キャリアのために レジリエンスと再投稿:ネイティブが教える英語論文・グラント獲得・アウトリーチ 成功の戦略と文章術

レジリエンスと再投稿

あなたは何年もの歳月を実験に費やし,何週間も何カ月もかかる執筆作業にまじめに取り組み,何時間もキーボードを叩いたことだろう.ジャーナルの目的と対象分野に沿って執筆し,「はじめての発見」タイプの体裁で論文をまとめ,そして3つのC〔明瞭さ(Clarity),文のつながり(Continuity),一貫性(Coherence)〕も活用したはずだ.ここ100年余りの間に,出版物のリーダビリティは一貫して低下していることに加えて(Ball, 2017; Plavén-Sigray, Matheson, Schiffler et al., 2017),名詞句の多用によってリーダビリティがさらに損なわれたせいで(De Izquierdo and Bailey, 1998; Levi, 1978),あなたのように多くの人が,リジェクトの知らせが返ってきて心を痛めている.しかも,即座にリジェクトされることもあり,その場合には,修正と再投稿についてのアドバイスもないため,心を込めて書いた原稿を徹底的に書き直さなければならないということを考えると,心が折れてしまいそうになるだろう.だが,このリジェクトをポジティブに捉えよう.まずは,自由な時間など本当はないはずの査読者がわざわざあなたの論文を読んでくれたことに感謝しよう.その時間は,査読者がジムでステアマスター(マシントレーニングの一種)の運動を欠かさずにやっていた時間かもしれないし,子どもと有意義な会話をしながら過ごしていたかもしれないからだ.しかも査読者たちは,あなたやあなたのメンターが見逃した点を指摘してくれる専門家である.慎んで批判を受け入れよう.アクセプトの返事をもらうよりも失敗から学ぶことの方が多いものだ.アクセプトの返事は,あなたがすでに知っていることを強化してくれることはあるかもしれないが,まだよくわかっていないことについて深く考える機会を与えてくれるものではない.リジェクトを学びの機会と考えよう.リジェクトになっても,ここまでやってきた仕事がまったく無駄になるということはない.ライティングの素晴らしいところは,いつでも考え直し,書き直し,修正できるところなのだから,これらをした後にまた投稿すればいい.著者である私たちは2人とも,はじめに書いた論文を完全にボツにして,一から書き直す羽目になった経験があり,さらにその時は,3つのジャーナルの形式に沿って違うパターンのものを作成しなければならなかった.その修正作業が1,200ワードの短い原稿だった時もあるし,26ページにわたる総説を書き直し,さらにその後3回も修正する事態になったケースも経験している.

「馬に振り落とされても,馬のところに戻れ」という古いことわざがあるが,確かにその通りだ.リジェクトされたのが自分だけなどとは考えないことだ.現在,投稿された論文がリジェクトになる確率は,とんでもなく高くなっていて,1960年代から90年代まで論文を掲載してもらえないことなどなかった出版実績の豊富なベテラン研究者でさえも,リジェクトされているのである.査読結果を読んでみればわかることだが,査読者が修正と再投稿を提案していても,編集者が無条件でリジェクトにしてしまうケースもある.あるいは,言及すべきことが書かれていないのを理由に,査読者がリジェクトを進言することもあるだろう.今日の査読者たちは,山のように届くメールに加えて,研究費獲得や論文出版に対するプレッシャーと格闘しているため,この過重労働のせいで,あなたが大切にしている原稿がきちんと審査されない場合もある.だが,編集者にこの事実をメールで指摘しても仕方ない.

そうする代わりに,追加で実験をしなくても解決できることや,自らに締め切りを課して他の適切なジャーナルを1週間で見つけ出すといったことに心血を注ぐべきである.新しいジャーナルの目的と対象分野に合わせるための表面的な修正や,論文の全面的な書き直しといったものからは,どんなことがあっても逃げられないのだということを認識しておこう.特に,高いインパクトファクターのジャーナルを狙う場合には,原稿の体裁を他のジャーナルへ投稿するために転用することは難しくなる.

したがって,今日において論文を書くということは,原稿がアクセプトされるまで,何カ月も何年もリジェクトされ続ける可能性と向き合うこと,と心得ておこう.実際に本書の著者の1人は,2冊目の本を10年もの間リジェクトされ続け,ある編集者には提案を却下する旨がずばり書かれたメールをもらったこともあるが,提案が魅力的かどうかの前に,心理学や神経科学を専門としたイギリス人は単に怪しいと思われたのかもしれない.だが,その提案は最終的に受け入れられ,The Reader’s Brainという本になったのである.

