特集にあたって 特集にあたって佐藤雅昭(東京大学医学部附属病院 呼吸器外科) 1学会発表の基本とは? 私自身は医師免許を手にして20年になろうとしています.この間に学会などで数多くの発表の機会をいただき,またほかの人の発表を聴いたり,同僚や後輩の発表を手伝ったり指導をする機会をいただきました.そのなかで,私が今となってはあたり前と思うことも,発表の初心者にとっては必ずしもそうではない,ということにハッとすることが多いです. 研修医の頃に重ねた発表の経験をまとめて「症例報告,何をどうやって準備する? 流れがわかる学会発表・論文作成How To」1)を執筆,メディカルレビュー社さんから出版させていただいたのが2004年,ちょうど15年前です.当時は症例報告を中心に書かれた発表のしかたの本はなく,こんな本があったらいいのに―という思いをそのまま自分で本にしました.これは結構なロングセラーとなり,改訂版は今も売れています.それから時は流れ,最初に私が執筆したころからは,発表のツールも随分変わりました.信じられないかもしれませんが,まだそのころはMicrosoftのPowerPointで発表するのが一般的でなく,35 mmのスライドフィルムに焼いて会場に持っていっていました.だから発表会場に向かう電車や飛行機の中でスライドをつくる,なんて芸当はそもそもできなかったのです. しかし発表の基本は何一つ変わりません.むしろ,便利なツールがこれだけあるからこそ,小手先のテクニックではなく基本をしっかり身につけた発表技術の習得がますます重要と思われます.いま研修医の皆さんが私くらいのキャリアになったとき,発表の形がどう変わっているのか想像もつきませんが,その時代のツールを使いつつも,発表の基本はやはり変わらないのではないかと思います.そしてその基本中の基本とは,メッセージを伝えることであり―そしてそのためには,まずメッセージを自分自身に対して明らかにすることが重要,かつ実はそれが結構難しいことなのです. 2本特集の執筆陣と内容 さて,今回の特集では私自身も一部の執筆を担当していますが,私が所属する東京大学胸部外科の若手のなかでも特に発表に長けた,まさにキレっキレの3名の精鋭(井上堯文先生,唐﨑隆弘先生,柳谷昌弘先生)に執筆を依頼しました.そして返ってきた原稿はいずれも私の期待を大きく上回り,どれも唸らせられる非常にすばらしい内容となっています(こんなことなら私の執筆分もお願いしたらよかった…). 臨床においても学術面においても目覚ましい活躍をしている若手心臓外科医の井上堯文先生にお願いしたのは「テーマ選び」から「データ収集」,「抄録の書きかた」です.これらは,今後皆さんが臨床医として研鑽を積みつつ,さらにレベルの高い臨床研究を行ううえで大いに役立つキホンです.井上先生には,一歩進んだ臨床研究へとつながる内容も追加で書いてもらいました.そして最も重要な「臨床医として丁寧な臨床をすることがよい発表につながる」というメッセージは私の考えでもあり,ぜひ若い先生方には耳を傾けてもらいたい言葉です. 私が担当した「PowerPointの使いかた」,「スライドのつくりかた」,「発表のしかた」―といった辺りは,まぁ正直どこかで書いたことのある内容で新規性はないのですが,それでもくり返し訴えていることであり,若い先生方に身につけていただきたい技術や考えかたばかりを抽出したつもりです.特に「魔法の6行ルール」として示した内容はぜひ徹底していただきたいと思います. 大学院を出て,当科で一番若いスタッフとして活躍中の唐﨑隆弘先生には,超多忙のなか,ポスター発表にフォーカスしての執筆をお願いしました.唐﨑先生は海外の有名な学会で非常に注目度の高いポスター発表をされており,ぜひそのノウハウを研修医の先生方に伝えてほしかったからです.インパクトのあるポスター発表をするのは案外難しく,そうしたことを学ぶ機会も口頭発表ほどにはないと思います. 呼吸器外科の大学院生として,さまざまな研究と発表,論文執筆をバリバリやっている柳谷昌弘先生には「+α」ということで,「自分の発表以外に学会会場で何を考えて何をするか」,「発表をいかにして論文化するか」という,難しい内容を執筆してもらいました.これまた私自身もとても勉強になる内容で,なるほど,そのようにすれば意識も高まり,productivityもあがるのか―と感心させられた次第です. 3読者の皆さんへのメッセージ 今回の特集を通じて,老いては子に従え―ではないですが,次のgenerationが確実に成長し自分を乗り越えていくのを実感しました.そしてさらにその次のgeneration―つまり読者である研修医諸君―には,本特集にある先輩たちからの貴重なメッセージを余すところなく吸収し,次の10年,20年でさらなる発展を遂げてもらいたいと思います.分量としてはそれほど多くはありませんが,ここに書かれていることの大部分は時代が変わっても変わることのないエッセンスであり,臨床医として,研究者として『一生モノ』の内容であると思います. 文献 「改訂版 症例報告,何をどうやって準備する? 流れがわかる学会発表・論文作成 How To」(佐藤雅昭 / 著),メディカルレビュー社,2011 著者プロフィール 佐藤雅昭 Masaaki Sato東京大学医学部附属病院 呼吸器外科