他分野にまで詳しくなるには相当の時間を要するだろう.そこで,質問者が自身の知見から,演者の研究に関連しそうな話題を質問してみる.すると,新たなアイデアの閃きにつながるなど,研究の横の広がりが期待できる.ただし,これの難点はその質問が演者の興味を引き出せなかった場合,単に演者を困らせてしまうということである.その話題を交えた議論の着地点を予想しているか,質問者の力量が求められる.

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今後の展開を予想する

「問題Aの次は問題Bに取り組むのか」と,次のアプローチについて予想したい.研究発表は先行研究から導かれた課題を共有することからはじまる.そして,演者はその課題を解決するために,検証可能な問題に切り分けている.したがって,今回の発表で報告された成果を深く理解すれば,その延長線上にある,根本の課題解決のために必要な次の問題が見えてくるはずだ.それを捕捉し,話題にあげる.すると,演者に発展的な議論を行う機会を提供できる.過去に筆者は,研究の進行において障壁となりそうな点を質疑で話題にあげたことがあるが,それが起点となって多数のアイデアが集まり,最終的に解決策が浮上してきた.

おわりに

以前の筆者は,知らないことを知りたいという純粋な好奇心から質問していた.これは演者の発表を理解することが目的である.一方,良い質問は演者の研究を理解したうえで,さらなる改善点や発展性を提案するものである.例えるなら,査読のようなものかもしれない.さらに,良い質問をすることが演者に資するならば,それは自身の研究を省みるときにも役立つはずだ.双方の利益になることを期待し,今後も良い質問ができるように努めていきたい.

岩村悠真,安西聖敬(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)

※実験医学2024年4月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2024年4月号 Vol.42 No.6
動き始めたゲノム編集の医療応用
免疫再生医療からダウン症治療、異種移植までin vivo/ex vivoでの多彩なアプローチ

北畠康司,犬飼直人/企画
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