繰り返しになるが,誰の論文であってもリジェクトになる可能性はある.リジェクトになることは,アカデミアや医学・生物学の世界における仕事の一部のようなものだ.研究者に不可欠なレジリエンスを培おう.査読者からの批判は,原稿をよりよくするためのよい機会と捉えよう.そして,すぐに他のジャーナルに狙いを変えて,修正し,投稿するのだ.時間を置くほど,修正や再投稿というタスクが重くのしかかってくるように思えるし,リジェクトによって負った心の傷が広がってしまう.再投稿のプロセスは,過去のリジェクトの傷を癒してくれる唯一のものなのだ.

再投稿の時にはカバーレターを一新して,投稿した論文が,ジャーナルの目的や対象範囲,読者の興味に合っていることを忘れずに書こう.そして,得られた知見の新規性を,Chapter 3で示した成果のタイプに照らし合わせてまとめよう.それができたら,「投稿」のボタンをクリックするのだ.

グラント申請書や論文原稿へのコメントに返答する

医学を含め学術研究をしている大学教員や研究員は,妙な立場に立たされることがある.患者や学生,研修医,研究員,そしてラボメンバーは,立場の違いをわきまえた礼儀正しい挨拶や返事を返してくれるが,匿名の査読者から戻ってきたコメントを見ると,見下されているように感じることだろう.このような礼儀を欠いた対応が横行しているのは,デジタル技術によって生じている距離感が原因となっているのかもしれない.1980年代半ばには早くも,ライティングコースを履修していた学部生が,お互いの文章を遠慮なく批判していることにダグラスは気づいたが,この時ライティングの課題は紙に書いたものではなく,すべてデジタルの形で書くことになっていたのだった.持ち主もどんな過去を辿ってきたのかもわからないバイナリファイルは,文字が滲んだりページに折り目がついたりすることもなく,そこに著者の血や汗,苦労,涙の跡も付いていないのだ.これとは対照的に,査読者や著者を匿名にしたことは,デジタルか物理的なテキストか,という点よりも小さな影響しか及ぼさなかった(Douglas, 1994).また査読プロセスと同様に,定期刊行されているThe New York Times誌やEconomist誌といったメディアのコメント欄には,面と向かっては言わないような不愉快な投稿が,日常的に寄せられている(このようなコメントをする人たちにピッタリの表現として,トロール(troll)という言葉がある(Oxford English Dictionary, 発行年記載なし).伝説の中のトロールは,橋の下や洞窟の中に潜み,旅人が油断する瞬間を待って襲いかかるものだが,それは背丈がかなり小さいために,このようにせざるをえないからである).

現在では,原稿を即座にリジェクトするか,条件付きでアクセプトにするジャーナルが昔よりも増えている(Akre, Barone-Adesi, Pettersson et al., 2010; McCook, 2006).条件なしで論文がアクセプトになるようなことがもしあれば,お祝いとしてチームを飲みに連れて行くぐらいは考えてもいいだろう.専門分野の主要な研究者と仲良くファーストネームで呼び合っているボスが運営していて,潤沢な資金を持っている基礎研究のラボであったとしても,このような幸運に巡り合うことは滅多にないからである.そしてジャーナルは,2000年代のはじめから次第に,データとして含めなければならない部分が省略されていることを見つけたような場合には,論文を即座にリジェクトするようになった.だが,恐れることはない.査読者のコメントに返答するためのさまざまな武器を持っているのだから.

1.即座にリジェクトされても抗議してはいけない

たとえば,糖尿病に関するジャーナルの査読者や編集長が,小見出しも使ってしっかりと書いた家族性の部分型リポジストロフィーについてのセクションを,理解できなかったとしよう.だがこのような読み手は,審査の過程で論文を流し読みしかせず,しっかりと読み込むようなことは滅多にない.読んで頭に残っていることがそのページに実際に書いてあるかどうか確かめるために,評価していた原稿のページを繰り戻したりすることはないのである.あなたの論文を酷評したことを思い出させても,そのジャーナルの編集チームは誰も喜んでなどくれないのだ.

2.査読者からきた疑問や反論については,感謝するとともに細かいところまで対応する

たとえ喜びを爆発させるような気分では到底なかったとしても,少なくとも2つないし3つ,具体的な感謝の言葉を述べるところから書きはじめよう.その後は,各査読者のそれぞれのコメントに対して,短いパラグラフか,あるいは1〜2行で対応を書いていこう.すべての査読者のコメントをまとめて行ごとに対応を書いていき,最終的に論文全体が網羅されるようにしてもいいが,その場合には,査読者から指摘された箇所が含まれるページ,パラグラフ,行が明確になるように指摘や要求事項をコピーしながら書いていくのがいいだろう.NIHのグラントでは,再提出の時に,前回の査読の際に受けた主な批判についての対応を1ページにまとめるように要求される.ここでもまず,この機会をありがたいものだと考えて,査読者が時間と知恵を使って批判をくれたことに感謝しよう.そして,3つか4つの重要な指摘を選び,これらについて修正版ではどのように直してあるのか,簡潔に査読者に説明するのである.論文の場合は,スペースに制限があるわけではなく,査読者も各指摘点について注意深く対応することを期待しているので,コメントごとに返答を書いていく方が適している.対応が難しいのであれば,論文を同じジャーナルに送り返すようなことはやめ,代わりに他のジャーナルに投稿するべきだ.ただし,さらに実験をしなくても修正できるコメントについては利用しよう.

論文の修正の場合,査読者の個々のコメントに対して,まず回答レター(rebuttal letter)の冒頭で大まかな対応を書き,その後で,それぞれの指摘に対して行った修正とその根拠を挙げながら,コメントごとに回答していくという書き方にすることもできる.たとえ,指摘部分に関する査読者の考え方と,あなたが実際に修正すべきと思った方向性が食い違ったとしても,修正するにあたって根拠としたことがらが,査読者の指摘や反論に部分的にでも答えるものとなっているか確認しよう.残念なことに,査読者が自分の審査した論文の修正版を受け取ったり,弁明を読んだりした場合に,どのような心理状況になるかについてはあまりよくわかっていない.ただ,無能なあるいは単に注意力の不足した査読者のせいで日の目を見ることがなかった論文もあることを考えると,査読者の心理を知ることはなかなか難しいのである.

3.変更するように指摘された点については原稿に反映させられなかったとしても網羅すること

善意でしてくれた指摘に必ずしもしたがうつもりがない場合でも,修正版を作るにあたっては,すべてのコメントについて,なぜ修正したのか,あるいはしなかったのかという根拠を提示しなければならない.このようにしておくことで,苦痛に感じるほど遅い査読プロセスを,少しでも早く進めるための道筋を作ることができるのである.査読プロセスの遅さに関しては,「のろい(glacial)」という言葉が思い出される.しかし近年,氷河(glacier)は大変な勢いで動き,縮小し,消失しており,そのスピードは投稿された論文がアクセプトされて印刷されるまでの速度よりもよっぽど速くなっている.

4.前向きに捉える

査読者の指摘に回答する詳細な返事を送り返して4カ月音沙汰がなければ,原稿がどんな状況にあるのか,編集長に問い合わせてみよう.弱気になることはないが,すべてが何の問題もなく進行していると考えてもいけない.この場合まずありそうなのは,論文が迷子になっているということだ.本書の著者の1人は,9つのジャーナルで編集委員を務めていた時,ある論文の行方がわからなくなった.その論文の著者は,批判を恐れるようにおそるおそる問い合わせてきたが,その時にはすでに最初の批判から1年が経過していた.

成功から得られる教訓はことのほか少ない.せいぜい,この戦略はうまくいったとか,このアプローチは失敗だったとかいう程度である.しかし,失敗から学んだことは確実なものであり,それを消化するための時間が必要ではあるが,重要な意味を持つたくさんの教訓を得ることができる.ただ,なぜそのような結果に至ったのか理解するためには,過去にさかのぼってその原因を追求する必要がある.さらに,なぜこのような結果になってしまう可能性に気づかなかったのか,そして,不確実な因子が毎回関与しているにもかかわらずなぜそれを無視してしまったのか,ということについても振り返って分析しておこう.成功が教えてくれることは,今やったようにもう一度やってみればいいということ,あるいは,すでに知っていることがやはり正しかったと確認させてくれることだけなのである.それとは対照的に,失敗から得た教訓は,あなたのそばにずっと寄り添ってくれる忘れられない教師のようなものだ.そして,失敗というものは,終着駅にのみ存在しているものであって,通過駅にはないものであるから,グラント申請や論文が行き詰まっているように思えても,再投稿することによって次の駅へ向けて走り出してしまおう.

著者プロフィール

イエローリーズ・ダグラス(Yellowlees Douglas, PhD)
フロリダ大学のビジネススクール(Warrington College of Business)の准教授で,マネージメントコミュニケーションを教えている.また,以前には同大学のClinical and Translational Science Instituteで教員を務めた経歴も持つ.
マリア・B・グラント(Maria B. Grant, MD)
アラバマ大学で,優秀な眼科学の研究者に贈られるEivor and Alston Callahan記念眼科学寄付講座の教授.30年にわたって医学研究の実績を積み重ね,200を超える査読付き論文を発表し,12の特許を持っている.
ネイティブが教える英語論文・グラント獲得・アウトリーチ 成功の戦略と文章術
ネイティブが教える英語論文・グラント獲得・アウトリーチ 成功の戦略と文章術
Yellowlees Douglas,Maria B. Grant/著,布施雄士/翻訳
2020年07月01日発行
英作文のプロと研究のプロが, 心理学と神経科学に基づいた,成功の可能性を高める書き方を伝授.プライミング効果,初頭効果,新近効果,フレーミング効果などを駆使した,読み手の心をつかむメソッドが身につく!

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